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第15話 茂人side誤解

 楓君がブチ切れてる。静かな怒りと諦めを滲ませて。俺は何がどうなっているのか分からなくて、呆然としてしまった。しかも目の前の楓君は顔色が悪くて、今にも倒れそうだ。俺は楓君を落ち着かせようと、少し声を低くして言った。 「…楓君、何か色々と誤解があるみたいだ。取り敢えず、顔色も良くないから座って温かいものでも飲もう。ね?」  すると楓君は首を振って、身を強ばらせた。俺には楓君が初めてレンタル彼氏で会った時の様な頑なさを感じて、焦燥感を感じていた。 「楓君!…お願いだから、座って。」  するとハッと顔を上げた楓君は、苦しげな表情で俺を見つめると、フイと視線を逸らして渋々ベッドに座った。俺は妙な緊張感で殺していた息を吐くと、一人暮らしのワンコンロのミニキッチンでお湯を沸かした。  部屋の奥の楓君の気配を感じながら、これからどうしたものかと考えていた。さっき、楓君は何て言ってただろうか。俺と楓君が付き合ってるのがバレたら恥ずかしいのかって言ってた?  一体どこからそんな事思ったんだろう。俺はみんなに楓君の事見せびらかしたいくらいなのに。そう考えながら、さっきコンビニで買ってきた緑茶のティーバックをカップにひとつづつ入れてお湯を注いだ。抹茶入りだったのかお湯は直ぐに綺麗な緑茶色に染まっていった。  ティーバックを皿に取り出すと、ベッドに座っている楓君にカップをひとつ渡した。 「まずはこれ飲んで。調子悪い時はコーヒーとかより、温かい緑茶の方が身体に馴染むから。」  手の中に温かさを感じたんだろう。楓君は少し表情も緩んで素直にコクコクとお茶を飲んだ。俺も楓君の様子を見ながら、同じ様に飲んだ。 「…美味しい。」  温まったのか、少しだけ顔色の良くなった楓君が呟いた。俺は自分のカップをテーブルに置くと、どこに座ろうかと周囲を見回した。一人暮らしの大学生の部屋は、皆似たり寄ったりだ。俺はテーブルを間に置いて、ベッドに座る楓君と向き合って床のラグの上に正座した。 「楓君がさっき言ったこと、ひとつづつ誤解を解いていきたいな。まず最初にどうして俺が楓君と付き合ってること恥ずかしいなんて思ったんだろ。俺はどっちかと言うと、友達にも楓君のバイト先にも堂々と言いたいけどね?  俺は楓君が男同士とか気にするかなと思って、拓也、あ、立花に付き合ってるのが楓君だとは言ってないんだ。楓君のお許しが出たら、立花に思いっきり惚気るけど。」  楓君がぼんやりと俺を見つめた。想像もしてなかったって感じだ。俺はクスッと笑うと、立ち上がって、楓君のベッドの隣に距離を少し空けて座った。 「後なんだっけ?犬猫みたいな可愛さだっけ?俺にとっては、楓君は犬猫の可愛さとは違うけど。何か胸の奥が疼く様な溢れる気持ちだよ。あぁ、可愛いなって。その可愛いは好きと同じ気がするけど。  だから、楓君が俺のことどれくらい好きなのかよく分からないけど、少なくとも俺相当楓君に参ってるんだよ。」  そう言って楓君の手の中の、空っぽになったカップをそっと取り上げるとテーブルに置いた。ふと楓君の手が熱い気がして、そっとおでこに手を当てると案の定熱があった。 「楓君、熱があるね。体温計とか、解熱剤持ってる?」  それから俺はぼんやりした楓君の服を脱がして、引き出しから薄手のパジャマを着せると薬を飲ませてベッドに寝かしつけた。熱はそこまで高くはなかったけれど、薬を飲んだ方が楓君がぐっすりよく眠れる気がした。  横たわった楓君は、俺を潤んだ目でじっと見て囁いた。 「茂人さん、僕、…ごめんなさい。」  俺はクスッと笑って、楓君のおでこにキスして言った。 「調子悪い時は、考えることも悪い方に向いちゃうからね。でもこうやって、ひとつづつ二人の気持ちをちゃんと誤解がない様に擦り合わせていこうよ。俺も楓君に誤解されるくらいなら、恥ずかしいけど心の中全部見せた方が良いよ。  今夜はずっとついててあげるから。泊まるなら、俺ちょっと今から食べ物とか、下着とか買い物してくるから眠ってな。」  楓君が眠ったのを確認すると、俺は急いで出掛けた。まだ早い時間だったので、目当ての買い物を無事済ませて楓君のマンションに戻った。そっと玄関の鍵を開けて入ると、楓君はまだぐっすり眠っていた。おでこに触れると、熱もなさそうだ。薬がよく効いたみたいだ。  俺は買って来たサンドイッチを食べると、やっぱり買って来た裏起毛のスエット上下と下着を手にして、シャワーを借りた。すっかり泊まる気満々だったけど、熱も下がったみたいだから、本当は必要ないのかもしれなかった。  でも楓君の目が覚めた時に、側に居てあげたかった。そんな風に考えて、楓君の部屋の本棚から取り出した、ドラマ化されていたミステリーをベッドに寄り掛かって読んでいた。  ふと楓君が身動きした気がして目をやると、楓君が瞬きしながら俺を見つめていた。俺はこんな時も妙に小動物っぽいなと可愛く思って、にっこり笑うと言った。 「起きた?調子はどうかな。何か食べられそう?」

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