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第1話 契約は突然で

私ーーー山田祥平は現在酔っ払いに絡まれている。 「なぁ兄ちゃん、お金貸してくれよぉ……いいだろう? 少しくらい」 「飲み過ぎですよ。とりあえず、一旦離れてもらえます?」  一応ダメ元で離れるよう促してみる。 「ああ? そんなことよりお金ぇ! 金がねえんだよぉ〜なぁ〜俺このままだと借金取りに殺されちまうよ」  だめだ。あからさまに絡んではいけない人間だった。  こうなったのも全て上司のせいだ。上司の仕事を押し付けられ、残業をした結果、会社を出たのが深夜2時。おかげで帰ることも出来ずホテルを探して深夜の街を歩いているという状態だ。 『オレがそいつの事、ぶっ飛ばしてやろうか?』  不意に耳元で声が聞こえた。秋の夜に聞こえる鈴虫のような静かな声。しかしその声は私の脳に染み込むように響いていった。 「誰だ!?」  辺りを見渡すがこちらを見ている人はいない。一体どこから声がしたのだろうか。 「兄ちゃんどこ見てんだよ!」  突然酔っ払いの声が荒くなった。腕を掴む力が強くなり、強引に路地裏へと連れていかれる。先ほどまでと違い、ひどく興奮している様子だった。 (どうしたのだろう……?)  そんなによそ見をされたのが気に食わなかったのだろうか。それにしては急変しすぎな気がする。まさか、薬が切れたとかそんな感じだろうか。だとすると何をするか分からない。  必死に抵抗するも、酔っ払いが腕を離してくれることはなく、ずるずると連れていかれてしまった。  建物と建物の隙間へと連れていかれたところで酔っ払いは手を離した。ようやく離された腕を少しさすりながら、いつ逃げようかと様子を窺ったーーーその時 「……っゔ!?」  突然腹部に熱い衝撃が走る。刃物で切り付けられたらしい。そのまま倒れ込んだ私を酔っ払いが踏みつける。どうやら無理やりお金を盗むことにしたらしいと理解した頃には、もう意識は朦朧としていた。 『オレがぶっ飛ばしてあげるよ』  また声がした。ぶっ飛ばしたいなら、もうどうとでもすればいい。  酔っ払いが何かにふっ飛ばされるのをぼんやりと確認しながら私は意識を手放した。

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