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第3話

「七瀬さんっ、お疲れ様です!」 「お疲れ。 けど、お疲れなのは三浦だろ。 コンサート後だってのに元気だな。 ファンの子みんな笑顔だったな。 演出も衣装も、すげぇ格好良かった。 呼んでくれたのに途中からで悪かったな。 DVD出たら買って最初から観るわ」 「いえ、忙しい中ありがとうございます」 「観に来るに決まってんだろ。 俺の可愛い後輩なんだから」 七瀬輝。 あの日、俺を魅了したアイドルだ。 今でいう“推し”。 『七』に水が激しく流れる様子を表す『瀬』そして『輝』。 まるで虹みたいな名前だ。 名前までキラキラしている。 はじめて挨拶をした際に、『好きです!七瀬さんに憧れてアイドルになりました!一生推させてください!』と挨拶をしたら、一頻り笑った後に『一生推させるから着いてこい』と有難い言葉までもらってしまった。 それ以降、七瀬さんの強火担当として可愛がってもらっている。 ご飯に連れていってもらったり、洋服のお古をもらったり。 どこかで共演することがあれば、肩を組んで可愛い弟分だと紹介してくれる。 そうやって顔と名前を売り込んでくれるんだ。 やっぱり憧れしかない。 「俺、七瀬さんに憧れて入所したんです。 キラキラしてて、みんなを笑顔に出来て、そんな先輩に褒められてすっげぇ嬉しいです!」 「知ってる。 何度も聞いたし、何回も雑誌で読んだ。 ほんと俺のこと好きだな。 かわいいやつ」 「なら、そのキャップください」 「これはだぁめ。 俺の1番のお気に入りだっつってんだろ」 アイドルの志心になる人。 なのに、どんどん“別の意味”でも惹かれていった。 いけないのに。 社会が多様性を唱えるようになっても、アイドルにとってはご法度。 夢をみせる職業者として、そもそも恋愛はすべきではない。 夢から目覚めることはすべきではない。 きっと、そうだと今日も言葉を飲み込んだ。 「かわりに、また飯連れてってやるよ。 なにが食いたいか考えとけ」 「はいっ。 ありがとうございます!」 「次は、油そばの差し入れ持ってくるな。 みんなで仲良く食えよ」 ヒラヒラと手を振る七瀬さんの後ろ姿を見送りながら、頬を緩めた。 褒められた もっと頑張ろ 隠すべきだ。 その為に、仕事が忙しいのは好都合だった。 考えなくて良いから。 動画投稿サイトにメンバーとのやりとりをアップしたり、バラエティ番組に出演したり、小さなことでもコツコツと。 少しでも次に繋げることが出来れば、ファンのみんなが喜んでくれる。 頑張れるサイクルが生まれる。 七瀬さんへの気持ちは心に秘めるだけのものだけど、俺にとって大切な活力だ。

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