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第130話
「私、てっきり二人が副社長と一緒に辞めるかと思ったのよ」
「かなり肩身が狭くなっていますが湊がいるので辞めませんよ」
「それを聞いて安心したわ」
川瀬さんが僕と新のお弁当をチラッと見た。
「彼氏に作ってもらったらどうですか?」
「エェ~~川瀬部長、彼氏いたんですか?」
まわりの席でお昼ごはんを食べていた社員から驚いたような声が上がった。
「まだ、彼氏じゃないから。新、余計なことを言わないの」
頬を赤らめる川瀬さん。
ここ一ヶ月。すずかさんのことや色んなことがあったから川瀬さんには幸せになってもらいたい。誰もがそう願っていた。
新と一緒に会社を出ると陽斗が待っていてくれた。
「十二月に入ったばかりなのにそんなにたくさん着込んで、冬本番になったらどうするの?」
「寒いのが苦手なの陽斗知ってるでしょう」
「冬の雀みたいにまんまるぬくぬく着膨れ姿、本当に可愛いね。今年も見れて良かった」
新が楽しそうに笑った。
防寒着とマフラーと耳あてと手袋は冬の寒さと戦うための鎧みたいなのだもの。
「手袋は外したら?」
「えぇ~~やだ。寒いから」
「やだじゃないだろう」
渋々手袋を外すと、
「素直でよろしい」
「いつもそうだといいんだけどね」
陽斗が右手を、新が左手をぎゅっと優しく握ってくれた。ポカポカして温かい。
片思いのまま終わる恋だと思っていたのに。陽斗と新と両想いになり、これからも三人で、ずっと一緒にいようと決めた。
「でも、問題はまだまだ山積みだけどな」
「現実から逃げていたのに思い出させるなよ陽斗」
「ごめん」
「ごめんって本当は思っていない癖に」
いつものように口喧嘩がはじまるかと思ったけど、目を合わせると愉しそうに笑い出した。
「好きな人たちといつも一緒にいれる。これほどの幸せはないんだなってあらためて感じた」
「奇遇だな。俺も同じことを考えていた」
「幸せになろうな」
大きく頷くと、頬に軽くキスをされた。いまだ慣れなくて、恥ずかしくて真っ赤になると、
「着膨れ雀がゆでたこになった」
二人にまた笑われてしまった。
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