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手懐けた者には責任がある
朝、先に目覚めるのはたいていレグルスだ。目を開くと、いつも目前にカルムの顔がある。
眉間にぎゅっとしわを寄せて険しい顔をしている。何か良くない夢でも見ているのだろうか。
なんとなく眉間のしわを手で伸ばすように優しくなでてやると、しわはなくなり、すーすーと穏やかな寝息を立てている。その様子がまるで子供のようでほほえましく、思わず笑顔になる。カルムは20歳になったばかりだというがほとんど赤ちゃんのようなものだと以前フロウ室長が言っていた。カルムに調べてもらい、15歳だと判明したレグルスの目にも確かに、幼く映るときはある。
それでも大人な時はちゃんと大人だからなあ……と、ふと昨晩のことを思い出してしまいレグルスは真っ赤になりながらいそいそをベッドを出た。
カルムを起こす前に、まず真っ先に星見窓のカーテンを閉じる。カルムはとにかく色素が薄い。そのため、太陽の光でさえもすぐに肌が赤くなってしまう。
それから身支度を済ませると、再びベッドのカルムに駆け寄る。
「カルム、おはよう、朝ですよ。」
おでこにチュッとキスを落とす。カルムはうなりだす。
「うぅ……」
バタバタと手足を動かしてブランケットをつかむと頭まで引き上げて隠れてしまう。
そのミノムシを捕まえると、レグルスはガバッとブランケットをはいだ。
「おはようございます。」
「…………おはよう。」
胎児のように縮こまっている形のカルムの正面に腰かけると体をゆっくり撫でながら揉みほぐしていく。手をマッサージして、足をマッサージして……と続けていくと徐々にこわばっていた体がほどけていくのがわかる。
しばらくぼんやりレグルスにされるがままだったカルムがのそりと起き上がる。
「……キスしたい、いい?」
「どうぞ。」
カルムの顔が近づいてくる。そして唇が触れ合う。ふに……という柔らかい触感とカルムの香りがして、とても幸福な気分になる。そのまま軽く口内を開いて舌先を絡めてから口を離す。
「起きましたか?」
「……まだ眠い。」
腰に抱きつくとぐりぐりぐりと頭を摺り寄せてくるカルムに苦笑いする。
献身的に介護してくれていた時は知らなかったが、ベッドを共にするようになってからのカルムは意外と朝起きれないタイプのようだった。毎朝こうして、駄々をこねるカルムを、レグルスが起こしてやるのが日課だ。
「カルムがまだ寝るなら俺も食堂に行かずに一緒に寝ます。」
日々の暮らしの中でレグルスは、自らを人質にとるというすべを身に着けてしまっていた。
「……!!!だめ、レグルス、は成長期、だから朝ごはん抜いちゃだめ……。」
飛び上がるとあわてて朝の支度を始める。
「一緒に朝ごはん、食べる……!」
「うん、待ってるね。」
今日もあわただしくも穏やかな朝が始まる。
フードを目深にかぶり、太陽に当たらないようにしながら食堂へ向かう。隣を歩くレグルスを見る。栄養失調で痩せていた体はすっかり肉がつき健康的だ。黒髪もすっかり艶を取り戻し、キラキラと朝日の中に輝いている。思わずはぁ……とため息をついた。
「どうしたの?」
「レグルスが……綺麗になって心配……。」
自分よりも小さなその体をすっぽりと自らのローブの中へ覆ってしまう。
「そうかな?カルムに綺麗って言われるのは嬉しいな。僕の綺麗はカルムだから。」
手を伸ばしてカルムの頬に触れる。すり……と目を閉じて頬を擦り寄せてくるが、どうやら納得していないらしく複雑な顔をしている。
「みんなと……カルム仲良し……。」
「ふは、嫉妬してるの?でも……、」
そう言いながらレグルスはカルムの顔を引き寄せ、軽いキスをする。
「こういうことをするのはカルムにだけだよ。」
「わかってる……。」
食堂に着き、カルムに収納されていたローブから顔を出すと見知った顔が声をかけてくる。
「二人ともおはよう~!」
「あ、フロウさんおは、わっ!?」
挨拶をしようとするレグルスをローブの中に再び隠してしまう。
「フロウには挨拶……しなくて良い……。」
「ひどいなぁ!そんなに警戒しないでもとって食ったりしないよ!」
「信用ならない……。」
周りの同僚たちからも自業自得!反省して!という声が上がる中、フロウはまったく気にせず話し出す。
「最近はちゃんと朝ごはん食べるようになって偉いねえ、レグルスが起こしてくれてるんだろ?」
ひょこっとレグルスがまたローブから出てくる。
「はい、俺がカルムと一緒にご飯食べたくて。」
「良い子だね。この子は魔塔育ちだからそういうところルーズでね。レグルスがしっかり面倒見てやってね。」
そう言うとカルムのフードをパッと外し頭をぐりぐりと撫でる。
「やめて。」
顔を顰めるが、カルムは強く拒絶したりしない。他の人との関わり方に比べて、フロウに対してはなんとなく親密さを感じる……と思うと、レグルスは少しだけもやっとした。
「あ、そうだ、食事が終わったらレグルスは私のとこで採血お願いね。」
「あ、はい。わかりました。」
レグルスは、自分の体について、被験体として提供することを承諾していた。黒髪赤目の、いわゆる魔族と忌み嫌われる自分のような被験体は実は健康的な状態で生活していることが稀である。そもそも数が少ないのに対し、生まれてきた瞬間に間引かれたり、迫害を受けることでまともな状態で立っていることさえ難しくなるのだ。
だからこそ、自分が被験体になることで何かがわかり、同じ境遇の者たちの救いになれば……と、小さな期待で自らそうなることを申し出た。
自分の過去……奴隷として過ごしていた頃を思い出し、ギュッと拳を固く握った。
「カルムの方は君が制作室に頼んでいたものが出来上がったらしいから、取りに行ってくると良いよ。……無茶苦茶すぎるって制作室の子たちが泣いてたよ。」
「無茶苦茶……?」
カルムは首を傾げる。フロウやカルム達は、魔塔中でも研究がメインの魔法研究室の所属だ。魔法の研究、並びに理論構築を行う。その研究結果や理論を、魔道具に落とし込み一般化できるアイテムを開発するのが魔道具製作室だ。カルムは天才肌である。そのため理論が出来て仕舞えば実際に魔法を構築するのは造作もない。しかし、魔道具として使うとなると話は別である。カルムという出力アイテムのバグ仕様と通常仕様のアイテムでは勝手が違いすぎるからだ。そのため、よく無茶な発注をして製作室を泣かせていた。
「採血が終わったら……僕の研究室で……待ち合わせ……。」
「わかりました、ランチもついでに持っていきますね。」
お互いに微笑み合う。周囲の人間たちは、その若い蕾達のやりとりを微笑ましく眺めていた。
ただ一人、にやにやと何かよからぬことを考えているように笑っているフロウを除けば。
(室長絶対またやらかすぞ……!)
(頑張れレグルス……。)
(どんまいカルム……。)
同僚たちは内心、室長はそろそろ馬に蹴られてしまえ、と思いつつ、その様子を見守っていた。
「ちょっとチクッとするよ~。」
その言葉とともに針が刺される。この程度の痛み、以前の扱いに比べたら全然平気だなと思いながらまじまじと自らの血が採られていくのを眺めていた。
「レグルスは本当に痛みに強いよね。体も丈夫だし。」
「そういう扱いには慣れてますし……体は……丈夫なんでしょうかね?」
「うーん、最初にここに来た時、正直助からないだろうなって思ったし。」
「そんなに……ひどい状態でしたか?」
そういえば自分がここに来た時のことをあまり詳しく聞いたことはなかった。意識がはっきりとした時はすでにだいぶ回復していたし、そもそも目を治してもらったのも、完治した後だった。
「うん、カルムが珍しく慌てて駆け込んできて、手を貸してほしいって言うもんだから見に行ったら、死体みたいな君をベッドに乗せてたの。ほとんど息なんてしてないんだよ?正直もうこれはダメだろうなって。」
当時のことを思い出して、ぞわっとした。あの時はただただ安らかな死を望んでいた。
そもそもそれ以外に楽になれる道なんてあるとも思わなかった。
穏やかに過ごしている今が、どれほど奇跡的なものなのか。考えるには余りあるほどだ。
「でもすっかりぴんぴんとしてさ、傷もほとんど残ってないだろう?レグルスのような、黒髪赤目の子って、比較的体が丈夫なんだよね。魔力も豊富だしね。」
「そうなんですか。他の人に会ったことはないから……。」
「そうか、そのうち連れてこようか?学園に通っている子で君のような黒髪赤目の子がいるよ?あの子は獣人だけど。」
フロウは魔法学園で講師も兼任している。適当な人間に見えるが、実力はあり、講師にしてはいけないタイプだがあいにく教鞭を取っているのだ。
「……!ぜひ会ってみたいです……!」
「その子もそうなんだけどさ……やっぱり変なんだよね、黒髪赤目って。」
フロウは首をかしげる。
「変?それは数が少ないからとかそういう?」
「んーん、君たちって魔族の生まれ変わりだって言われてるじゃない?確かに体も丈夫で魔力も豊富なら納得するんだけど、でも、それならなんで君たちは《《魔法を使えないの?》》」
「それは……。」
レグルス自身も知りえないことだ。そもそも自分に魔力が豊富なことさえも知らなかった。
「私たちの肉体はいわゆる魔力の器のようなものだけど、君は大きな器を持っているのにその出力機能が壊れているわけ。それも生まれた時から。黒髪赤目に生まれればみんなそう。何か理由があるはずなのに、誰もそれに気にも留めないの気持ち悪くって仕方がないよね。」
「……俺たちの方が気持ち悪いから関わりたくないのではないでしょうか?」
「この世の中にわからないことがあることよりもそっちのほうが気持ち悪いの!?変わってるねえ。」
変わってるのはここの人たちでは……とも思ったが、おかげで快適に過ごせている身なので何も言わないことにする。
「ところで気になっていることがあるんですが……。」
「ん?どうしたの?」
「フロウさんとカルムってどんな関係なんですか?なんだかすごく……他の人とは違うなって……。」
言い淀むレグルスの様子に察すると、フロウはにやにやと笑う。
「親しげに見えて気になるって?そりゃそうだよ、私はカルムの初めての人だからね!」
「は、初めて!?それってどういう!?」
「カルムの処女は私が奪ったんだよ。」
「……襲ったんですか……。」
こぶしを握って近づいてくるレグルスに命の危険を感じて後ずさりながら弁明する。
「いやいやいや!合意!完全に合意だよ!嘘だと思うならカルム本人に聞いて!」
「カルムとそういう関係だった……。」
ショックを隠し切れず俯くレグルスにカルムはそっとあるものを差し出す。
「泣かないで、これでも使いなよ。」
手渡されたものには「エッチな気持ちになる薬♡」と可愛らしい字でラベルが貼ってある。
「……もうこれが偽物だって知ってますよ。」
というかこの人には媚薬を渡す以外の解決法はないのか。
「それがね、これは本物です♡拷問用に作ってみたのがちゃんとあります♡」
じっと瓶を眺めて、レグルスは瓶のふたを抜いた。そしてその恵まれた身体能力で瞬時にフロウに近寄ると、薬をグイッと全て飲ませた。
「んぐっ!?!?!?ひゃ、しまっ!!!!こら、あっ……やば♡♡♡んっ♡♡♡」
その焦り具合と体を抱きしめうずくまるフロウを見てどうやら本物のようだと判断する。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですかってあんっ♡つう♡はあ♡やば……♡エッチな気分になる♡♡♡アンっ♡はあはあ♡♡もう限界っ♡ちょっと抱かせていただいてもいいですか♡♡♡」
がばっと襲ってくるフロウに対してさっとよけると、そのまま部屋を出る。
「では!」
「レグルス君ちょっと!!!はぁぁぁん♡♡♡」
股間を抑えてうずくまる室長をあとにして、レグルスはカルムの研究室へと急いだ。
研究室の扉を開けるとすでにカルムは戻っていた。
「おかえり……遅かった、むぐっ!?」
いきなりレグルスはカルムへとキスをした。それからカルムのズボンを下げると、ペニスを取り出した。そして手で軽く扱く。
「な、なに……こら、レグ……?」
愛称で嗜めるように言うカルムに、レグルスはさらにムッとする。そのままちゅ♡と亀頭にキスをすると、思いっきりペニスを咥えた。
そのまま上下にねぶってやると、カルムの白い肌はすぐさま赤く染まってゆく。その扇状的な姿に、レグルスはなおのこと挿抜を激しくする。
「んっ……こ、こら……良い子だから離して……!」
無理矢理引き剥がしたレグルスの顔を見てハッとする。
今にも泣きそうな顔で、瞳には大粒の涙を浮かべていた。
「ど、どうしたの……?まさかフロウに何か、嫌なことされた……?」
あながち間違いではない。
「良い子じゃ、良い子じゃないっ……!」
手のひらで自らの涙を拭うが、一度溢れてしまった涙は止まることはなくて。
どんどん溢れてくる涙を、気持ちを、抑えることができずに嗚咽を漏らした。
「レグルス……。ごめん、ごめんね……君にこんな顔をさせるために瞳を治したわけじゃないのに……!」
両手でレグルスの頬を包みながら額と額をつける。
レグルスはワンワンと泣きながら、カルムに抱きついてきた。
「フロウ、からっ……カルムが処女じゃないって聞いて……!俺、嫌なこと思ってっ……!ぅぐっ……そんな権利無いのに、カルムが他の人に触られたのが、嫌でっ……!」
なんとか感情を抑えようと何度もしゃくり上げながら話すが、やはりどうしてもコントロール出来ない涙はポロポロと滴り落ちる。
「レグルス、確かに僕は……フロウに抱かれたこと、ある。研究のため……男の肉体でどんな生殖であれば可能か……確認するために。」
「どうせそんなことだろうと……思ってはいたんです……。」
「前は……多分わからなかったけど……、今ならレグルスの気持ち、わかる……。出来ることなら、初めから、レグが何も怖い思いをする前から、出会い直したい。」
レグルスの頬に手を添えると唇に軽いキスをする。
「最初から最後まで、全部独り占めにしたい。」
お互いにじっと見つめ合う。徐々に顔が近づいて、ゆっくりと唇が合わさる。
ふに……と軽く唇を喰まれ、小さく口を開くと、中に優しく舌が侵入してくる。慰めるように、唇を軽く撫でられたり甘噛みされるのがもどかしく、カルムの口内へ舌を入れる。カルムは優しくレグルスの舌を絡め取ると、存在を確かめるようにお互いの舌を絡ませ合う。
やがて口を離すと、レグルスの顔は涙でぐしょぐしょではあったが、いつの間にか泣き止んでいた。
「レグルスが……したいなら、僕の中に入れて……。」
レグルスの顔中にキスを落としながら涙を舐める。
すると再び、わっとレグルスは泣き出した。
「そ、そういうことじゃない~!!!!!!」
「え、え、ごめんなさい……!」
「どうしたいか、自分でもわかんないんだ……!でも、そういうことじゃなくて、うう~、子どもみたいって思ってるでしょ……!」
「レグは……それが年相応、なんだと思う……。」
「子ども扱いした~!!!!!」
さらにわっと泣き出す。それを見て思わずカルムは笑い出した。
「な、なんで笑うの……!泣いてるのに……!」
「ごめん、レグルスがあまりに……かわいくて。」
「やめて、からかわないで。」
手で涙を拭おうとするのを制止して、赤くならないように、傍にあったタオルでゆっくりしみこませて拭いてやる。
「そんなに泣くと……せっかくの綺麗な目が……溶けちゃう……。」
ちゅ、ともう一度軽く唇に触れるだけのキスをする。そして何度も何度も、頬や額にキスをする。
「ちゃんと……感情をいっぱい……ぶつけてくれてうれしい……。」
「こんなの知りたくなかったです、うう、自分の中がぐちゃぐちゃでどうにかなりそう。」
「どうしたら……僕のレグは泣き止んでくれる?」
横に抱くようにして、レグルスを膝に乗せてなでながら、少し困ったようにカルムは言う。
「……中に出してください?」
「はっ!?!?!?」
「いつもカルム、スキンを付けるか外に出すかじゃないですか!今日はずっと中にいてくれないと泣き止みません!」
「でもね、レグルス……お腹の中に出すと……お腹壊す、だから……レグルスが痛いのは嫌……。」
困ったように額に額を合わせて子供に言い聞かせるようになだめるが、一度中出ししてもらおうと心に決めたレグルスの決意は固かった。
「やだ、少しくらいつらいのなんて俺は我慢できる、だから今日は抜かない。」
「え、えぇ~……。」
めちゃくちゃに渋っているカルムの自分よりも大きなその体を、レグルスは軽々と抱き上げると、寝室へと向かった。
ベッドにカルムを横たえると、レグルスはその胸の上にぺたんと頬をつけて重なる。
「レグ……良い子だから……スキンを付けて、やろう?そしたらずっと中にもいてあげられるから。」
「良い子じゃないもん、だから生でやる。」
レグルスはカルムのペニスを軽くしごいて立たせると、騎乗位の体勢でいきなり挿入しようとする。
「わー!!!!だめだめだめだめだめ……!!!!!おしり、また切れてひどい目にあう……!!!!!」
「なんでだめって言うの!少しくらい痛くても気持ちよくなれるから大丈夫!ずっとそういう扱いできたんだよ!?」
その言葉に今度はピクリとカルムが反応する。
「でも、僕はそんな扱い……してこなかったよね?」
急に怒ったような声を出すカルムにびくりと体が震える。
「……レグに対して怒ったんじゃない、そういう扱い……してきた人に……怒った……。」
対面で向かい合うレグルスを抱きしめる。
「どれだけ君を……大切に思ってるのか、教えてあげる……。」
そう言うとカルムはポケットから一つのピアスを取り出す。それはレグルスの瞳のように真っ赤なルビーがついたピアスだ。
「レグ……これを僕の耳につけて。」
「え、で、でも、」
「大丈夫、つけて。」
レグルスは戸惑いながらも手渡されたルビーのピアスの針をカルムの耳たぶにあてる。躊躇したほうが痛いだろうと、覚悟を決めて思い切り突き刺した。
「っっっ……!」
ぶちっ!という音を立てて思い切り皮膚に針が突き刺さる。
「大丈夫……?」
耳元を抑えて顔を歪ませるカルムを心配していると、安心させるように無理やり微笑みながら、耳から手を離した。真っ赤なルビーのピアスが、まるでカルムの所有者を主張するかのように輝いている。
「どう……?」
「綺麗、だけど急にどうしたの?」
「これで……レグルスの痛み……全部、僕にも、伝わる。」
「どういうこと!?」
「このピアス、は……つけた対象の痛みを、つけられた対象に同じように伝える魔道具……。レグルスがつらいとき、わかるように、作った。」
「なんでそんなものを!今すぐに外してください!」
あわてて伸ばした手を掴むとカルムはレグルスを引き寄せて抱きしめた。
「僕は、君に執着してるんだ……。愛しくてたまらない、から。大切にしたい。」
そう言うと、長い髪の片側を耳にかけ、ピアスが見えるようにする。
「見て……僕がレグルスの所有みたいでしょ……でも実際は、君の全てが僕の物だと言う証なんだよ。浅ましいでしょ、僕は……君に執着してる……。」
「カルム……。」
「レグルスが欲しいものは全部、あげる。だから、レグルスの全部を僕に頂戴。」
切実な声でそう請われる。その思いに抱いたのは、不快感でもなんでもなくて。むしろ喜びと、愛おしいという感情だった。レグルスはこくんと頷き、カルムのピアスにキスをすると、耳元でささやいた。
「俺の全部をあげる……、だからカルムの全部も頂戴。」
向かい合って抱き合ったまま、ゆっくりとペニスを手にすると、自分の後孔に近づける。
「いい?」
「わかった……。」
ぐっ……と先端が押し込まれる。
「んあっ……!」
「ん……!こ、こら……やっぱりちょっと痛かったんだね……!」
「はっふふ……そんなこともばれちゃうんだ……♡でも、すぐ気持ちよくなってくるからもう大丈夫だよ……♡」
そう言ってずぽぽぽぽ♡と腰を落とし、ペニスを中まで挿入すると、カルムが身じろいだ。
「んあっ♡♡♡な、これは……!?♡♡♡」
ぜえ、はあ、と息をしながら、カルムは挿入したまま、レグルスをベッドに横たえ、胸に頭を押し当てて、うめいたまま動かない。
「か、カルム……意地悪しないで動いて……奥切ない……。」
涙目になりながら、腰を揺らす。
「うっ♡♡♡ま、待ってレグルス本当にごめん、動かないでうあっ♡」
「ど、どうしたの……?」
カルムの様子がいつもとおかしいことに気づく。顔を真っ赤にしながら、何かに耐えるようにぎゅっと口を結ぶとぷるぷると震えている。
「こ、これ……苦痛までじゃなく、快楽まで共有する……!!!!!!」
「えっ。」
「ごめん、本当に動かない、で……うぅっ、おしりの方の刺激はっ、本当に久しぶりで……うぅ……じんわり、あつい……!」
「これカルムのペニスだよ。」
「意識させないで!うあっん♡考えたら頭おかしく……なりそうっんっんっ……!」
「ふっ、」
自らの腹の上で悶えているこの天才があまりにも愛しくてかわいくて。
「あはははははははははははは!」
「笑わないで!振動で、痺れて、ジンジンするっ!」
「ねえカルム、もうこれでしかイケないようになって。」
ぐっとカルムが入っている自分の腹を押す。
「うっ♡」
「おちんちん入れながら、おしりとおちんちんの両方でイク感覚でしかイケないようになって。俺なしではダメな体になって♡わけわからないくらい頭ぐちゃぐちゃになって、ずっとイこうね♡」
「ま、待って……!」
にこっとレグルスは笑うとそのままカルムを押し倒し、騎乗位の体位になる。
「待てないの……♡わかるでしょ、カルムにじらされたせいで、奥がすごくじんじんしてるの。」
服を脱ぐと、腹部を見せつけるように撫でる。
「カルムのね、ここまで入るの♡ここをね、トントンってされるの、気持ちよくて大好き……♡奥も優しくついてくれるでしょ、それもじわじわじわ~って気持ちいいのがきて、好き……♡」
「あうっうう~……。」
「全部教えてあげるね♡俺の全部のきもちいい、全部カルムにもあげるからね♡♡♡」
どちゅっ♡どちゅっ♡
激しく腰を打ち付けながら、自らの乳首をいじる。
すると下から突き上げている側のカルムが、可愛らしい声で喘ぐ。
「あんっ♡あっあっあっ♡うー……お"っ♡だめ、前も後ろもっあうっ♡」
「ふふ♡これじゃあどっちが犯されてるのかわからないね。」
カルムの耳元に光るピアスをいじる。
「俺のために開発したのに、カルムが《《開発》》されちゃうね♡」
「ん……っ!あっ……♡んんん……っ!ひっ……!!」
手前の前立腺にわざと擦って快感を得ると、ビクビクビク!っとペニスが震えるのがわかる。
「ひゃっ♡あんっ♡はぁーはぁーはぁー♡ね、カルムがシてくれてる時ってあっ♡いつもこんなに気持ち良いんだよっ♡♡♡」
「あがっっっ♡♡♡なにこれビリビリすっおあっあっあっ……♡はう……♡は、よかった……あっ♡レグルスが気持ち良いのうれし……♡♡♡」
「どう?気持ち良い……♡?あっあっ♡」
中をぐりぐりしと腰を動かして自らで扱いてやりながら、カルムの乳首を触る。
「き、気持ち良い……!」
カルムは顔を真っ赤にさせながら自らの腕を口に当て、快楽を逃そうて必死になっている。
「だめ……ちゃんと気持ち良い声出して。」
カルムの腕を掴むとグイッと上に繋ぎ止める。そして唇にキスをすると、舌先を絡ませ合いながらお互いの口内を貪る。カルムの上に倒れ、体を密着させながら腰を動かすと、カルムの熱と自分の温度が混ざり合い一つになっている感覚をより一層密にさせた。
「あっあっあっ♡♡♡レグ♡♡♡もう我慢できなっう"う"イキそ、やば、出ちゃうっ♡♡♡」
「出してっ♡あっ♡中で♡♡♡」
きゅうう♡と中を締め付けてやると、カルムのペニスはビクンっビクンっ!と震えて精子を止めどなく放出する。ドクドクドク……と中に熱い液体が流し込まれている感覚に浸りながら下のカルムを見下ろす。
「出ちゃったね♡」
「うぅ~……中めちゃくちゃ出てる……。」
ギュッとカルムに抱きつくと、レグルスの背中に腕を回してカルムも抱きしめ返してくれる。射精の快感で惚けているカルムの顔にすりすりと顔を寄せると、キスをして瞳を合わせる。
「レグ、まだイケてない……。」
「んー、でも大丈夫だよ、自分でヌくから。」
自らのペニスを軽く触ると、中に入れたままのカルムのペニスがビクンっ!と震えた。
「ひゃっ♡♡♡んんんん……でも中、まだじんじんしてる……中でイキたいでしょ……?」
「そっか、わかっちゃうか。」
正直なところ、レグルスは散々性奴隷として乱雑に扱われた過去のせいで、前の方でうまくイクことができなかった。
「あんまりチンチンの方では俺イけなくて……精通前から後ろで抱かれてたから。」
さらっとなんでも無いことのように言うレグルスにカルムは胸が苦しくなり、ギュッと強く抱きしめた。
「……知れてよかった。」
「え?」
「レグルスのこと、もっといっぱい、知りたいから……痛いのも、気持ち良いのも、わかってよかった……。」
抱きしめたまま、今度はレグルスを下に寝かせる。
「ちゃんとレグの気持ち良いこと、してあげられる……。」
そのまま愛おしそうに見つめながら頭を撫でてくれるカルムの表情に思わず胸がキュンとして、入れたままのカルムを締め付けてしまう。
「おあっ♡」
「ご、ごめん、嬉しくてつい……!」
「だ、大丈夫……動くよ……!」
正常位で再びゆっくりと腰を動かし始める。先ほど中に出された精液がぐちょぐちょと水音を立てる。それがなおのことエッチな気分にさせてくれる。すでに柔らかくなっているそこは、カルムのペニスの動きに合わせて素直に快楽を拾う。
「あっ♡♡♡カルムの、きもちいっ♡♡♡」
「なんかっ♡♡♡後ろから犯されてる気分……んがっ♡♡♡」
「それカルムのペニスだよ♡♡♡」
「言わないで~!!!!!んおっ♡♡♡」
良いところも全て伝わっているため、的確に気持ち良いところを突きながら悶える。
「あっ♡あっ♡カルムはっ?きもちいいっ♡???」
「すごく気持ちいいっ……んあっ♡♡♡レグルスが気持ち良いって全部キてるよあんっ♡♡♡」
必死に気持ちよくしてあげようと腰を振っているカルムが愛おしくて、徐々に奥がキュンキュンしてくる。
「カルム……♡俺、奥でイキたい……♡」
「うぅぅ~……やっぱり?奥すごく切ない……。」
カルムが手のひらでレグルスの腹を撫でる。
「うん……♡一番奥、今突かれたら多分いっちゃう……♡」
撫でていたカルムの手に手を重ねてトロン……♡とした目で懇願すると、カルムはレグルスの手を取って自らの頬に当ててすりすりとすり寄せる。
「でも……奥怖い……どれだけ気持ちよくなっちゃうか……知らない……♡♡♡」
「カルムは俺のこと全部知りたいんでしょ……♡」
「う、うん……そうだね……。」
覚悟を決めたカルムは出し入れを繰り返しながら、徐々にペニスを入り口のギリギリまで引き抜く。先ほど中に出されていた精液がかき出され、穴の入り口からトロトロトロ……♡と出てきてしまう。
「あっ♡せっかく出してもらったのに溢れちゃう……♡」
「大丈夫、一番奥に出してあげるから……♡」
「うん……はやく……♡♡♡」
「いくよ……♡」
「きて……♡」
雄の顔をしているカルムの頭を掻き抱くと、ピアスにキスをして耳元でそう言った。
ズポンッぐぽっ!!!!!
奥の結腸の入り口がこじ開けられ、中に亀頭がすっぽりとはまり込む。
いきなりもたらされたその巨大な圧迫感と快感に押し潰され、二人は嬌声を上げながら達する。
「おぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「う"う"う"う"う"う"♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
ビュルっピュルピュルピュル!!!!
中に精液が注ぎ込まれてゆく。けれども射精はなかなか終わらず、コプ……コプ……と壊れた蛇口のように精子が出続ける。
「な、なにこれ♡♡♡とまんなっ♡♡♡」
「俺のおちんちん壊れちゃってるから♡♡♡トコロテンって言うんだって♡♡♡気持ち良いのずっと続くでしょ♡♡♡」
「ふわぁぁぁ♡♡♡気持ち良いの続いて頭ぼんやりしちゃう……♡♡♡」
「幸せ……♡♡♡」
「僕も……♡♡♡」
ちゅう……と唇を合わせて、二人で快楽に浸る。くた……と力が抜けたようにお互い抱き合って倒れ込んでいると、まるで二人の境界が曖昧になってゆくようで、幸福感で満たされた。
「ねえ、これってもし俺が死ぬような目にあったらどうなるの?」
情事を終え、ベッドに寝転がりながら、レグルスは隣でぐったりと横たわるカルムの耳のピアスをいじる。
「……。」
カルムは沈黙する。
「ねえ。」
「んあっ♡」
かぷ、と耳に軽く噛み付くと、観念して話し出す。
「僕も死にます……。」
「……そんなことだろうと思った。」
「そもそも……外部から……一定以上刺激があったら……全部共有されるように出来てる……から、同じように……止まる……。」
レグルスの心臓の位置の胸を、軽くトントンと叩く。
「聞かなきゃ言わないつもりだったでしょ。」
「……うん。」
「カルムは俺のことなんでも聞いてくれるのに、カルム自身のことはいつも言わないよね。」
気まずそうに俯くカルムの額にキスをする。
「カルムお願い……俺にもこれ、ちょーだい。」
ピアスを撫でる。
「……!!!だめ……!!!」
「カルムの瞳みたいな真っ黒な石がいいな。それでカルムがここに穴を開けてつけて。」
カルムの手を自らの耳たぶへと持っていく。
「やだ……!やだ……!」
「カルムが俺のこと知りたいように、俺だってカルムのことが知りたい。同じなんだよ。」
「でも……。」
「カルムが痛いことされなければ良いんだよ。俺にするのと同じように、自分のこと大事にして、そしたら俺だって痛く無い。」
カルムを抱きしめて、その胸に耳を当てる。とくん、とくんと確かに動く心臓はそのものの生を実感させる。
「……わかった。」
その頭を撫でてやると、レグルスは嬉しそうに顔を上げた。
「カルム、大好き♡♡♡」
「はあ……君には敵わない……。」
ちゅ、ちゅとキスを交わしながら、この可愛らしい少年を懐かせてしまった責任を、一生取っていこう。そう心に誓った。
後日、連日の徹夜で仕立てた魔道具の再発注がかかり、製作室の面々は大泣きしながら天を仰いだ。
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