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第3話
蓮はニヤリと片口角を上げた。
蓮のシングルベッドの上で、僕の肩と蓮の肩が僅かに触れるほどに、距離が縮まる。
「お前、まだ俺の事好きなんだ?」
そして蓮は僕の顔を覗き込むようにしてこう言い放つ。
僕はただ狼狽した。
「…はっ!?」
「はは、否定から始まるのかと思ったのに顔赤らめてさぁ。俺、酔うと甘えるタイプ大好きなんだよね」
蓮は相変わらず僕の赤面した顔を覗き込むかのようにして、僕を見ている。
蓮は、昔から自分が興味を持った時にだけ常に手にくっついているであろうスマホを捨てて、楽しそうな顔で物を見る。しかし、今僕を見る蓮の興味はまるで僕であるかのように見える。
そんな蓮に、僕は煽情的なものを感じてしまったのか、腹の辺りがグッと苦しくなった。
「…い、わないで…恥ずかしいから…っ」
「ふーん、恥ずかしい?でもお前の言ったことだからなー」
今の蓮には言わないで、なんて言っても何の意味もなくて、ただ蓮の僕を小突きたい気持ちを責め立てるだけだと分かっている。
「お前俺におぶられてる時、俺の耳元でなんて言ったと思う?当てて」
「…言うならそっちが言って…」
「俺が言っていーの?」
「…うん…」
「蓮♡好き♡好き♡って」
蓮がそう口を開いた瞬間、僕の体は燃えるように熱く熱を帯びた。
僕は蓮のことを自身の視界に入れるだけで愧死しそうで、勢いよく布団に顔を埋めた。
「しかも耳元でなー。流石に歩いてた足止めた」
「無理…無理…帰る」
「バカ、今日お前泊まるって言ったろ。つーか帰れねえだろ電車ねーのに」
「泊まるなんて言ってない…」
「言った。前言撤回無しな」
僕はただ、蓮と酒を飲んでただけなのに…少しの僕の気の緩みと不注意でこんな拷問のような事をされてしまっている。
もう二度と酒なんて飲まない、と強く誓った。
「んで、俺の家着いてお前のこと着替えさせた時もずーっと言ってんの。蓮好き♡って。どんだけ俺の事好きなんだよお前」
僕はガバッと今着ている自分の服を見た。
今の僕はしっかり、蓮のTシャツを着ていた。
蓮に好き好き言いながら着替えさせられたなんて、考えただけで死にたくなる。
「…ねえ死んでいいですか…このまま」
「逃げんな」
僕は確かに高校時代、蓮のことが好きだった。それも恋愛としての意味で。
僕は蓮とは何年も幼馴染、親友としての関係を続けていた。友達であるからにはそれは当然だ。踏み出せば後戻り出来ないことも知っていた。
なのにある日突然、溢れ出す感情に制御出来なくなった。
ごめん、と言われたあの日以降、恋愛として好きだった蓮を忘れたくて、女子と付き合ってみたり、僕の中の蓮を超える人に出逢うべく無理に人を好きになったりした。
結局、蓮を超える人には出逢えなかった。
常に僕の恋愛の基準は蓮。そんな自分を見てはまだ蓮のことが好きなのかも、と思った。
どうやら僕は酔った勢いでまた蓮に好きを伝えていたらしい。
この好きは僕にとって本物なのか分からない。今もこいつを好きなのか、忘れたいのか。
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