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第92話 受験生終了
あれから何度となく、キヨくんと少しだけ会って、少しだけ話して、ちょっとこっそり手を繋いで、僕はキヨくんの凄まじく気合いの入った顔を見つめることくらいしか出来ない日々が流れていった。
「今日だっけ?清くんの合格発表。」
そう母さんに話し掛けられて、僕は重々しく頷いた。
「でも国立って決まるの遅いのね~。清くんのママがぼやいてたわ。玲はさっさと指定校で決めて親孝行だって。」
そう言ってカフェオレを差し出して笑う母さんに、僕はカップを受け取って苦笑して言った。
「…ありがと。キヨくんは理系だから、僕みたいに何処でも良い訳じゃないからね。」
そう言うと、母さんは眉を上げて言った。
「まぁ、玲の大和大だって、充分立派よ。でも、大和大って家から通うのは無理じゃない?ちょっと遠いわよね。もっと近いところでも良かった気がするけど。お父さんに一人暮らししたいって言ったの?お父さんは良いって簡単に言うけど、お母さんは少し心配だわ。」
僕は今がチャンスと見て、平静を装って言った。
「それなんだけど、キヨくんの第一志望の国立も僕と同じ路線みたいだね。もし受かったら、シェアハウスしても良いかもね。その方が家賃も安いし、母さんも安心でしょ?」
すると母さんは目を丸くして随分驚いていた。
「えー?キヨくんと玲、すっかり昔みたいに仲良しなのね。うちはその方が良いけど、キヨくんは何て言ってるの?」
僕はカップに顔を埋めて言った。
「…キヨくんが言い出したんだ。僕が一人暮らしとか心配だって。」
すると、母さんはケラケラ笑って言った。
「本当に昔みたいなのね、あなた達。昔も小さい頃から、キヨくんは玲の事心配そうに見守っていたのよ。玲は全然頓着なかったけど。変わらないのね~。まぁお父さんがオッケーしてるんなら、お母さんも反対は出来ないわね?いいわ、玲が居なくなったら、お父さんとイチャイチャしちゃおう。」
僕は肩をすくめてカップを置くと、すんなり話が動いたことに心臓がドキドキしていた。後はキヨくんの合格発表次第だけど。今回ダメだと二次試験もある。…受かってると良いな。丁度その時、キヨくんからメッセージが届いた。
『玲、ちょっと玄関出れる?』
僕は慌ててリビングを出ると、玄関の扉を開けた。そこにはキヨくんが満面の笑みで立っていた。僕は何だか涙腺崩壊しそうで、唇を噛み締めた。
「受かった。…何で玲が泣きべそかいてんの?」
そう言って爽やかに笑うキヨくんが眩しくて、僕はふふっと口元を緩ませた。
「おめでとう。本当に!」
玄関扉を開けたまま僕が騒いでいたせいか、母さんが顔を出した。
「おばさん!合格しました。」
キヨくんの満面の笑みに、母さんは何か叫んで玄関までやって来た。
「まぁ、本当におめでとう!凄いわ!流石清くんよね。さっき丁度玲と大学の話してたのよ。通うには遠いって。」
キヨくんは僕をチラッと見ると、ニコニコしたまま言い放った。
「だから俺、家を出るつもりなんです。親も国立なら良いって言ってくれて。玲も一緒に住むか?玲の大学も俺の大学と近いもんな。」
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