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7 気がつくと押し倒される
(今日は助かったな……)
アオイが応援に来てくれたおかげで、カクテルは無事にテーブルに届けられた。トリプルセックは近くの酒屋には置いていなかったので、アオイが居なかったら完全に積んでいたところだ。あとで色をつけて返さなければならないだろう。
店の仕舞い作業をして、事務室で台帳作業を行う。店内には清掃作業をするホストが残っているばかりで、皆帰ったかアフターに出て行った。欠伸をしながら肩を摩り、書類に向かう。
(亜里沙さん、奮発してシャンパン入れてくれたなぁ……。こりゃ、本当に誕生日行かないと)
『ブラックバード』の名義でも花を用意しようか。ホストから花が来るよりも個人で出した感じがあった方が良いかも知れない。
俺の『アキラ』という名前は、本名ではない。本名は|野尻要治《のじりようじ》という、いたって普通の名前だ。本名で呼ばれる機会も減り、ホストの通称で呼ばれることが多くなった今は、本名よりも『アキラ』のほうがしっくりくる。
(取り合えず、本名で――)
そう考えていた時だった。バン! とけたたましい音を立てて、事務所の扉が開く。何事かと思って顔を上げると、不機嫌そうな顔で北斗が立っていた。
「おわっ、ビックリした……! お前、急に入って来るなよ!」
今日はアフターのはずだが、どうしたのかと首を傾げる。
「お前、アフターは?」
「三十分で切り上げた」
「――ああ、そう……」
そりゃあ、相手の女の子も可哀想に。と、思ったが、北斗にしてはマシな方か。北斗はアフターのデートでも基本的に密室で二人にはならない。すなわち、カラオケや個室居酒屋など、そういうスタイルの店には行かなかった。時間も長くて一時間ちょっと。それでも、女の子は北斗とデートしたくてアフターを待つ。
「切り上げて来たなら、たまには仕舞い作業手伝え――」
仕事を覚えさせるついでに、手伝ってもらおうとそう告げた。だが、その言葉は最後まで言い切ることは出来なかった。
グイ、とソファに押し付けられ、嫌な予感に首を捻る。
「お、いっ……、北斗っ――」
「僕、今日接客頑張ったと思うんだよね」
「それは……」
女の子にベタベタ触られていたのは記憶にある。我慢していたし、頑張っていた。それは解る。
「っ、おい、昨日も……しただろ」
「昨日は昨日だろ。良いから、黙ってケツ貸せよ」
「おまっ……!」
抗議しようとしたのを、馬鹿力で押さえつけられる。このままじゃ、またヤられる。しかも、事務所で。最悪だと思いながら、ジタバタと暴れるのを、腕を捕らえられて防がれた。両腕を後ろに回され、何をされるのか理解し、ゾクッと背筋が粟立つ。
「まっ……! 北斗っ!」
両腕を腰のあたりで、縛り付けられる。多分、北斗のネクタイだ。両腕を封じられ、身体を捩って逃げようとするも、北斗は体重をかけてきて、身動きが取れなくなる。
「っ、おいっ! いい加減にっ……」
「黙れよ」
北斗の唇が、叫ぶ俺の唇を封じる。ねっとりと口の中を嬲られ、ビクンと肩が揺れる。酒の風味が、唇から鼻に抜ける。
「っん……、あ……」
ゾクゾクと、背筋が震える。舌が唇を這う。擽るように口の中を弄られ、身体が火照る。そんな気などないはずなのに、キスの甘さに酔ってしまいそうだった。
「ぁ、北斗……、おま……んっ」
北斗の身体が熱い。多分、いつもよりも酔っている。強いカクテルを何杯も飲まされたせいだろう。アルコールの気配に、こっちまで酔ってしまいそうだ。
「ん、はっ……、あ……」
キスをしながら、北斗の指がボタンに掛かる。ジャケットを脱がされ、シャツのボタンを外されていく。縛られているせいで、中途半端に脱がされた服が、肩に引っ掛かっていた。
「北……斗っ……、ヤ、んなら……、家、帰って……」
「無理。ガマン出来ない」
ぐり、北斗が腰を押し付けて来る。飲んでるクセに、何でこんなにガチガチなのか、北斗の欲望は硬く張り詰めていた。
「っ……」
カァと頬を熱くして、北斗を見る。獰猛な、獣みたいな顔をして、息を荒らげている。その表情に、ゾクリと背筋が震えた。
(なんで、こんな……)
治まりそうにない熱に、こっちまで当てられる。身体は北斗の味を知っていて、あの塊で貫かれる快感を、覚えている。
俺が黙ってしまうと、北斗は無言でスラックスのファスナーを下ろし始めた。あっという間に下着ごと脱がされ、下半身を丸出しにされる。
「……アキラ……」
ハァと熱っぽい息を吐き出して、脚を掴む。両膝を開かれ、全部見られてしまっているのに、両手を縛られていて隠すことも出来やしない。
「はっ……。ヒクヒクしてる……。興奮してんの?」
「っ、るせ……」
指先が、ヒダを撫でた。ビクッと膝を揺らす。入り口を撫でられ、身体を捩る。優しく触れられるのが、気持ち良くて嫌だ。本当なら受け入れる場所じゃないのに、ここを擦られると気持ち良いと、知ってしまっている。
「っあ、北斗っ……!」
事務所の中は明るくて、嫌でも全部見られてしまう。あさましくヒクついている穴も、触れられて切なげに震える性器も。
北斗はポケットに手を突っ込んで、ローションパックを手に取ると、徐に穴に注いだ。体温で生ぬるくなったローションが、穴に触れる。それを指で塗り付けるように擦られると、敏感な穴は気持ち良くて、知らずに声が出てしまう。
「ひっ、あっ……♥」
「気持ち良さそうな顔……。アキラ、アナル弄られんの、好きだよね」
「っん、好き、じゃ……っ」
口で否定しても、バレて居るんだろう。北斗の口元が笑っている。
(ああ、クソっ……)
入り口を弄んでいた指が、ぬちゅっと内部に侵入してきた。違和感に、身を捩る。
「アキラのナカ、温かいって知ってた?」
「っ、んっ……、知る……かっ……」
指が抜き差しされ、粘膜を擦られる。出入りする感覚が、気持ち良い。ヌルヌルした指で擦られるのは、背徳的で酷く淫靡だ。
北斗の質量に慣れている穴は、指だけでは物足りない。それを知っている癖に、北斗は焦らすように指を増やして、中で指を開いたり曲げたりして、解していくばかりだ。
「あ――、あ、あっ……、北斗っ……!」
指が、好い所を掠める。けど、ソコを北斗は刺激してくれない。焦らされて、眦に涙が浮かぶ。
「北斗、北斗っ……、あっ、あ……そこっ……!」
「アキラの気持ち良いトコ、触って欲しい?」
トントンと、指が前立腺をつつく。大げさなほどビクンと身体をしならせ、声にならない悲鳴を上げる。
「っ~~~~!!」
快感に、頭が一瞬真っ白になる。ここが事務所だとか、そんなこと、もう頭から追いやられていた。
「あ、あっ……♥ あ……、ほく、と……、っ♥」
「アキラももう、我慢出来なさそうだし……。挿れるね」
指が引き抜かれ、代わりに肉棒が押し当てられる。ビクッと、本能で身体が震えた。
「あ――…」
ゾクッ、背筋が震える。
「あ、ヤダ……っ、北斗っ……、待っ……」
「嫌じゃ、ねえだろ……。欲しい、くせにっ……!」
足を掴んで、北斗が一気に進入してきた。指とは比べ物にならない質量に、息が詰まる。
「っ!!」
粘膜を擦られ、快感に意識が飛ぶ。不自由な腕が、余計に興奮を掻き立てる。
「あっ……♥ あ、あっ……♥」
「……挿れただけでイクとか、エロ過ぎ……」
「あ♥ あ……♥ ヤダ……、北斗っ……♥ 擦っ……♥」
ずっ♥ ずっ♥ と、内部を擦られ、ビクビクと身体が震える。イったばかりで敏感になっているというのに、北斗は容赦なく腰を打ち付ける。
「待っ……♥ 待って♥ 待っ……♥ 今、擦っちゃっ……♥」
「っ……、はぁ……、マジで…、堪んない……」
快楽で、どうにかなりそうだ。押し返そうにも、拘束されていてそれも出来ない。ただ、北斗の良いように使われる。その事実にさえ興奮して、頭がおかしくなりそうだ。
「北斗っ……♥ 北斗っ……♥」
「あんた、エロ過ぎでしょ……」
北斗が耳元に囁く。けれど、快感のせいで、どこか遠くでそれを聞いていた。
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