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第104話 春はあけぼの 【完】

 ふと目が覚めて、僕は温かな腕の中から抜け出した。いつの間にか寝かしつけられていた僕より、多分後から眠ったんだろうキヨくんは、身動きひとつしなかった。  目覚めれば酷く喉の渇きを感じて、サービスに置いてあるミネラルウォーターのペットボトルをパチリと開けた。飲みながらガラス張りの向こうの温泉を見つめて、薄明るい空を感じた。  僕はペットボトルをテーブルにそっと置くと、ドアをきしませてテラスへと出た。少し肌寒いくらいの気温は、それでも冬のそれとは違ってどこか緩い。  かけ湯をしてサッと身体を撫でると、そう言えばぐったりした身体をキヨくんが洗ってくれたんだっけと、部屋のベッドのこんもりした膨らみを見つめた。  馬鹿みたいに強請ったのはぼんやり覚えている。キヨくんに焦らされて、意地悪されると僕の身体は熱くなったのも。僕ってマゾってやつなのかな。知らなかった自分の性癖を、少し落ち込む気分で考えながら、ザブリと少し熱い風呂に肩まで浸かった。  ああ、気持ちいい。怠い腰も、ゆっくりと解れていくみたいだし、腫れぼったい気がするお尻の窪みも気持ちがいい。僕たちはタガが外れて、本当に馬鹿みたいに盛ってしまった。それは甘い時間だったけれど、ものには限界がある。  それは僕の身体が一番そうであって、流石にもう出来そうになかった。念のために買って来ていた軟膏が良い仕事をして、それが無かったら痛みがあったかもしれない。  僕は昨日のキヨくんの真剣な顔を思い出してクスリと笑った。 『やばい。玲のここ、腫れぼったくて赤くなった。どこまで軟膏濡れば良いんだ?説明書見せて。…こんな風に塗ってたら、また昂ってきた。俺自分が嫌になるよ。」  そう言って顔を顰めたキヨくんが可愛くて、可愛がってあげたかったのに、僕の瞼は閉じてしまった。頬に感じる優しい感触に思わず口元が緩んで、幸せだと思いながら眠ったんだ。  そんな事を思い出しながら目の前の空をぼんやり見つめていたら、急に白々と空が明けてきた。薄桃色を感じる薄青色の空は、習った古典を思い出させた。 「…春はあけぼの、ようよう白くなりゆく山際すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる…。」  いつの間にか起きたのか、ガチャリとサッシの扉を開けてキヨくんがテラスに出てきた。 「玲は風流だな。確かに綺麗な空だ。」  そう言って、キヨくんはかけ湯をすると、ザブンと湯船に入ってきた。どちらからとも無く顔を寄せて唇を触れ合わせると、僕たちはもう一度空を見上げた。 「今度は満月の時期に温泉来ような。」  唐突なキヨくんの言葉に少し笑った僕は、首を傾げて言った。 「ふふ。キヨくんは満月が無くても狼になれるよ。」  僕の顔をジト目で見たキヨくんは、何かぶつぶつ言いながら顔をお湯で拭った。 「ね、帰ったら凄い忙しいよ?部屋だって見つけなくちゃだし、必要なものも選ばないと。でもちょっと楽しみ。」  そう僕が言うと、キヨくんは僕の腰に手を回して引き寄せて言った。 「ちょっと?」  僕はキヨくんの顔を見上げて、やっぱり満月なんて必要ないなと思いながら、微笑んで言った。 「凄く楽しみ。これからもよろしくお願いします。」  そんな僕にキヨくんは微笑んで、甘い蕩けるような目で見つめると、僕に優しくて焦らす様なキスをした。ああ、キヨくん好き。  ***** 後書き *****  完結しました~♡104話、11万文字以上の予想を上回る(汗)長い作品にお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました♡  私にだってエロのないピュアキュンが書けるはず!と書き始めたこの作品ですが、第二部でエロ解禁した途端に大変なイチャイチャになりました(^◇^;)…二人が若いせいだし!  楽しんで頂けたら嬉しいです♪ 連載中の【二人のアルファは変異オメガを逃さない】と本日から公開の【僕は傲慢男のセフレ】もよろしくお願いします💕

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