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第169話

 天と地が反転する。  空中で身をひねった。頭を床に向けた姿勢で拳を突き刺す。  風が吹き抜けた。 (剣圧ではなく)  拳圧 (剣なしで、こんな事まで)  辛うじて、受け身をとった体が床に転がり込む。壁に激突し、土煙が立ち込めた。 「……お前、雑すぎ」 「すみませんっ、先輩」 「隊長をクッション代わりにする後輩なんて、前代未聞だ。終わったら腕立て100回な」 「はい」  口は悪いが、身を挺して白鷲隊隊長がリッツを守った。 「腕立ては祝杯の後でお願いします」  パンッ  隊長とリッツ、二人が拳と拳を合わせた。  壁への直撃を避けたリッツが立ち上がる。 「羽虫は小細工が好きとみえるな」 「獅子搏兎(ししはくと)だ」 「どちらが兎か?」 「聞きたいか?」 「無用。羽虫が兎を名乗ったところで大差ない」  地響きが揺るがした。  僅か一瞬。身動きすらできなかった。  無数の羽が床に突き刺さっている。地響きを起こしたのは、この柔らかな羽一枚一枚なのか。 「《愚神礼賛》(ぐしんらいさん)」

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