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1.これガチのヤツかも(前)
タロちゃんはシてる時に、よくオレの体を触ってくる。頭を撫でたりするだけじゃなく、耳を触ったり、首や肩、胸から脇腹まで触ってくる。その触り方が、何かヤラシイ。
指を広げて、手の平全体がオレの肌に当たるように、絶妙な強さで触ってくる。うなじの少しへこんだ所から、頭の形に沿って髪の中に指を差し込まれるのが特に気持ちいい。
校則から解放されて、肩にかかるほど髪を伸ばせるようになった。短髪だと垢抜けない感じがして、中学の頃は制服に着られている自分の見た目が好きじゃなかった。高校は実家から遠くても、自由服の学校を選んだ。偏差値は問題じゃなかった。
今も仕事中は後ろにまとめているが、下ろして街なかを歩けば、間違えられて「お姉さん」と呼び止められる事がたまにある。ただ身長と肩幅があるから、それほど多くはないが。
洋モノのAV女優にいそう、と言われた事もあるが、何と返せばいいか分からなかった。
他にも、気持ちよくなる所はいくつもある。例えば、あばらの一番下の骨を、手の平の付け根で滑るようにされること。
タロちゃんはオレの気持ちいい場所が分かるみたいに、ピンポイントで触る。狙っているのか、無意識なのか、とにかくそれがすごくいやらしい。
もしもタロちゃんが今もイヌを飼っていたら、あるいはオレがそのイヌだったら、あお向けになって身を投げ出して喜びたくなるような、そんな感じ。突っ込んでいるのはオレの方なのに、身を委ねたくなる。タロちゃんは手だけでオレをイかせる事さえできるんじゃないかと、よく思う。
「こーへい……」
ソファーの上にあお向けになったタロちゃんが、小さく呼んでくる。
敏感になっているのは、肌だけじゃなく五感全部。タロちゃんの声を聞いただけで、ますます早く全身の血が駆け巡る。
触りたい。タロちゃんがしてくるように器用には出来なくても、とにかくオレも向こうの体の色んな所を触って、味わいたくなる。
ぶっちゃけるとキワドイ所まで舐めたり、あちこち噛んだりしてみたいし、いっそのこと食べてしまいたい。この体ごと、オレのものになればいいのにと、何度か本気で思った。
スポーツの習慣も、筋肉もあるはずなのに、骨格が華奢なせいで、タロちゃんは実際の身長よりも小さく見られる。
それに顔も童顔で、25歳の誕生日に高校生と間違えられて、レストランで年確されたと聞いた時は笑った。ビジネスマンっぽく爽やかに整えた髪も、熱心な運動部に見えなくない。
系統で言えば小動物、特にネズミに似ている。ラットではなくマウスのほう。生物学は専門外だったが、大学の講義のレジュメに載っていた画像を見た時から、ひそかに思っている。
食べ物を両手で持って食べていたり、動きやすい白のTシャツを着て、家の中をチョロチョロ掃除していたりすると、ハツカネズミ感が倍増する。実験動物として見ていると勘違いされそうで、本人に言った事はない。
ただ、どれだけ週末にスポーツをしようが、外回りの営業があろうが、スーツの下の肌は柔らかくて白い。
その肌が、風呂上がりや、今みたいにしていると、薄暗くしたリビングでも分かるほど赤っぽくなる。ソファーを汚してしまわないよう、下に敷いたバスタオルから、体の輪郭が浮いて見えた。
赤くなったタロちゃんは黒目の大きな丸い目に涙をためて、オレを見上げてくる。はーっ、はーっ、と苦しそうに息をしながら、また手を伸ばして、鎖骨から胸をべたっと触ってきた。
小さい口の中でよだれが糸を引いていて、突くたびにそこから声が上がる。そのたびにベロの真ん中がくぼんで、また別の生き物が、熱くて暗い中からオレを誘っているみたいに見える。
「タロちゃん、ダメ、やっぱそれ反則……」
それだけ伝えて、タロちゃんの首筋に顔を埋めた。体を密着させる。ソファーの肘置きに片手を置いて、背中を丸め、タロちゃんの匂いを吸い込みながら何回も突いた。
「うそっ、ああ、待って……!」
タロちゃんもタロちゃんで、口ではそう言いながらオレの腰に片脚を絡めてくる。背中に回った小さい手が、爪が、肩甲骨に食い込んでくる。
「無理、待てない」
そう答える時には、タロちゃんの片手がオレの腰の後ろに来ていて、ますます押し込ませようとする。もっと奥に、もっと欲しいと。
2人分の体がソファーに埋もれるくらい、木の脚がギシギシ言うくらい、めちゃくちゃにする。タロちゃんが明日から出張だという事も、すっかり忘れて。
タロちゃんとするのは久しぶりだった。前回は夏だったから、3ヶ月か、もう少し前か。
お互いにマイペースな方だし、業種も違えば働き方も違う。それぞれの生活サイクルやリズムがあって、一緒に住んでいてもそんなに頻繁にヤれるワケじゃない。抜きたくなるタイミングも、たぶん違う。
それに、タロちゃんには少し前まで彼女がいた。“その分”も残しておかないといけないから、変に気を遣ってしまってあんまり誘えなかった。
「ああ、出る、出るっ」
そんなタロちゃんも今はオレの下で、背中がソファーから浮きそうになるほど、のけ反って叫ぶ。気にしなくてよくなったから、本人もガマンしなくなったらしい。
音がしているのに気が付いた。オレの体に触るのをやめて、自分で触って、しごいていた。
「…………」
すぐ髪をかき上げて、ほんの少しだけ体を離してみる。タロちゃんの表情が見たかった。
どっちかと言うと丸顔に近いのに、横顔やアゴの輪郭には男っぽさがある。そのアゴが上がって、オレンジの明かりで、くっきりと影ができていた。
「あ、あ……」
声を漏らして、泣きそうに顔を歪めたタロちゃんとガッチリ目が合う。下腹が引きつる感覚があって、しめ付けられた。それだけで満足だった。
「お、オレもっ、タロちゃん、一緒に」
また覆いかぶさって、入る所まで一気に押し込む。床に下ろした左足を蹴るように突っ張ると、ソファーが動いてしまった。それほど強く。
「うんっ、うんっ……!」
タロちゃんが何度もうなずいてくれるのが分かった。
一緒に、なんてねだるのがおかしいのは、オレだって分かっている。
多分、付き合っていても、そうそう言わないのだろう。ましてルームシェアをしているだけの、男同士の関係なんて。
でもタロちゃんはそれを許してくれる。ほとんど同じタイミングでイッてくれる。
何が悲しくてオレに合わせてくれるのかは知らない。タロちゃんにとってのオレは、性欲に負けて友達に手を出したサルでしかないのに。
温かいを通り越して、熱い所に押し込んで、注ぎ込む。ビュッ、ビュッ、と何回かに分かれて出ていく。その間も、すごく気持ちよくて、また少しだけ腰を揺すってしまった。
タロちゃんはれっきとした男だ。妊娠しない事も分かっている。むしろ、妊娠させてしまったら困る。経済的にメリットがあってこんな生活をしているだけなのに、責任なんて取れない。
「うあ……あ……」
タロちゃんが声を出しながら、細めの腕できつく抱きついてくる。背中の肉に指が食いこんでくる。これも無意識なのか、オレを興奮させるためにわざとやっているのかは知らない。
へその下辺りでドクドクと脈打って、タロちゃんもオレの腹に向かって吐き出しているのを肌で感じる。20代も半ばになると、10代の頃より少し勢いが落ちる。特にこういう場合、萎えてしまって出せない事もある。
でも、今日は調子が良かったらしい。熱い液体が直接下腹にかかって、毛の間を流れていった。
「…………」
オレの頭を抱えていたタロちゃんの左手が、くたっと力尽きたように、ソファーに落ちた。
しばらくくっ付いたまま、呼吸を繰り返す。体の中に空気が流れ込んで、少しずつ、火照っていた体の熱が冷めていく。そう言えばエアコンも入れていなかった。
天井のライトとエアコンのリモコンは、すぐそこのテーブルに置いてある。でも、腕を伸ばせなかった。腰や脚もだるくて、動きたくない。
このまま、タロちゃんと重なったままの状態で寝落ちしたい。それができたらどんなに気持ちいいだろう。ソファーでしなければ、部屋のベッドでしておけば良かった、なんてぼんやりした頭で考える。
「……疲れた」
少しかすれた、話し声の振動が伝わってきた。
「うん」
オレも、と返事をする。まだ動けずにいると、
「ちょっと、重いよ。あと寒い」
タロちゃんがさっきまでとは別人のような、冷静なトーンで言ってきた。少し震えた、だるそうな腕を上げて、オレの体をどかそうとする。
「それオレも思った。エアコン入れてないわ」
顔や体をぐいぐい押され、仕方なく起き上がりながら答えた。
オレがソファーの端に腰を下ろすと、タロちゃんも起き上がり、リモコンに手を伸ばす。慣れた動作だった。夏にもエアコンを点け忘れて、部屋がサウナみたいになったのを思い出した。
ピッ、ピッと1回ずつ、少し質の違う高い音がする。普段のリビングは真っ白のLED電球。一瞬、眩しいほど部屋が明るくなる。目の奥に何かが突き刺さったように、チカッと痛くなる。
強めにまばたきをしてから目を開けると、明るくなった中で、タロちゃんはさっそく、首や腕についた小さな繊維を払っていた。
「俺初めに言ったよ、脱がさないでって」
「でも汗かいてる」
だからソファーやバスタオルの繊維が貼りついている。
「結果論でしょ。あれだけしたら汗もかくよ」
タロちゃんはクールに言いながら、床に落ちていた白いTシャツを拾って下半身を拭く。ぷるんとした腹や腿に、抜けた下の毛が何本かついていた。シャツをバサバサと振ってそれを叩き落とすタロちゃんの股間は、ぐったりしている。白い液が少し絡んだ、黒い毛に埋もれていた。
そんなに大きくないのは、手や体だけじゃない。ムケてるし、特に小さいというワケでもないけど。
オレの視線に気づかないまま、そんなタロちゃんはさっと立ち上がり、
「シャワー先入るね。ソファー戻して床拭いといて」
と言い残して、浴室に行ってしまった。
賢者タイムと言うか、塩対応と言うか、タロちゃんの平常運転はこんな感じだ。
女の子とシた時も、終わった後はこんなに業務的な感じだったのだろうか。
ふと疑問に思ったけど、もう聞けなかった。
タロちゃんは相手によって、ではなく、相手に応じて、態度を変える。だから多分、女の子が相手ならキチンと、紳士的な対応でふるまう。そこまで予想がついた。
オレへの対応があんな感じなのは、もう知り合ってから5年以上の仲で、関係を改めて見直す事は必要ないから。それからオレが、こんなキャラだから。
理由まで分かっているからこそ、深掘りしたら病む予感しかしなかった。
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