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第4話 これは復讐
暑さが厳しい夏の間、キャラバンは旅をせず、大きな街で秋が来るのを待つ。
それまでは、手持ちの商品を売ったり、同業者から商品を仕入れたりするのだ。
数年前、俺は最新式の魔導扇風機の前に陣取り、露店の店番をしていた。
そこに現れたのが、身分を隠したハリードだ。
第四王子で経済省大臣だなんて知らなかった俺は、いつも通り、客が興味を持った商品の説明をしていく。
その説明にもハリードが質問し、俺が答える。
やがて雑談をするようになると、博識である上に気さくだというところに好印象を持った。
彼は最初、東の国で入手した玻璃の置物を買って帰って行ったが、翌日も、そしてそのまた翌日も、彼は飽きることなく俺の前に現れ、興味を持った商品をひとつだけ買って帰るということを繰り返す。
俺は、ハリードが来店するのを楽しみにするほど、彼のことを気に入っていた。
しかし、毎日来るなんて物好きだ。
彼はいったい、どこの誰なのか。
首を傾げていたある日、ハリードは本来の身分で露店に現れた。
そして言ったのだ。
「俺と友達になってくれる?」
元々、俺たちのキャラバンの評判を聞き、ハリードお抱えの業者にしたかったそうだ。
身分を隠して普段の接客の様子や商品の状態などを自ら調査した結果、専属契約を結ぶことを決めた。
ついでに歳の近い気の合う俺がいたことで、その契約はつつがなく結ばれ、そして、俺は平民でありながら、第四王子たるハリードの友人になったのだ。
夏の間、俺は宮殿に出入りし、ハリードに旅で見たものを話した。
北で見た雪原と、宝石のように降る雪。
東の果てに広がる、どこまでも続く大海原。
南にあるジャングルで出会った、見たこともない魔獣。
西の地で渦巻く灼熱の溶岩と大地の鼓動。
ハリードはいずれにも興味を持ち、話が尽きることはなかった。
俺は、こんな穏やかな時間が続けばいいと思い、そうなるようにと願った。
そう思っているのは、俺だけだったとも知らずに。
秋が近づき、キャラバンは旅支度を整える。
旅立ちの前日、宮殿に赴いた時、ハリードは豹変した。
「俺に抱かれろ。さもなくば、契約は反故にし、お前のキャラバンはこの国に立ち入ることを許さない」
友人だと思っていたハリードが突然牙を向く。
ハリードは王子だが、気さくで優しく、差別意識がまったくない好青年だった。
そんな彼だからこそ、俺は身分格差があっても、彼を友人して慕うことができたのだ。
ハリードの理不尽な要求に、俺の心はズタズタに引き裂かれた。
心臓に穴が空き、絶え間なく血を流している。
絶望の底に叩きつけられた俺は、当然のことながら動揺していた。
しかし、ハリードは待ってくれなかった。
今すぐ決断しろと命令された俺は、砂漠に打ち捨てられた孤児だった俺を拾い、今まで育ててくれたキャラバンのために、その要求をのむしかなかった。
ハリードはその場で、女も知らない俺の体を奪う。
彼は容赦なく俺を責め立てた。
痛みと強制的に引き摺り出された快感に、体は悲鳴を上げたが、一切の手加減はなかったはずだ。
そして、秋から春が終わるまでの旅の間、ハリードのことを忘れさせないようにか、それとも嫌がらせか、俺に夜の玩具を買ってくるようにと命令し続ける。
ハリードが何を思ってこんなことを言い出したのか、最初はさっぱりわからなかった。
しかし、数年も経てば嫌でもわかる。
俺の体も心も手に入れたいのだ。
こんなことをしなくても、俺は彼を友人として好きだった。
恋人としては無理でも、友人としてなら付き合うことができたはずだ。
しかし、その選択肢すらも消したのは、ハリード自身。
赦しを乞うべきは、ハリードだ。
キャラバンへの恩がある俺は、逃げ出したくても逃げ出せない。
見えない檻と鎖で囚われた俺は、哀しみと絶望の中で生きている。
しかし、その中に、砂一粒分の復讐心を抱いていた。
ハリードの求めるものは、俺のすべて。
でも、体は縛られても、心は決して奪われたりしない。
目の前にぶら下がる餌を、死ぬまで延々と追い続ければいい。
俺は決して、ハリードを赦さない。
好きになどならない。
これが、俺の復讐。
俺の心は、砂塵に掻き消されたまま、戻ってくることはない。
激しく揺さぶられ、また白い頂の気配がする。
息を荒げているハリードも、限界が近いようだ。
「アースィム、アースィム……好きだ、好きなんだ。どうか俺を……」
「いっ、も……だめ、やだ、やッ……あああああ!」
絶頂のタイミングで、陰茎に沈められていた玩具が引き抜かれる。
そこからは、白濁が力なく出ていた。
ハリードも同時に高みへと昇り、俺の中へ欲望を注ぎ込む。
止まった律動に、終わった……と気を抜いてはならない。
精力が強いハリードは、俺を朝まで離さないからだ。
ハリードは脱力した俺を抱え上げ、繋がったまま胡座の上に座らせた。
そして、自重で串刺しになり、力なく抵抗する俺の唇を奪う。
愛を求めるように口内に入ってきた舌に、俺は弱々しく噛みついた。
狂った夏の夜は、まだ始まったばかり。
虚しいだけの交わりは、永遠に。
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