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第4話
「お疲れ様です」
「お疲れ様でした」
3ヶ月かけて、全国のファンへの感謝の気持ちを込めたツアーを回った。
足を運べなかった地域もある。
予定が会わなかったファンもいる。
それでも、今は胸がいっぱいだ。
キラキラした笑顔が沢山見れた。
嬉しい気持ちと感謝の気持ちでいっぱいだ。
身体を満たすのは、疲労と愛情。
反省点も沢山あるので、それは必ず改善する。
もっと良いコンサートにしたい。
コンサート終わり、楽屋へと戻る道すがら、キャップを被った男が軽く手を上げた。
「三浦、お疲れ様」
「七瀬さんっ!
お疲れ様です!」
「今日も元気だな。
差し入れ食った?」
「はい。
いただきましたっ。
めちゃくちゃ美味かったです!
ありがとうございます!」
あの日、俺に本物を見せてくれた人は今日もキラキラしている。
キラキラ。
ピカピカ。
だけど、それだけじゃない。
沢山のものを背負っている。
重いだろう。
苦しいだろう。
なのに、一切顔には出さない。
完璧に見られる人だが、この人も生きている人だ。
傷付くことだってあるだろう。
その背負っているものを俺も持ちたい。
少しでも楽になってもらいたい。
なんて、また俺のエゴだ。
「コンサートも最後までやり抜いたし、この前言ってたこと考えてやるよ」
「え?」
「ご褒美、なにが欲しい?」
「七瀬さんが良い」
「ん…?」
「七瀬さんが…、」
思わず口を衝いた言葉にハッとした。
思わず、本当に無意識だった。
「俺がどうした?」
「……そ、の…」
嫌われたらどうしよう。
こわい。
今の居場所まで失いたくない。
自分が我慢すれば、この言葉を飲み込めば、このままが続くならそっちの方が良いだろう。
心臓が、有り得ないくらい五月蝿く脈打つ。
だけど、だけど……
俺は、自分を否定したくない。
人を尊む気持ちは大切だ。
ファンのみんながくれるあたたかな気持ちは、いつも俺を強くしてくれる。
だから……
「七瀬さんが好きだから、隣にいる権利をください」
言ってしまった。
そして、世界は静寂が包む。
あぁ、駄目だ。
涙が出そうだ。
言わなきゃ良かった。
やらない後悔より、やって後悔した方が良いなんて言ったやつは誰だ。
やらない方が後悔しないことだってあるんだ。
世界はいつも裏表がある。
知っているはずなのに。
「本気?」
「あ……、その………」
「本気かって聞いてんの」
「…………はい」
本当に泣きそうだ。
きっと七瀬さんは裏切られた気持ちになっているだろう。
そんな気持ちにさせてしまった罪悪感も重なり、鼻の奥がツンと痛んだ。
すると、ぽすっとなにかが頭の上に乗る。
「ま、まずは友達からな。
世那」
「…っ!」
頭に乗せられたのは、キャップ。
欲しいと強請っても、いつも1番のお気に入りだから駄目と言われていた物だ。
それに、いつもは苗字の三浦なのに、世那って。
名前で呼んでくれた。
はじめて呼んでくれた。
「たまに貸してやる。
けど、匂わせはすんなよ。
炎上する」
「気を付けます…っ」
「うん。
良い子に出来たらご褒美な」
「ごっ、ほうび…っ」
「すけべな想像すんな、すけべ」
キャップの上から頭をグリグリと撫でられた。
俺は、沢山の人達からしあわせをもらっている。
今度はそれを手渡す番だ。
だけど、もう1人特別を手渡したい人が増えた。
「大好きです、七瀬さんっ」
「ほんと伸び代しかねぇな」
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