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面白い所がある、と友達のナオキに案内された先は、今にも倒れそうなボロアパートだった。 空き家探索にでも目覚めたのかと言いたくなったが、目的はそうではないらしい。 「今日はちゃんと出るかなーっと」 ナオキは独り言のようにそう言って、スマートフォンを取り出した。いつもの無料通話ではない電話のアプリを開き、何処かへ発信してから自分の耳に宛てる。 しばらくすると、部屋の中から黒電話のベルの音が鳴った。扉越しにもかなり耳障りなその音は、すぐに切れた。 ナオキは発信音の切れたスマートフォンをポケットにしまい、俺に向かってにやりと笑う。 「お前、カオリちゃんと別れてご無沙汰だろ?」 カオリちゃんというのは、いわゆる俺の元カノの名前だ。俺の浮気が原因で数ヶ月前に別れて以降、特に連絡は取っていない。一方で浮気相手の方とも付き合う気にはなれず、世間で言うところのセフレに落ち着いている。 風俗店か、とようやく察する。ナオキは学生の頃から気の良いヤツだが、相も変わらず単純で雑な性格だ。20代半ばになっても、会話のレベルは高校生とまるで変わっていない。 「いや、別にご無沙汰ってワケじゃあ──」 言い返すのをさえぎられるようなタイミングで扉の取っ手が動いた。開け閉めするだけで、蝶番が軋む嫌な音を立てる。 出てきたのは、一人の痩せた男だった。年齢は俺たちより少し若い、まだ学生のようにも見える。来客の前だというのに半裸で、頭にはタオルを被っている。顔の横に垂れるほど長い髪から水滴が滴り、その間から、開いているのか閉じているのかも分からない糸目が覗いていた。 「二人なんだけど、いいかな」 ナオキがそう訊ねると、彼は睨むようにこちらを見た。それからすぐに視線を落とし、ぶっきらぼうに返す。 「別に……お金さえ貰えれば」 かすれた声で、聞き取りづらい。ナオキは満足げに笑うと、彼を押し退けるように部屋の中へ入って行ってしまう。 これがこの風俗店の受付なのだろうか。 不安なまま、仕方なくその後ろに続く。部屋の中は電気が点いておらず、どうなっているのかよく見えない。油の上に埃の溜まったような独特のにおいが、こもるようにただよっていた。 玄関に上がり、靴を脱ぐ。 「あんた」 すれ違う瞬間、小さな声で呼び止められた。 「えっ?」 驚いて聞き返すと、何やらむずむずと口を動かしてから、 「カレシか、カノジョは?」 「は?」 予想外の質問に戸惑ってしまう。すぐにナオキの声が飛んでくる。 「マシュー!」 口をへの字に曲げ、俺の腕をつかんだまま、部屋の奥を振り向く。 「そいつね、こないだ別れたばっかなの! フリーだから、大丈夫!」 マシューと呼ばれた彼はまた向き直ると、握っていた俺の腕を離した。 思わず顔を凝視する。マシューという名前の割にはどう見ても日本人で、その中でも、パッとしない部類だった。 細い一重の目に、幅の広い鼻。愛想笑いなんて知らない薄い唇。ただその脇にぽつんとある小さなホクロだけが、なけなしの色気を持っているように見えた。 マシューはそんな俺の視線を避けるようにきびすを返し、部屋の奥へと向かう。水滴がついた猫背の後ろ姿に、仕方なくついて行く。湿気った空気に乗って、安っぽい石鹸の匂いがした。 少しずつ目が慣れて、薄暗い部屋の中にある物が見えてくる。 一番に目についたのは、大きなキャンバスだった。所狭しと壁に立て掛けられたものや、何枚も床に重ねられたもの。 その隙間を縫うように汚れたパレットや絵筆、絵の具のチューブなどが転がっている。筆洗用と思われるバケツもあった。 他にも、ベルのついた大きな目覚まし時計も、ティッシュ箱もゴミ箱も、目薬も、何かの茶色い空き瓶も、床に散乱していた。普通なら天井にあるはずの電球まで、針金みたいなデザインのシェードと一緒に転がり、目に悪そうな黄色に光っている。 家具と呼べるものは低いパイプベッドと、年季の入ったタンスが1つだけ。テレビはおろか机もない。 嬢と呼ばれる女性の影もなかった。風俗店というのは、思い違いだったのだろうか。 「なに話してたんだよ」 部屋に戸惑う俺には構わず、ナオキは部屋の最奥、窓際に置かれたベッドに、当たり前のように座っていた。カーテンはきっちりと閉められ、日曜日の昼だという事も分からない。 「別に」 ナオキの質問に、マシューはぶっきらぼうに応じるだけ。 「相手がいようが関係ねぇのに。マジメだよなぁ」 「うるさいよ。後で面倒に巻き込まれたくないだけ」 どれくらいの付き合いなのか、どういう関係なのか。ナオキが一方的にマシューに対して距離を詰めているように見えた。 「ワタルはその辺に座っとけ」 何の説明もしようとせず、勝手に話を進めるのに呆れていてはキリがない。 その場に転がった画材やらを退けて床に腰を下ろした。相変わらず不機嫌そうに見てくる視線を感じながら。 「それで、今日はどうするの」 マシューは頭に乗せていたタオルを取り、抑揚のない声でナオキにたずねた。 「この前と同じでいい。2時間だっけ」 「いちいち覚えてないよ」 だるそうに立ったまま、首を振るマシュー。ナオキは腕を伸ばし、その腹を軽く小突いた。 「嘘つけ。こんなに来てやってるのに」 ふたりの温度差や、距離感がいまだにつかめない。 「知らない。2時間ね」 マシューは淡々と受け流し、ナオキに向かって手を出した。ナオキが尻ポケットから封筒を取り出して渡す。 封筒の中身を確認したマシューはもう一度ナオキを見た後、俺の方を見た。 なぜか責められているような気分になる。どんな場所かも聞かされていないのに、何かを準備できているはずがない。 どう答えようか迷っていると、ナオキがまた手を伸ばしてマシューの体に触る。 「あいつはいいよ。今回は見学だけで」 「料金は変えられないけど」 「いいって。それ、ちゃんと2人分入ってるだろ」 「あー……そういうこと?」 さっきより少しだけ抑揚のついた聞き返しをしてから、ようやく納得した様子。部屋の隅に置かれたタンスのひきだしを開け、その中に封筒ごとしまった。 それから足元に転がっていた目覚まし時計を拾い上げ、ガリガリとつまみを回す。 「カネの話はいいからさあ、早くしろって」 ナオキがイライラした口調で言ったが、マシューは答えず、セットした目覚まし時計をまた床に置く。ひょろりとした体が動くのは、下からの照明に照らされて、少し不気味ですらあった。 ようやくマシューはベッドに座ったナオキの目の前に座った。距離が異様に近いように思えるのは、気のせいなのだろうか。ナオキの開いた脚の間に割り込むような形で、床に正座している。 また俺をふり向くマシュー。片目が前髪で隠れ、目が細いので視線が合っているのか分かりづらい。 「あんた、ホントにしなくていいの?」 何の事だか分からないが、とりあえずうなずいた。マシューはやっと納得したように、 「ふーん、見てるのが好きなんだ」 そう言って、ナオキのほうへ向き直った。 まだ何のことか分からず、見ているしかなかった。 すると、マシューはいきなり目の前のベルトを外し、ジーンズの前を開いて、出てきたモノを口に含み始めた。 何が起こっているのか、理解できなかった。ナオキを見るが、それが当然のようにマシューの頭を押さえている。 昼だというのに薄暗い建物、がさつな電球が照らす、散らかった不気味な部屋。がさつな友達と、見ず知らずの若い男が、いきなりおっ始めたのだ。 俺は驚いて声も出なくなってしまう。 内容は風俗店とほとんど変わらないのに、それが男同士というだけで、かなりかけ離れている。非日常的な空間で、冷静ではいられなかった。 さっきの封筒には、それなりの額の金が入っていたのかも知れない。受け取ったマシューは、同じ男のナオキに奉仕している。 「もういい、上乗れ」 ナオキがマシューの長い前髪をつかんで、顎をくって命令した。友達がこういう時は人格が変わるタイプだなんて知らなかったし、別に知りたくもなかった。 俺たちはスワッピングをするような仲でも、一緒にソープランドにいくような仲でもなかった。ただ同じ高校を出て、大学生から社会人になってもつるむ、数少ない友達の1人だ。 マシューは口元をぬぐって一度立ち上がると、穿いていたズボンと下着をその場に脱ぎ捨て、ナオキの脚の上にまたがった。 信じられない光景だったが、それは間違いなく男同士の「セックス」だった。1つしかない穴に、突き刺さっている。 ナオキの肩に手を置き、ベッドに足を乗せて、腰を上下させるマシューという男。他人が見ている事なんか意識の外に行ってしまったみたいに、動物的でさえある動きだった。その陰になって、ナオキの表情は見えない。 しばらくすると、マシューが息を荒げ始める。はあはあという吐息と、嫌な音を立てて軋むパイプベッド。薄いマットレスを置いただけのそこに、さっきの態度からは想像もつかない、甘い喘ぎが混じっていた。 「勝手にキモチよくなるなよ、ちゃんとご奉仕しろ」 ナオキはそう言って、つかんでいた尻をぴしゃりと叩いた。 「あう!」 マシューががくんと体勢を崩し、しなだれ掛かる。 ナオキは雑に支えながらベッドの上を少し移動して、脚を伸ばす。肩にかかっていたマシューの手をはなさせる。 ふたりの顔が見えるようになった。と言ってもナオキは少し背を向ける形で、見えるのはせいぜい横顔くらいだ。 「おら、そっち」 雑な指示を受けて、マシューは体を離す。 マシューの表情がよく見えるようになった。感情の読み取れない目だが、その上の薄い眉をハの字にしているのが分かる。なんとも情けない表情だった。 繋がったままゆっくりと後ろへ倒れていく、ベッドについた足で体重を支え、相手の腰に座らないようにする。 「そうだよ」 ちょうどいい位置に来たのか、ナオキが腰を突き出した。 マシューは一度うなずき、腕を伸ばしてベッドに両手を突くと、手と足で浮かせた腰を上下に振り始める。それまでよりも大きい音を立てて、まるで聞いている人間を誘うように。 「はっ、はっ……んっ、んっ!」 長い髪が揺れる。眉間に皺を寄せた顔が見え隠れする。声を漏らす薄い唇は噛み締められ、濡れていた。痩せた体にかろうじて残ったような胸の筋肉が揺れている。 波打つような動きに、ナオキも飲み込まれているようだった。 ナオキは一度動きを止めて、引き抜いた。 「ううっ!」 呻き声が聞こえ、マシューが腰を落としそうになる。 ナオキはすでにへとへとになったマシューを引き寄せて、抱え上げるようにした。膝の上で反転させられた痩せた体が、俺の方へ向けられる。 ぺたんこの腹の下の毛は薄く、男の象徴は萎えてしまっているのが分かった。あれだけ気持ちよさそうに喘いでいたのに、意外だった。 だがそんな事にはお構いなしのナオキはマシューの脚を開かせ、その部分をさらに指で広げて、見せてきた。ナオキの首に腕を回したマシューは恥ずかしがるように、顔を隠している。 「ワタルも、入れてやれ」 どくん、と心臓が跳ねた。そう言われるのではないかと、薄々予想はしていた。全身が熱くなってくる。 「あ、ええっと……」 「大丈夫だよ。こいつ、こうされんの好きだから。なあ?」 動けない俺を見かねてか、ナオキは片手でマシューの髪をひっぱった。 マシューが俺の方を向く。赤くなった顔に、潤んだ目だった。 「見ただろ、この顔。どっちが|悦《よろこ》ばせてんのか。カネ払ってるお客様だってのによ」 とナオキが恐い顔で笑う。 俺はおかしくなってしまったのかも知れない。無愛想に睨んできた視線とは正反対な、健気さや可愛らしさに近いものさえ感じてしまいそうになる。こんなに痩せた、情けない、男を相手に。 普段はお気楽な性格のナオキが、ベッドではこんなに強気な態度になるのか。と思っていたが、もしかしたら、このマシューという男にそうさせるものがあるのかも知れない。 脚を抱え上げられた彼は、もう逃げる事も叶わない。ナオキの言う通り、ひくひくと動く暗い穴は埋めるものを欲しがっているようにすら見えた。 「欲しいんだろ? ほら、おねだりしてみろよ」 ナオキが茶化すように言うが、マシューは今にも泣き出しそうに首を振る。 「こいつね、ワタルっていうの。部屋に来た時から気になってただろ?」 「ワタル……」 教えられ、ナオキの顔を見たまま、小さく一度繰り返す。それから俺の方を向き、何度も詰まりながら言葉を押し出す。 「お願い、おれに、いれて……」 「それが人にモノ頼む態度かよ?」 どうしたものかとためらっているうちに、震えるマシューをナオキが一蹴する。 「キモチよくさせないといけないのは誰だ? お前、自分の立場ってモンが分かってんのか?」 マシューは視線を落とし、もう一度恥ずかしそうに口を開いた。 「いれてください……ワタルさんのぶっといのを、おれの穴に……」 それを聞いて、自然に体が動いてしまった。ベルトと、ジーンズのホックをはずし、チャックを開ける。下着とジーンズを一緒に膝まで下ろして、ベッドに近付いた。 涙を浮かべたマシューの細い目から注がれる視線を、痛いほど感じる。 暗い入口に宛てがい、そのまま挿入した。何の抵抗もなく呑み込まれ、びったりと包み込んで、深い場所へとうながすような感触だった。 「うああッ!」 マシューがのけ反り、びくびくと跳ねるように震えた。そうしながら、上体をひねってナオキにすがり付くが、 「ほら、オレじゃねぇだろ!」 言い捨てるナオキの声は恐いほど厳しかった。 それからすぐに、ベッドに押さえ付けられるマシューが視界に入る。その体に覆いかぶさり、突き込んだ。 「あっ、あっ!」 俺の動きに合わせてマシューが大きな声を上げる。ぶっきらぼうで抑揚のない話し声とは別人のようだった。 肉の薄い固い尻、なけなしの筋肉の弾力、あばらの浮いた体に、ぺたんこの腹……生活に苦労しているのは容易に想像ができた。 でなければ、こんな事はしていないだろう。金を受け取って、見ず知らずの男に体を売るような事は。 「ま……マシュー?」 普段あまり呼び慣れない外国人のような名前。それをどう見ても日本人で、初対面の相手に言うのは違和感や恥ずかしさがあった。 けれどマシューは喘ぎ声を漏らしながら、返事をする代わりに俺を見てくる。一重まぶたの下にある小さな目で、まっすぐに。 「大丈夫……?」 腰を動かしながら確認すると、マシューは不思議そうな表情を浮かべ、それから眉根を寄せた。 「な、なにが……」 聞き返されるのももっともだ。何を言っているのか、自分でも分かっていなかった。 俺自身、男を相手にした事はない。さっきのナオキのプレイも激しかった。それが少し気にかかったのだ。俺のペースでコトを運んでしまって、大丈夫なのだろうかと。 ただ、それがうまく説明できない。 なんの説明もなく連れて来られた、今にも崩れそうなボロアパートの、電話の音すら筒抜けてしまう扉の中で、見ず知らずの相手と。もちろんそんなのは初めてだった。 しかも相手がなかなかの名器だったら、そんな状況でまともに会話をするのは無理だ。 返事をするより先に限界を迎えてしまうのはさすがにまずい気がしたので、一度動きをゆるめた。 途端に、ナオキが割り込んでくる。 「おい、マシュー、口開いてんぞ」 ベッドに座ったまま、マシューの頭の左側に陣取り、まだ硬さを保ったそれを見せつけていた。 「えっ……」 マシューが一瞬戸惑うような表情を見せた。意識をどちらに向けるべきか迷っていた。 俺は一度マシューから離れると、膝まで下げていたジーンズとパンツを足から抜き、蹴って脇へやった。 それからマシューの脚を持ち上げ、そのまま胸につけさせる。マシューが当たり前のように脚を両手で抱え込んだので、こうした経験はかなりあるのだろうと分かった。 「ン、グッ……」 立ち上がって見ると、ナオキはまたマシューの口に押し込んでいた。 苦しそうにしつつも、マシューは顔をナオキの方へ向け、受け入れている。頬っぺたが突き出して、喉仏も動いていた。 「マシュー、俺も、また入れるからな」 声をかけてから、マシューの膝の裏へ手を置き、挿入した。 「ンンン!」 こもった高い声が響く。 「おお……すげぇ、それいい」 ナオキが嬉しそうに言いながら腰を浮かせ、喉の奥へ進もうとする。 それを気にしている余裕は無かった。俺もマシューの体の奥へと進みながら、この行為に夢中になり始めていた。 マシューの中は熱く、ぬるぬるとしていて、動きながら、体の中でいちばん敏感な部分を締め付けてくる。俺がいい所を突くとマシューが声を上げ、その喉が震える刺激は、ナオキも気に入ったらしく、いっそうマシューを攻める。顎や喉をつかんで、腰を押し付ける。 俺には3Pの経験だってなかった。こんな事ができるのは、何も特別な感情の無いただの友達と、カネを払って抱く初対面の相手だからだ。友達の奢りで男を抱く事になるなんて、予想もしなかった。 「出る、出すぞマシュー。ちゃんと、飲めよ……」 先に始めていたナオキが言った。 言われた通り、マシューは抱えていた脚から腕を離し、顔の方へ伸ばす。ナオキの根元に手をやり、ぴったりと隙間なく唇をつけて、喉の奥へ進ませる。 その間も体を揺するように突かれ続けて、苦しくはないのだろうか、と思ってしまう。だからと言って俺の方も、遠慮して動きを止められるものでもないのに。 ナオキが姿勢を落とし、マシューの口に発射する。いつの間にか全員汗だくになっていて、ぬめった肌が黄色っぽい裸電球の明かりを跳ね返していた。 一度飲み込む動きをした後も、ジュルジュルと音を立てて、マシューはそれを一滴残らず吸い取った。 そうしている間、俺は歯を食いしばって耐えた。 ようやく口を離して、唇を濡らしたままのマシューが俺を見ようとする。 何か言われる前に、小さく腰を持ち上げる。それからベッドに膝を突いて上がり、開いている尻の間をさらに割って押し込んだ。 「やっ、待って……」 マシューは苦しそうな呼吸を続けている。入り口は広げられているのに、よりきつくなったような感覚だった。体勢のせいか、マシューの体がそうさせたのかは分からない。ほじくるようにしながら、叩き付けた。 「ああぁ……!」 マシューが喉から絞り出すような声を上げ、嫌がるように首を振るのが見えた。 でも止められなかった。体をゆすって、熱い中に出してしまった。 ひっ、と息を吸い込む音が聞こえた。目を開くと、それまで気にならなかったマシュー自身が目に入る。小さめだったが、いつの間にか芯が通ったように硬くなって、ぴくぴく震えていた。 「うー……」 両腕で顔を隠して呻くマシューは両膝を曲げて、あお向けにつぶれたカエルみたいだった。

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