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第103話 キヨside俺の激情
疲れ切ってぐったりした玲を抱えて洗い場でシャワーしてから、俺は宝物を扱う様に使ってない方のベッドへ寝かせて、気怠く俺を見つめる玲の唇に触れるだけのキスをした。
口元が微かに微笑んでいる玲は、次の瞬間にはぐっすりと眠っていた。それも仕方がない。俺より体力が無い玲が、よく頑張って付き合ってくれたと言う所だろう。
俺はベッドから離れると、散らかったタオルや浴衣をまとめて籠に放り込み、もう一度テラスの露天風呂へと入った。すっかり真夜中で、多分12時は過ぎているんだろう。
持ち込んだ弁当を食べた記憶も朧げなくらい、俺たちは旅館にチェックインしてから只々肌を触れ合わせていた。ノンストップで致していたわけじゃ無いが、束の間にソファで寛ぐ時でさえ、俺たちはお互いに手の届く場所にいた。
俺が受験で顔だけ合わしていた期間に、玲は一人で色々な勉強をしたみたいで、新しく得た知識を実践しようと張り切った。そんなところは変に生真面目というか、なんて言うか。でもやっぱり出来ないと恥ずかしげに狼狽えるのも、俺の中の猛り切った狼を解き放つ理由になった。
結局玲に距離を置かれた小学校高学年から、俺は玲が足りなくて飢えていたみたいだ。それはポタリポタリと時間の経過と共に溜まっていく淀みの様な感情で、下手すれば自分をも喰らい殺す様な、激しいものになっていたかもしれない。それが決壊する前に、玲はもう一度俺のところへ戻ってきてくれたのは、本当に幸運だった。
文化祭のペンキ塗りの玲が、俺を目に入れようともせずに委員長と呼んだあの時に、俺は息を止めたのを覚えている。酷く苦しい気がして、ただその時は原因もわからなかった。
今思えば、あれは玲への複雑な感情が、淀みの中でふつふつと湧き上がっていたせいだって分かる。自覚して無かったけれど、俺は玲を昔のように側に置いて誰にも触れさせたく無かったんだ。
玲は俺の激情に近いその独占欲に今でも気づいていないけれど、破裂する前に玲を手にれられて良かった。本当に。そうじゃ無かったら、俺はいつか玲を傷つけてしまったかもしれない。俺は自分で自分にゾッとしながら、苦い笑いを浮かべた。
部屋を振り返って、ベッドライトに照らされた黒髪の玲をガラス越しに眺めながら、俺はゆっくり立ち上がるとテラスの先に歩いて行った。3月のひんやりした夜風に、温泉で火照った身体を晒してのんびりと星を見上げた。今度温泉に行く時は満月の日を選ぼうと思いながら。
部屋に入って玲の隣にスルリと入り込むと、滑らかな身体が手に触れた。俺は玲の首筋に柔らかく唇を落とすと、甘い気持ちでつぶやいて目を閉じた。
「おやすみ、玲。好きだよ。」
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