91 / 104

第91話 登校日

 登校日といっても、推薦組が13人ほど来るばかりで、受験組は無理して来ないんだろう。僕でもきっと来ない。同級生の顔を見ても皆自信がある様に見えて落ち着かないだろうから。 「橘、元気だったか?統一試験どうだった?」  僕に話しかけて来たのは仲良しの箕輪君だった。箕輪君もまた学校の指定校推薦で進学を決めたくちだ。僕は閑散とした教室を眺めながら箕輪君に微笑んだ。 「どうだろ。ちょっと気が抜けちゃったから、そこまでじゃないかも。でも大丈夫なんだよね?」  箕輪君は持ち主の来ていない机に腰掛けると、脚をぶらつかせて言った。 「俺も似たようなもん。でも俺の大学は橘より下だから良いけどさ、橘はそこそこ結果背負ってかないとダメでしょ?なんてね。先輩言ってたけど、大丈夫らしいよ。単純に学力落とさないように勉強させるための口実らしいから。」  僕は少しホッとして、教室に来ている面々を眺めた。皆すっかり気が抜けた顔をしてる。 「なんか、受験組に申し訳ないみたいだよね。みんなやつれてるし、ピリピリしてるでしょ。箕輪君の彼女は受験組なの?」  すると箕輪君は少し暗い顔をして言った。 「あー、彼女ね。実はさ、別れちゃった。俺が指定校決まったって判ってから、何か凄い機嫌悪くてさ。神経質になってたのは分かるんだけど、俺も疲れちゃって。クリスマスはお一人様だったよ。そっか、橘を誘えば良かったな。一人寂しくカラオケ行ってたんだぜ、俺。」  僕はあんなに惚気ていた彼女さんと箕輪君が別れてしまった事にビックリしてしまった。そっか、カップルになると、別れるという事も当然あるんだ。僕が思わずしょんぼりしていると、箕輪君がクスクス笑って言った。 「何でお前が落ち込んでるの?」  僕は箕輪君の顔を見て言った。 「だって、話聞いてただけだけど、あんなに仲良しだったでしょ。それでも別れちゃうんだって、ちょっとショックだった。」  すると、箕輪君はニヤリと笑って、僕の顔を覗き込んで言った。 「あれれ~?もしかして橘、付き合ってる人いる?え?マジで?やば!何か、橘って女子に押し倒されそうっていうか、イメージ湧かないんだけど!男と付き合ってるって言った方がしっくりくるわ~。」  僕は思わず、箕輪君の言葉に誘発されて、顔が熱くなってしまった。そんな僕をじっと見つめて、箕輪君は口に手を当てて呟いた。 「マジか…。ごめん、なんか俺鋭すぎじゃん?ふふふ。でも俺、橘が誰と付き合おうが、そんな顔するなら応援するわ。幸せって感じなんだもん!いーな。俺も次行くよ。ははは、ほんとビックニュースだ。」

ともだちにシェアしよう!