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不憫な受けが幸せになる話
黒髪赤目の人間はかつてこの国を滅ぼそうとした魔族の生まれであると言われている。だからこの国では忌み嫌われ、酷い扱いを受ける。けれどもそれは、仕方がないことなのだ。幸福なんてものは真っ当な人間のものなのだから、はなから望んではいけないのだ。
「ホラ!!!!!もっとけつ締めろ!!!!!!ただでさえ役に立たねー売れ残りなんだ、せめてオナホとして役に立て!!!!!!」
バシッバシッ!と幾たびも容赦なく叩かれた尻は、真っ赤に腫れ上がり、毎日のようにペニスを突っ込まれ切れても治る間も無く犯される肛門は、絶えず血が滲み出している。
「オ"ア"オェッグホッゲホゲホゲホ!!」
苦しげな喘ぎ声とともに明らかに尋常ではない咳をする少年をお構いなしに、奴隷商はひたすら乱暴にピストンすると射精し、そのまま少年を投げ捨てるように離す。
カチャカチャとズボンを履くと、牢屋に置いてあったバケツに入った冷たい水をバシャンと少年にかけた。
「うぐっ……!ゲホゲホゴホッ…………。」
力なくぐったりと横たわる少年を見てため息をついた。
「そろそろコレも終わりか?まあ高い買い物でもなかったし結局売れなかったしなぁ。」
前髪をガッと掴み少年の顔を見る。その目の焦点は合わずかつ高熱が出ていることは明らかだ。この分なら明日までは持たないだろう。ならいつものあの人に売り払うか。
「黒髪赤目に生まれたことを呪うんだな。」
手を離すとバシャンと冷たい水溜りの中に少年が落ちる。そのような状態であるにもかかわらず、奴隷商はそのまま牢屋を出ていってしまう。なんせあの人が欲しがるのは死体なのだ。生きていても売れないのだからしょうがない。さっさと売り払っちまおう。そう考えて足早に奴隷商は立ち去った。
残された少年はガクガクと水溜りの中で震えながら、絶えず咳をしていた。水たまりから這い出す力ももう彼には残っていない。どこに逃げたら良いかもわからないのだ。なぜならしばらく前から目が見えてはいなかった。赤い目が気持ち悪いと言われ売れ残った日に、奴隷商に殴られたのだ。あたりどころが悪かったのだろう、日に日に視力は衰え、とうとうその目が光を宿すことはなくなってしまった。ここ数日は激しい咳が止まらず、脇腹に激痛が走っていた。おそらく咳のしすぎで折れているのだろう、少年の脇腹は青くアザが出ていたが、その細い体のいたるところにあるアザと混ざり格段目立つことはない。けれども行為のたびに激痛が走り、痛い痛いと涙を流していたが行為がやめられることはなかった。それどころかうるさいとさらに酷い目に遭うことがほとんどであった。
肺炎にかかっているのであろう体は、高熱が出ているのにひどく寒かった。近頃は服を着せられることもなく裸で転がされ、水をかけられていたため回復するはずもなく、いずれこのまま死ぬのであろうことは少年にもわかっていた。けれど、朦朧とした意識の中で死を待つことだけが彼にとっての唯一の希望であった。
「ゲホゲホゲホッゴホッ!ゼー、ゼー、ぜー……。」
徐々に息苦しくなり呼吸も絶え絶えになる。
やっと死ねるのか……。
冷たい暗闇の中で安堵する。
幸福なんて望んでいない。
彼がひたすらに切望するのは、安らかな眠りであった。
チャリ、と金貨の入った袋を受け取ると奴隷商はその恐ろしい場からそそくさと逃げ返す。お得意様でありながら、死体だけを買うこの人間と会話を交わしたことは一度もない。死体がどう使われているのかも知らなかったが碌でもないことに違いない。なるべく踏み込まないに限る。
足早に立ち去る奴隷商を気にも止めず、ローブを深く被り顔を隠した人間は死体袋を担ぎ上げた。そして壁に向かって歩く。壁に激突するかと思いきや、魔法陣が現れ、人間を目的の場所へと運んだ。
聳え立つ何層にも重なる塔。ここは、魔法の研究者たる魔術師たちの集う魔塔である。その研究者の一人であるエトワール・カルムはいつものように買い取った死体を自らの研究室の台へと置いた。そしていつものように死体袋を開き、中身を取り出して横たえる。いつもと違うのはその死体が、まだ僅かに呼吸していたことだった。
「生きてる……?」
虫の息ではあったが、今日買い取った死体はまだ息をしていた。カルムは解剖台から少年を抱き上げると自らの寝室に向かいベッドへ横たえた。解剖台は死体を乗せるところであり、生きた人間はベッドに乗せなければならない。
まじまじと少年を観察する。人体に関してはカルムの得意分野だ。
この世界の魔法は大きく分けて7種類の属性がある。木・火・土・金・水の五大魔法と、それから光と闇。ほとんどの人間が五大魔法のどれかしらの属性を受け継ぐが、稀に光と闇の属性を持つものが現れる。光属性は基本的には王族と決まっているが、闇属性は非常に稀で平民には現れないが貴族の中で持つものがいる。カルムもその中の一人で、子爵家であるエトワール家の生まれだ。
希少な闇魔法使いは、幼い時に親元を離れて魔塔で暮らすことになっている。カルムも幼い頃から魔塔で暮らし、そのまま魔法の研究者として自らの闇魔法を研究している。魔塔の目的はそれぞれの得意魔法を研究し、一般化することによって多くの魔法使いにその術を伝えることにある。
カルムは人体魔法を得意としていた。これは人体を自分の意のままに操ってしまう闇魔法の一つだ。カルムは人体を研究することによって人体の構造自体を作り変えてしまう魔法さえも生み出したほどの実力者であった。
「高熱……骨も折れてる、いろんなところが……衰弱してるから、死んでもおかしくない……。」
生きている人間の肉体を無理やり変えることは、相手に負担が大きくなってしまう。一部だけならまだしも、今この状態で全てを魔法で治して仕舞えば、この小さな心音は動きを止めるだろう。魔法は決して万能ではないことを、カルムはよく知っていた。そのため、無理に魔法で治そうとはせず、徐々に回復させてやろうと思い至る。
「まずは服……熱を下げる……温める……。」
ぶつぶつと言いながら、道具を探し出すカルムの姿はどこか楽しげですらあった。
暖かくて柔らかい。痛みも、苦しみもない。ここが安寧の地かと思うと涙が溢れてきた。やっと死ぬことができた。
高熱で不明瞭な意識の中で途切れ途切れに呟かれる言葉にカルムは顔を歪めた。
少年の涙を拭ってやると、自らの無知を恥じる。
カルムは魔塔を出たことがほとんどない。だから外の世界を知らなかった。供給された死体がどんな扱いを受けていたのか。考えることさえカルムはしなかった。
痛い、苦しい、死にたいを繰り返す少年を前にするまでは。
今までの死体にも程度の差はあれ暴行の痕はあった。それに無関心を貫き通したのはカルムの罪だ。
「……もう大丈夫……大丈夫だよ……。」
痛みを麻痺させて和らげる魔法を使いながら頭を撫でると少年は安心したようにスースーと眠りについた。
何度目かの山場を超えて、高熱も下がった頃、少年は目覚めた。目覚めたと言っても、その瞳は光を宿すことはない。意識を取り戻した少年は、死ねなかったことにひどく絶望し、錯乱した。嫌だ、嫌だと叫びながらカルムに触れられるのを拒む少年を、抱きしめ、耳元で「……もう大丈夫……大丈夫だよ……。」と囁いた。その言葉に安心したのか、少年は嗚咽を漏らしながらも大人しくカルムの腕の中におさまる。その様子に安堵しながら、奴隷商から少年を買ったこと、酷い怪我と病気を治療をしていること、そして何より少年が嫌なことは絶対にしないことを約束すると少年は力なく頷いた。
「君……名前は……?」
そう問いかけると少年は首を横に振った。
「ない。奴隷だから。」
奴隷落とされると、その名は奪われてしまう。ペット同然の扱いになってしまうのだ。
「前に呼ばれていた名前は?奴隷になる前。」
しばらく思案したのちに思い出したかのように呟いた言葉を聞いて、カルムは唇を強く噛み締めた。彼が呟いたのは汚物を表す言葉で、彼が以前からどのような扱いをされていたのか想像するに容易かった。
「……レグルス。君の名前……今日から……。」
そう伝えると少年はこくり、と頷いた。
レグルスに対して、カルムは甲斐甲斐しく世話をした。嫌なことは絶対にしないという言葉通り、何をするにもまずレグルスに説明をした。困ったのは尻の穴に軟膏を塗るときであった。
レグルスが何をされていたのかわからないほどカルムも純粋なわけではない。カルム自身そういう経験はすでにある。手酷く扱われていたのであろうそこは、痛々しく腫れ上がり、排泄のたびに痛みを与えていた。治すためには軟膏を塗る必要があったが、そこに触れるということはそういった行為を思い出させるだろう。丁寧に説明しなければ……!と覚悟を決めてカルムはレグルスの前に座った。
目が見えないながらも、最近は慣れてきたようで近づいてきた人の気配に「カルム?」とレグルスは言って音のする方を向いた。
「……レグルス、聞いて……今からすること……嫌だったらしない……。」
「何?」
首を傾げるレグルスの手を握って説明する。
「お尻……軟膏塗りたい……僕の指で、内側まで塗りこんで……。レグルス痛そう、だから、治すために……。でも嫌なこと思い出すかも……。」
ピク、とレグルスは反応し、しばらく考えたのちに首を横に振った。
「……カルムなら大丈夫。」
その言葉を聞いて安心したカルムはレグルスをベッドに横たえると軟膏を取り出した。
「ズボンと下着……脱がせる。」
「うん。」
顕になった下半身にはまだ行為でひどくつけられた傷が至る所に残り痛々しい。
「お尻……触るよ……。」
その真っ赤に腫れ上がった窄まりに軟膏を取った指をつけると行為を思い出したのか、レグルスは震え上がり錯乱した。
「ひっ……!嫌だ!いや!やめて……!」
その様子を見てすぐに手を離すと、カルムはレグルスを抱きしめ、耳元で「……もう大丈夫……大丈夫だよ……。」と優しく囁いた。レグルスにとって、その言葉が安定剤となっていた。すぐに落ち着きを取り戻し、はあっはあっ!と呼吸の乱れるレグルスを後ろから抱きしめて頭を撫でながら、
「ごめん……まだ早かったね……もうしないから大丈夫……。」
と慰めた。
「……このまま、」
「え?」
「このまま、大丈夫って言いながらしてほしい……。」
「……わかった。」
後ろから固く抱きしめながら、再び軟膏を塗った指をレグルスの後孔へと近づける。触れる瞬間に耳元で囁きながら。
「……もう大丈夫……大丈夫だよ……、君に触れているのはカルム……何も怖いことはしない……。」
グチュリ……と水音が立ち、穴の中へ指が差し込まれる。
「あっ……んっ……!」
ビクビクビク!と腫れ上がりさらに敏感になっているそこに触れられて思わずカルムにしがみつく。カルムの温もりがそこにはあり、自分に触れているのがカルムだと思うと、恐怖は一切感じなかった。
「……痛い?」
「うん……ちょっとだけ……でも、」
言いかけて口をつぐむ。奴隷市で散々暴かれた穴は、少しの刺激でも快楽を感じ取れるようになっていた。
レグルスが言いかけた言葉の先がカルムにはわかった。なぜならレグルスのペニスは先ほどの刺激でわずかに膨らみを見せていたからだ。
「続けても……いい?」
問いかけると、レグルスは恥ずかしそうに頷いた。
グチュ……グチュ……。軟膏を全体に塗り込むために指を動かして穴を弄る。奥の方まで傷がついていないか丁寧に丁寧に確認しながら探るようになぞると、フゥッ!フゥッ!と小さな声をあげて、レグルスはその甘い快感に耐えていた。レグルスのペニスはすっかり立ち上がり、彼が感じていることを伝えている。
「……気持ちいい?」
その姿に愛しさを感じながら聞くと、恥ずかしがりながらもレグルスは頷いた。
「ごめんなさい……。」
「どうして……謝る……?悪いことじゃない……。気持ちよくなるのは……良いこと……。」
軟膏を塗り終えて指を抜くが、昂ったままのそこをそのままにしておくのは同じ男として辛いだろうと感じた。何よりも、もっとこの子を可愛がってやりたいという気持ちが湧いてきていた。
「塗り終わった。……でも、レグルスのペニス、立ってる、から……アナルの中の気持ち良いとこ……前立腺というところ……と、ペニスを触って……優しくごしごしして……気持ちよくしてあげたい。嫌……?」
嫌なことはしないという言葉通り、丁寧に説明すると、レグルスは小さく首を横に振った。
「カルムになら……されたい。」
その言葉を聞くと、カルムは再び耳元で大丈夫だと囁きながらレグルスのアナルに指を挿入した。先ほど見つけていたが触らないようにしていた膨らみ……前立腺を優しく押すとびくんびくん!と体が跳ね、その口からは気持ちよさそうな喘ぎ声が漏れる。
「アッッッッ♡♡♡んっあんっ♡ウッ♡♡♡アッ♡♡♡」
可愛らしいその様子にカルム自身も勃起し始めるがレグルスに悟られないように腰を離す。そしてもう片方の手でレグルスのペニスを扱き始める。とんとんとん♡と前立腺を刺激し、シコシコシコ!とペニスを擦ってやれば、あっという間にレグルスは絶頂を迎える。
「アッ♡♡♡なんかクる♡♡♡!!!!!アッアッアッ♡♡♡♡♡アッーーーーーー♡♡♡♡♡!!!!!」
ドピュッ!!!と勢いよく精液が噴射され、レグルスの腹を汚した。絶頂の波に体をビクビクと震えさせながら、自らの腕の中におさまるレグルスが落ち着くまで抱きしめてそばにいる。レグルスが落ち着くとベッドに横たえて、タオルで体を拭いてやる。そしてそのまま服を着せると、眠るように言った。
「……もう大丈夫だからね。」
毛布を肩までかけてやると、射精の気だるさもあったのであろうレグルスは、すぐに眠りについた。
寝室を出て、シャワー室に向かう。乱雑に服を脱ぎ捨てると、カルムのペニスははち切れんばかりに勃起していた。手には先ほどレグルスの精液を拭い取ったタオルが握られている。そのタオルに鼻を押し当てて精液の生臭さを感じ取ると、先ほどのレグルスを思い出して興奮した。レグルスにやった時とは打って変わって、雑に自身を扱く。あの可愛らしい窄まりに、自らを突っ込んでめちゃくちゃに突いてやりたい。中に精液を出し、今までの男たちを上書きしてやりたい。その瞳に僕を宿し、好きだと言わせたい。
激しく扱かれたペニスはすぐに絶頂を迎える。その瞬間に思い出したのは、死体袋から出したときの、死体同然のレグルスの姿であった。
「……なんて浅ましいんだ、僕は!」
思わず壁を殴る。これでは彼をあんなふうにした奴隷商と何ら変わらない。頭からシャワーの冷水を浴びながら、イラついた気持ちを抑えることは出来ず、このイラつきを発散させるために外に向かうことにした。
その日、奴隷に不当な扱いを強いていた奴隷商が一つ消えたことは、レグルスには知る由もなかった。
傷もほとんど癒えて元気を取り戻し、レグルスはカルムの手伝いをするようになっていた。盲目ながらも器用に掃除や雑務をこなす姿はいじらしく、そもそも魔族に対して嫌悪感の薄い変人の集まりである魔塔の同僚たちからも、次第に可愛がられるようになっていた。
「あの子の目、治してやらないのかい?」
君になら朝飯前だろう?と、青い髪をハーフアップにし、片眼鏡をかけた男……フロウは頬杖をつきながらカルムに尋ねた。
「目……治す、嫌がる。もう苦しい世界は……見たくないんだって……。嫌がること、したくない。」
最後の言葉だけははっきりと話すカルムを見て、長い付き合いであったフロウはおや?と眉を上げる。そもそも生きている人間にレグルスがここまで執着を見せたのが初めてのことである。フロウは内心ガッツポーズをした。
「心の傷か〜。カルムは人体は治せても心は専門外だからなぁ。」
ぽんぽん、と慰められるように肩を叩く。
「傷が空いたなら、その分別のもので埋めてあげるんだ。心を埋めるものは……そう!愛!」
グッと拳を空に突き立てるフロウを、周りの同僚たちはハラハラと見守る。
(室長がまた暴走してる……)
(カルムが玩具にされてる……)
(がんばれ!カルム!)
「……愛……。」
困ったように呟くカルムの肩をバシバシ叩きながらフロウはウインクする。
「まあ、俺たちに任せなさいって。」
しばらくしてカルムの元へと届けられたのは、魔塔の者たちの叡智を結集して作られた、「エッチな気持ちになる薬♡」であった。要するに媚薬である。
カルムは頭を抱えて天を仰いだ。比較的世間知らずのカルムにも、これはわかる、そういうことじゃない、と。
悶々としていた彼の元へとレグルスが近づいてきた。
「何をもらったんですか?」
先ほど部屋に来た魔塔の同僚の会話を聞いていたのであろう、興味津々と言った様子で声をかけてくる。盲目の少年は両手を伸ばしながらカルムを探す。カルムはその手を握り、自らの体へと誘導する。レグルスはカルムを見つけるとそのままギュッと体に腕を回して抱きしめた。
しばらく思案したのち、仕方ないと諦めて正直に話すことにした。間違えて飲んでしまっては大変だからだ。
「気持ちよくなれる薬……媚薬……。室長の悪ふざけ……。」
事の顛末も、包み隠す話した。カルムの瞳を治してやりたいと、心の傷を癒してやりたいということも。
「空いた傷の心を……埋めるのは愛だと……。人の体のことはわかるけど……、人の心のことはよくわからない……。でもこれは違うと思う。」
手に持っていた媚薬がチャポンと揺れる。その音の方向へと手を伸ばして、突然レグルスはその瓶を奪った。
「何を……!?」
「……あながち間違ってないかもしれません。」
そのまま栓を開けると中身を飲み干してしまう。
「こら!!!」
慌てて吐き出させようと近寄ったカルムの頭をガッとつかむとそのままキスをして口に残った媚薬を流し込む。舌を絡ませられ思わず飲み込んでしまったそれは、何かしらの花の香りがして思ったよりも爽やかで飲みやすい味だ。
そんなことよりも!
「今解毒……するから!」
レグルスの服を開き、胸に手を当てて媚薬成分を取り除こうとするも、ブォン!と音がして魔法陣が現れる。魔法陣の中心に刻まれた蛇の紋はフロウの術である証拠だった。
「魔法防御が……組み込まれてる……!」
くそ!と苛立ちを隠しきれず吐き捨てた唇を、キスで塞がれる。
「ん……♡あふ……♡カルム……もっと……♡」
媚薬のせいか、その刺激ですでにカルムの息子は勃ちはじめている。
「待って……だめ……。これは媚薬のせいだから、こんなことは……よくない。」
「……気持ち悪いですか?」
「え?」
レグルスは体を離すと、俯く。
「この魔族みたいな見た目が、気持ち悪いですか……?それとも、たくさん男に抱かれたこの体が気持ち悪いですか……?この体は醜いですか……?カルムがどんな顔をして俺を見ていたのか、俺は、俺はわからない……から……!」
ポロポロと涙を流すレグルスにカルムはハッとする。彼にとって見たくない世界というのは、僕だ。僕自身が彼の傷になっていたのだ。
「違う、レグルス……違うんだ。……見られたくなかったのは、僕の方……。」
レグルスの手を握るとそれをそっと自らの股間に持っていく。そしてその膨らみを触れさせる。
「これ……何かわかる……?」
「え、それはその……!」
「僕の……ペニス、君に興奮してこんなに……固くなってる……。」
「でもそれは媚薬の影響で!」
「違うよ、ずっと……君に触れるたび、犯したくてぐちゃぐちゃにしたくて、たまらなかった……君をこんな風にした男たちと……何ら変わらない。こんな浅ましい僕を……君に見せたくなかった。」
そう言って体を離して立ち上がる。
「……僕は向こうで……処理をするから……。君も落ち着いたころ……誰かを呼ぶよ……。僕は、いない方が良い……。」
そう言って立ち去ろうとするカルムの背中に、涙交じりのレグルスの声が響いた。
「行かないで、カルム……!俺はカルムが良い、ずっとカルムに抱かれたかった……!」
グスッグスッと泣きながら両手を伸ばしてカルムを探す。その手はカルムに届くことはなくて、何度も何度も空を掴んだ。それでもひたすらカルムの名を泣きながら呼び続ける少年の腕の中にとうとうカルムは飛び込んだ。
そのまま掻き抱くように抱きしめる。
「ごめん……もう大丈夫……大丈夫だよ……!」
「うん……!」
涙を流しながらカルムの言葉に安堵する少年を見て、心を決める。
「君のことを……抱いても良い?」
「もちろん……!」
カルムはレグルスを抱き上げると、ベッドへと向かった。
服を脱がせ、ベッドにレグルスを横たえると、まじまじとその体を観察する。
「熱はない……骨も折れてない、いろんなところが……元気になったから、ちゃんと生きてる……。」
胸に耳を当てると、トクン、トクンと心臓の動く音が聞こえて生を実感する。そのまま優しく胸に触れた。
「このまま……乳首に……吸い付いて舌で舐めたり……噛んだりしたい……良い……?」
「ど、どうぞ……!」
「舐めるね……。」
そう宣言するとカプ……と乳首を軽く口に含む。そのままちゅっちゅっと吸い付いたり、舌で転がしたりして刺激を与えつつ、片方の手で優しく乳首を撫でてやる。
「……どんな感じ……?」
「うーーーなんか、むずむずして……初めて触られたのでわからなくて……!」
「そう……初めてなんだ。……嬉しい、僕が、初めて、君の乳首を……可愛がってる。」
優しい動きから激しく乳首を虐めるように摘んだり甘噛みしたりするようになると、すこしずつ甘い声が漏れ出していた。
「やっ♡んっ♡んっ♡なんかっ♡お尻が切なくてっ♡♡♡」
男に散々抱き慣らされたそこは、ピンク色にふっくらと腫れてひくひくとひだを開け閉めしながら男を誘っていた。
「ごめんね……焦らしすぎるのも……つらいよね……もう、アナルに触っても良い……?」
すでにカルムのペニスは限界で、ずっと我慢していたせいでダラダラと溢れた先走りが下着を濡らし、不快感を高めていた。けれども、レグルスの身体の準備が整うまでは絶対に入れないと決めていた。
「うん、触って……♡」
肛門を再び傷つけないように、軟膏を取り出すと、穴の様子を確かめるように指で全体を掻き回す。少しでも治っていない傷があればやめようと思っていたカルムの思いも虚しく傷は綺麗さっぱり治っていた。それどころか、レグルスは甘い声をあげ、
「もうっ♡入れて♡入れてよぉ!♡♡♡」
と懇願し、さらに縦割れアナルはパックリと開き、太いちんこを早く差し込んでくれとばかりにひくひくと指を飲み込もうとする。
その姿に辛抱たまらず、自らの服を乱雑に脱ぎ捨てると、中心の高まりを軽く扱いた。
「今から……このペニスを……君の中に入れて……ぐちゃぐちゃにかき混ぜて……君を気持ち良くしたい……良い……?」
レグルスの両手を握って自らのペニスに触れさせる。今から入れるのはこれだと、これから自分が雌にする男にわからせるために。
「ひゃっ……!これが、俺の中に入ってくるの……?」
「そう……嫌なら入れない、レグルスの嫌なこと、しない。」
「ううん、違うの。嬉しい……♡カルムの立派なおちんちん、入れてくれるの嬉しい……♡」
そう言うと、両手でカルムのペニスを持ち、自分の穴の入り口に当てる。
「来て……♡」
「うん……入れるよ……。」
ぐっと力を入れてペニスの先端がアナルに飲み込まれる。しかしその瞬間、犯された日々がフラッシュバックして、体がガクガクと震え出した。
(違う、今抱かれてるのはカルムなのに!カルムのことを拒絶したくないのに!)
必死に悟られないように震えを鎮めようとするも、すぐにカルムは気づきペニスを引き抜こうとした。
「や、やだぁ……抜かないで……!」
ボロボロと泣きながら、両手と両足でカルムにギュッと抱きついて密着すると、その反動でペニスがずぷぶっと奥まで沈んだ。
「ウッ……♡フゥーフゥー……♡レグルス、大丈夫……?無理しないで、これ以上は……。」
思わず射精しそうになったのをなんとか堪え、レグルスの涙を拭ってやる。彼の恐怖になるようなことは絶対にしたくはなかった。
「つらい記憶、全部書き換えてほしいのっ!カルムに抱かれた記憶で、全部、全部……!」
「……わかった。君を今抱いてるのは、カルムだよ。これから先も、僕だけに抱かれて。」
密着したまま腰を動かす。引き抜いて前立腺を擦り、再び奥をつく。ピストンを続けながら何度もキスをしてお互いの名前を呼び合う。まるで存在を確かめるように。名を呼ぶことで存在を確かにするように。
「あっ♡はっ!♡レグルス♡!レグルス♡!好き、愛してる♡僕のレグルス……♡!」
「おっ♡お、俺もぉっ♡!カルムが好き♡!カルムだけに愛されていたいっ♡あっ♡んっ♡カルム♡♡♡♡」
抱き合いながら絶頂を迎える。ビクビクビク!と達するレグルスの痙攣する内部からカルムは自身を引き抜くと、その腹の上に射精する。レグルスが出した精液と、カルムの出した精液が絡まり合うように混ざり合う。
「カルム……。」
「どうしたの?」
ギュッと抱き合ったまま名を呼ばれてカルムはレグルスの顔を見る。
「俺、カルムが見たい。」
「……っ!それって……!」
「俺の目、見えるようにして……。」
その言葉を聞くやいなや、二人は深く口付けを交わした。
『えー、上手くいったんでしょ?』
魔力を波に変えて相手に音として伝えることのできる魔伝話から、気の抜けたフロウの声がする。
「そうじゃなくて……副作用、体に害のあるものがないか……レグルスの体心配だから……何を使ったか、教えて……。」
珍しく怒気を含んだカルムの声に、フロウは思わずほくそ笑む。
『エルダーフラワー。』
「は?」
『あれは、エルダーフラワーのコーディアル。効果は、リラックスと安眠効果が期待できるよ♪』
「つまり媚薬じゃなかった……?」
『うん。……君たちに必要だったのはきっかけだったのさ。』
ガチャリ、ツーツーツー。即座に魔伝話を切ると空を仰いだ。これからは二度と、フロウに相談するのはやめよう。
「カルム……?」
名を呼ぶ声が聞こえて、急いでそちらへ向かう。部屋の大きな星見窓から、月明かりが差し込み、その前に置いてある椅子に腰掛けているレグルスを照らしていた。
「ごめんね……お待たせ。じゃあ、心の準備は、良い……?」
「うん……よろしくお願いします。」
その言葉を聞くと、カルムはレグルスの後ろに立ち、その両目を背後から、両手で目隠しした。そして呪文を唱えると、自らの闇魔法を構築して行く。光を失い、空っぽな瞳の中へ、暗闇の中から光を拾う。レグルスは、星を見ていた。暗闇の中で光る星が一つ。それは最初はとても昏い星だったけれど、徐々に輝きを増してゆく。六等星、五等星、四等星。キラキラと輝くそれは、俺にとって……。三等星、二等星、そしてとうとう、一等星……!輝きを放つその星は魔法陣へと変わり、パッと暗闇へと戻った。
「終わっ……た?」
「うん、じゃあ手……離すね。」
ゆっくりと目隠しが離されれば、その目前に、開け放たれた窓から一面の星空が広がっていた。
「わ……!綺麗……!」
「あそこで……一際輝いている星が……レグルス。獅子座の……一番明るく光る……一等星。」
背後からカルムが指差す方を見れば確かにそこには強い光を放つ星があった。
「君が……ここに来た時……目の前で一番……輝いていたのが……あの星……。光を……取り戻してほしくて……。」
自らの名前の由来を聞いて、胸がグッと熱くなる。
振り返ってカルムを抱きしめようとするのを、他ならぬカルムの手が止めた。
「待って……!僕は……、僕は……。普通の人からすれば、とても醜いんだ……。闇魔法の影響で……とても見られたような姿じゃ……、」
カルムの言葉を最後まで聞く前に、レグルスは後ろを振り向いた。
そこにいたのは、まるで老人のような真っ白な長い髪を後ろで束ね、肌も陶器のように真っ白な青年だった。どこもかしこも色を失ったかのように真っ白なのに、その瞳だけは煌々と黒く艶やかで、まるでそこだけが光輝いているようだった。
その瞳が悲しそうに伏せられる。言葉を失ったのを見て、次に紡がれる言葉に耐えようとしているのだろうか?
レグルスはふわっと笑った。
「綺麗。」
「え?」
「こんなに綺麗な人に、愛されたんだ。」
カルムの胸に飛び込む。さらに至近距離で顔を見つめると、黒々とした瞳は光に反射して、まるで昏い星のようだと思った。
「カルムは俺の光だったんだ……。」
思わず流れた涙を心配そうな顔をしてカルムが拭ってくれる。俺は今までこんな顔をずっとさせてきたんだと思うと、胸が締め付けられると同時に温かい気持ちになった。
「このままずっと闇の中にいれば、つらいことも、怖いことも、もう何も見なくて済むって思ってたんだ。でも、カルムのことを見てわかった。本当はずっと、暗闇の中を照らす光を望んでた。」
それを、幸福と人は呼ぶ。
「そんなこと……初めて言われた……。」
人に避けられ、孤独と知らず孤独であった青年もまた、暗闇の中を歩いていた。そこで見つけた小さな光が、いつの間にか大きく、そして大切なものへと変わっていた。
どちらともなくキスを交わす。そしてそのままベッドへと倒れ込む。互いを抱きしめ、互いの瞳を見つめ合いながら、ゆっくりと目を閉じる。
温かな暗闇の中で安堵する。
望んでいた幸福はここにいる。
彼らのもとにやがて訪れたのは、安らかな眠りであった。
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