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第86話 クリスマスの代わりに

 「いらっしゃい!」  僕はキヨくんを玄関で出迎えた。部屋には用意した例のアイテムがある。僕はワクワクしながらも、キヨくんに何か飲むか尋ねた。キヨくんは見るからにリラックスしたスエット姿で、そんな気取らない格好もなぜかカッコいいのは狡いと思ってしまった。 「今、風呂入って来たから、何か冷たい物もらえる?」  僕は先に部屋に上がっている様に頼むと、キッチンで冷たい炭酸ドリンクを用意して階段を上がって行った。  ベッドに寄り掛かって僕を待っていたキヨくんは、僕が入って行くとにっこり微笑んで言った。 「玲が何を企んでるのか凄い楽しみにしてたんだ。」  僕はあまり期待されても困るなと思いつつ、キヨくんに物じゃ無いプレゼントをしたかったのだと説明した。 「…だからね、ここに横になったキヨくんに、僕が選んだアロマアイマスクで癒してあげようと思って。もう温めたタオル用意してるから。ベッドの上が良いかな?」  キヨくんは黙ってメガネを外すと、僕の指示する通りにベッドに横になって言った。 「…玲の膝枕がいい。」  僕はポカンとしたけれど、キヨくんが甘えてくるなんてちょっとご褒美の様な気がして、いそいそとベッドに乗り上がると壁に寄り掛かって両脚を突き出した。それから、僕の腿の上に頭を乗せたキヨくんは少しクスッと笑って呟いた。 「玲の腿、柔らかいな。帰宅部のおかげで柔らかくて気持ちいい。」  僕は、確かに筋肉量の少ない自分の脚を思い浮かべて、それが良かったのかどうなのか疑問を感じながら、苦笑してキヨくんの髪を撫でた。キヨくんは僕をじっと見つめて、それから目を閉じて言った。 「玲に撫でられると気持ちいい。眠くなるな…。」  僕はキヨくんに保温しておいたお陰でまだ熱いアロマタオルを目元にそっと置いた。キヨくんの疲れを取るために、僕なりに選んだウッディとオレンジを調合したオイルにしたんだ。 「良い匂い…。」  そう言いながら、脱力したキヨくんは多分眠ってしまったんだろう。僕は疲れが取れるといいなと思いながら、キヨくんの頭や肩をゆっくりマッサージした。  キヨくんの手を取って手のひらを優しく親指で押してあげると、キヨくんは少し呻いて僕の指先をぎゅっと握った。 「キヨくん起きたの?まだ眠っていていいよ。もう一度アロマタオル作って来ようか?」  そう言って身動きすると、キヨくんは目元のタオルを手で掴んで外すと、僕を見上げて言った。 「…今日、おばさんたち居ないの?」

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