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第170話

 床に刺さった羽が揺れた。  野原に咲く蒲公英(たんぽぽ)の綿毛のように。 「粘膜への攻撃……視覚を封じた。狙いも定められないようだな」  相国は目を開けられない。粉々に砕けた剣のせいだ。土と砂煙舞う中で、リッツには羽一本すら当てられなかった。 「問題ない」  床に刺さった羽が揺れた。  さわさわ、さわさわ  羽が揺れている。  今にも飛び立つのを待つかのように……  さわさわ、さわさわ (なに?)  この胸騒ぎは?  さわさわ、さわさわ揺れる羽がまるで生き物のように。  剣は失われた。  しかし、リッツは剣を取ろうとしない。自分の長剣は大破したが、仲間達、騎士団の剣がある。使おうと思えば、いつでも剣を握れる状況なのだ。  なのに、敢えて剣を使わない道を選ぶという事は…… (リッツは剣を使わない方が強い)  徒手空拳が最大の武器だ。  剣や槍は騎士の象徴だから、今まで使用していたに過ぎない。 「紫狼隊は剣と槍の陣形による集団戦術を得意とする。朱獅子隊は炎を使い、一斉攻撃で敵を仕留める」  白鷲隊隊長が声を紡いだ。  どちらの隊も一糸乱れぬ統率が要となっている、と。  まだ起き上がれぬ体で、天井を仰いだ。 「俺達は……」  シャンデリアの灯に手をかざす。 「俺達の空は自由だ」  高く掲げた手を拳に変えた。 「飛べ」

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