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第3話 懐かしい過去

 まずは出会いを思い出す。  十八年前、アイザックは平民の子どもとして国立学術学院王都校へ入学した。  自宅は王都内の平民地区にあるものの、最近再婚した母とその義父、そして新しく生まれてきた妹に気を遣い、その事情から特例として寮生となった。  そのころマテウスはというと、教師四年目にして一歳の息子を持つシングルファザーだった。  幼馴染のナディアと結婚し子宝に恵まれたものの、彼女はお産の経過が悪く、産まれたばかりの息子の赤ら顔を見ると安心したように笑い、そのまま息を引き取った。  マテウスには悲しみに暮れる暇はなくただひたすらに育児に明け暮れ、託児所に空きが出るとすぐに息子を預けて教職に復帰した。  その事情を鑑みた学院は、比較的負担の少ない一年生をマテウスの担当とした。  そこにいたのがアイザックだ。  魔術は自身の内から生み出される魔力と、自然に漂っている魔力を共鳴させ、詠唱を媒介にして発動させる。  一年生と二年生では、その魔力の扱い方や陣を使った簡単な魔術を教える。  陣は魔術が得意でない、もしくは魔力が少ない人のためのもので、日常的に使う家具、道具にもなっていることから、この授業は簡単ではあるが欠かせないものとなっていた。  さて、アイザック少年は最初から優秀だったかというとそうではない。  魔力量が多いためにコントロールが難しく、感情の振れ幅によりしばしば魔力を暴走させ、部屋を嵐が通り過ぎたかのような惨状にしていた。  そのため以前からそれを知っていた幼馴染や、彼らからそれを聞いた周囲からは嫌厭され、学友はゼロ。    そんな彼に、放課後、マテウスが仕事をしている聖堂で手と手を重ね、魔力の流れを感じ取り、魔力がどこから生まれるのか、どうやって体を巡るかを根気強く教えた。  最初は暴走気味だった魔力もコツを掴めば簡単だったようで、一週間も付きっきりで教えれば安定してきた。  信頼関係を深めるための会話から、感情の昂りは普段から忙しくしていて、そして最近再婚した母への恋しさからだったことに気付いたマテウスは、それ以降はたまにではあるが、週末に自宅へ招き、寂しさが紛れるように一緒に過ごした。  それは、妻を失った自身のためでもあったことは否定しない。    息子のジェイコブは天使のようであり、不機嫌なときはそれはもう大変なのだが、その天使のような一面にアイザックは癒されたようだった。  家に来ると真っ先にジェイコブのところに駆け寄り、二人並ぶ姿は眼福だった。  それが功を奏したのか、入学から数ヶ月後にはアイザックはメキメキと頭角を現し、全科目においてトップの成績を修めていた。  そのおかげで学友は増え、楽しく学院生活を送るまでになっていた。  また、魔術においては天才的で、三年先の授業の範囲でさえ理解していた。  これは期待の新人だと持て囃され、三年次からは魔術コースは確実で、貴族科にも負けない逸材だと教師であるマテウスたちも期待に胸を膨らませていた。

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