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第93話 温泉
「親に数人で行くって嘘ついた時、凄くドキドキしちゃった。」
僕がそう言ってキヨくんを見上げると、キヨくんはニンマリ笑って呟いた。
「俺も。でも二人だけで行くのもちょっと変だからな。まぁ、うちの親は放任であんまり干渉しないけど、玲のところは一人っ子だから心配するだろうから。しょうがないよ。」
僕たちは温泉街を二人で歩いていた。僕は親が今までのお年玉を貯めていた預金を卒業を機に渡してくれたから、それで行こうと思ったのだけど、卒業旅行だと言ったら更にお金を足してくれていた。
キヨくんは国立大に合格したお祝いが祖父母から届いて、それを軍資金にしたみたいだ。だから少し奮発して露天風呂のある和洋室にした。ホームページを見ていた時から、期待値が上がっていたけれど、荷物を預けた際に寄ったフロントはそれ以上で、僕たちはテンションが上がりまくりだった。
詮索されるのが嫌だった僕らは、素泊まりにして食事は外で食べることにした。やっぱり男子二人で温泉というのも、こっちが気にしてるせいか目立つ気がしてしまう。こんな時は女子だと全然そう思われないのが狡い気がした。
昼は名物の海鮮丼を食べて、お土産屋を冷やかしつつ、有名な神社まで歩いた。パワースポットとして名を馳せた神社は若者も沢山いて、僕たちも参拝した後、一緒にお揃いのお守りを買った。そんなちょっとした事が、何だかくすぐったい様な気がする。
「玲、楽しい?」
そう揶揄う様に尋ねるキヨくんに、僕は素直に笑って言った。
「うん。こんなに温泉街が楽しいの初めてかも。やっぱり誰と来るかが大事なのかもね。それか、僕が大人になったって事かも。」
すると急に真顔になったキヨくんが、前を向いてぶっきらぼうに言った。
「大人になった玲と大人っぽい事したくなった。もう、宿にチェックインしよう。あー、夕食どうする?一回温泉入った後、外で食べる?…それとも何か買って帰ろうか。」
僕は一回部屋に入ったら、もう出てこれない気がしてやっぱりぶっきらぼうになって言った。
「…何か買って帰ろうか。お弁当みたいなものとか、お菓子とか。」
するとキヨくんがふふっと笑って僕を見つめて言った。
「良かった。玲がそう言ってくれて。俺、もう部屋から出られそうもないって思ってたから。外で食べる、そんな時間勿体ない気がして。俺は玲とずっと部屋でイチャイチャしたいからな。」
そう言って僕を見下ろしたキヨくんの目がギラギラしてる気がして、思わず喉を鳴らした。ああ、キヨくんだけじゃないよ。僕だってもうすっかりムラムラしてるんだから。
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