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第5話 デート終わりの契約解除
「そろそろ帰らなくちゃな」
夕暮れの中、アマネが手を引きながらそう呟く。
「ああ、そうだね。そろそろ暗くなるし、デートはもう十分した気がするし……」
不思議なことに、このデートが終わるのを寂しく思っている自分がいた。
「ねえ、シュウ」
アマネが呼ぶ。なぜか握られている手が熱い気がした。
「悪魔にならない?」
こちらを振り向いたアマネの瞳は揺れていて、どこか寂しそうに見えた。
「悪魔になれば、こうして毎日遊べるし、ずっとオレたちそばに居られるよ?」
赤い瞳が夕陽に照らされて、さらに赤く見えた。アマネが呟いたそれはとても甘い誘惑のようで、私の心を惹きつけた。
しかし、私の信念がそれを許さなかった。
「私は……いや、俺は! どんな人間も等しくあの世へ送って、正しく罪を償わせる! そんな死神になるんだ!」
「そっ……か」
アマネはゆっくりと瞼を下ろす。顔をこちらに見せないようにした後、すっといつもの笑顔を向けてこう言った。
「ま、言ってみただけだし? さ、契約解除♪解除♪」
「どうすればいいんだ?」
そういえば契約の解除方法を聞いていなかった。
「目瞑ったまま右手出して。あ、ちょっと痛いから覚悟してね」
言われた通り目を瞑り、手を出した。アマネが手に触れた感触がしたかと思うと、手の甲に鋭い痛みが走った。針で手の甲を刺されたようなそんな痛みだった。
脳裏に誰かの記憶が流れ込む。遠い遠い昔の記憶。古すぎてよく見えないが、誰かが死んで強く悲しんでいる。そんな記憶が見えた。
『シュウ……!シュウ……!!』
誰かがそう呼んでいた。
「ぐっ……ガッ……ァ」
アマネの方から苦しそうな声が聞こえ、慌てて目を開ける。
手の甲の契約の印が消えかけているのと同時に、アマネの羽が青い炎で焼かれていた。
「どうして!?」
慌てて水を探そうとするが、アマネに手を握られていて動けない。見ることしかできないまま、直に羽が焼き尽くされていく。
「はぁっ……はぁっ……見苦しい姿見せてごめんね? 契約解除には悪魔にペナルティが発生するってわけ」
「そんなこと、最初から言ってくれてれば!」
「言ってれば、お前は躊躇っただろ?」
苦しそうに肩で息をしながら、アマネがこちらを見る。その通りだ。悪魔であるはずのアマネがなぜ、こうまでして私との契約を解除してくれたのだろうか。
「オレさ、いつかみんなが聞いて怯えるようなこわ〜い悪魔になるのが夢なんだ」
「……急になにを」
「だからさ、オレがそうなる頃にはシュウに立派な死神になってて欲しいんだよ!」
両手を背に隠したアマネは目を細め、人懐っこい笑みを浮かべた。
その笑みを昔、どこかでみたことがあった。遠い昔。もう記憶にないくらい昔。すぐそこまで出てきている気がするのに、思い出せない、大切だった人。
「あ、お迎えが来たな」
アマネが見上げる先を見てみれば、死神の先生達がカンカンに怒った顔で空から降りてきていた。
「じゃな、シュウ」
「あ、待って!」
私の声を振り切るように、アマネは背を向けてどこかへと飛んでいった。
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