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第155話

 だが。 「遅いと言っただろう」  声は間に合わない。  ボボボボッ、ボボボッ  朱獅子の炎が完全に消えた。 「我、書き換える。根元たる呪いに沈め」  異変を感じ、とっさに張った騎士団の防御結界が砕ける。  ピコーン!  突如、アラームが鳴った。勇者の国語辞典だ。  国語辞典が、かつてない未曾有の異変を告げている。  ページが光って、自動で開く。  〔解呪不能〕  魔力の増幅がけたたましく、他の魔法を寄せ付けない。  これは……  〔絶対神域〕  勇者の国語辞典が伝える。  〔術者以外の魔法を強制的に無効化する空間である〕と。  魔族が絶対神域なんて!  しかし今、それは目の前で完成されようとしている。  成功すれば、無敵の禁忌魔法だ。  しかし、高位且つ熟練の聖職者が何十人がかりで、それでも成功率は50%  準備期間を100日要する。  強力ではあるが、戦闘への応用は適さない。  禁忌の絶対呪術をたった一人で、それも一瞬で。 (必要な魔力量を一人で賄っている)  魔力を操作する技術までも持ち合わせている事は、最早明白である。  絶対神域が完成すれば、相国は無敵。  誰も倒せない。  そうなってしまったら…… (騎士団は壊滅)  お兄様だって!  国の存亡すら危うい。 「我、書き換える。深淵に赴き欲するは無明」  相国の声が響く。  時を塞き止める手段はない。

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