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第15話
「あれ、今日のシャツ可愛いじゃん」
出社して席に着くと、早速和田から声をかけられる。
「わ、ほんとだ〜!そのピンクめちゃめちゃ似合ってますね♪」
山本ちゃんも続いて反応をくれる。
「ありがとう。昨日買ったんだけど…ピンクなのかこれ?」
自分ではベージュだと思っていたが、店で見るのと会社の照明で見るのでは印象が違うのだろうか。
「淡いピンクっていうか、桜色みたいな感じに見えますよ!春っぽくて素敵です♪」
「うんうん、美人が引き立っていいよな〜」
「なんだよ美人ってもう…。でも似合ってるならなんでもいいや、ありがと」
しっくりこない褒め言葉に首を傾げつつ、変だと思われていないならいいかと開き直る。
春っぽい色のシャツに、ネイビーのジャケット・パンツのセットアップを合わせてみた。
営業ではないのでネクタイはしていないが、カジュアルとフォーマルの中間を意識し
子供っぽくならないように気をつけたつもりだった。
ーーー結局可愛いって言われるオチかよ
心の中で自分に呆れつつ、気を取り直して業務に取り掛かる。
取引先からのメールチェックをしていると重大なことに気がついた。
「あれ?…ねえ山本ちゃん、これ知ってる?」
「どれですか?」
隣からパソコンを覗き込まれた状態で、一緒にメールを読む。
〜〜〜〜〜
件名:【再送】七ヶ谷オフィスタワー開業記念立食パーティー ご参加の件
丸中医療機器株式会社
営業部 部長 加藤様
ならびに 営業部の皆様
平素より大変お世話になっております。
スリーヌメディケアグループ
営業部課長の白井でございます。
年始のご挨拶の際にお話しさせていただき、
ご参加のご意向を賜りました表題の件につきまして、
開催日が近づいてまいりましたため、改めてご連絡申し上げます。
さて、明日4月24日(金)は、
七ヶ谷セブンアートならびに七ヶ谷オフィスタワーの
グランドオープン日となっております。
弊社といたしましても、同オフィスタワー内に新オフィスを構え、
心機一転、事業に邁進していく所存でございます。
当日は、オフィスタワーにご入居予定のテナント企業様をはじめ、
各方面よりご招待企業様をお迎えし、
開業記念の立食パーティーを開催する運びとなっております。
業界を越えた交流の機会ともなりますので、
ぜひご臨席賜りますようお願い申し上げます。
なお、当日は受付にてお名前の確認および名札の配布を予定しております。
誠に恐れ入りますが、
ご参加予定の人数およびご出席者様のお名前を、
本日中にご一報いただけますと幸いです。
開催場所・開始時間等の詳細につきましては、
添付資料をご確認くださいますようお願い申し上げます。
何かご不明な点等がございましたら、お気軽にお知らせください。
何卒よろしくお願い申し上げます。
〜〜〜〜〜
「立食パーティー?そんなのありましたっけ?」
部署の予定は共有カレンダーで管理されているし、
会社代表として出る会なら、事前に必ず話が回ってくる。
それなのに、このパーティーについては思い当たることがない。
「俺も初耳…。こんな大きいの、一度聞いたら忘れるはずないし」
「ですよね。部長!今お時間よろしいでしょうか?」
二人でこそこそと確認し合うも身に覚えがなかったので
山本ちゃんが思わず部長へ声をかける。
「ん〜?どうした?」
加藤部長がのんびりと顔を上げて反応する。
「スリーヌの方から、七ヶ谷セブンアートの件でメールが来ておりますが…ご存知ないですか?明日立食パーティーに参加するとかで」
「ん?そんなんあったっけ?」
「今朝メールが来ているのでご確認いただけますか?」
「オッケー」
穏やかで滅多に怒ることのない加藤部長だが、少しのんびりしすぎているところがある。
メールを読む様子を、山本ちゃんと一緒に固唾を飲んで見守っているとーーー
「…!あぁ思い出したよ。年始のご挨拶で、そんなお話をしていたな」
「やはりお約束済ですか?和田は知ってる?」
「いや、初耳だな…。」
「和田くんも知らないと思うよ。これはね、中島くんと行った時の話だから」
「あぁ、中島さんか」
3月末で退職した先輩・中島さんと部長で挨拶に行き、その際にあった話らしい。
どうりで誰も知らないわけで。
「これってどなたが参加されますか?明日なので…取り急ぎ会費を経理に申請する必要がありますよね?」
心配そうに聞く山本ちゃんに対し、なおも加藤部長はのんびりと続ける。
「うちは招待企業だから会費なしだよ〜無料 ♪ 誰か行きたい人いる?」
「え、なら俺行きます!」
真っ先に手をあげる和田。
「オッケー和田くん決定ね。他には?」
「和田と部長が参加されるなら…十分かなと思いますが」
「僕は明日の夜から旅行だからさ〜無理なんだよね」
「え〜?」
ゴールデンウィークが近いから仕方ないとはいえ、相変わらず能天気な部長である。
「大丈夫だよ、それはもう年始に直接会った時に伝えてるの。”私は伺えないのですが、若いものがお邪魔しますね”って」
「はあ…そうなんですか」
「大丈夫だよ、堅苦しい場じゃなくてね、いろんな企業が集まって名刺交換して、ご飯食べて帰るだけの会だよ〜。ビジネスチャンスだと捉えるところもあるけどね。そこのビルに入るテナント、あまりにも業界が違いすぎるから、うちはそこまで力入れなくても大丈夫だし。楽しく食べて帰ってきたらいいよ〜」
「そんなカジュアルな感じでいいなら…伊藤行こうぜっ」
「え、俺?」
和田から急に指名されて動揺する。
「いいね〜、伊藤くんさえ良ければぜひ行ってきなよ」
「えっ俺にはちょっと荷が重いですけど」
「大丈夫大丈夫。俺がついてるし」
「頼りにならねえよ」
絡んでくる和田に悪態をつきつつも、上司の後押しもあり「行きたくないです」なんていえない空気になっている。
「本当に役には立たないですけど、それでも良ければ行きます…」
「オッケー!じゃ、和田くんと伊藤くんの名前で申請しておくね。堅苦しく考えずに当日は楽しんでおいでね」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます!楽しみだな伊藤!」
「あ、俺ちゃんとしたスーツとか持ってないかも。買わなきゃかな?」
リクルートスーツや喪服などは持っているが、営業マンではないので
会食時に映えるようなスーツは持っていない。
「わざわざ買わなくていいよ。今日みたいな服で十分じゃないかな?」
「えっそうですか?」
「俺もこれでいけると思う。心配ならネクタイだけ締めていけばいい」
「うんうん。今日と同じコーディネートにしておけば大丈夫だよ」
部長と和田が言うなら大丈夫か…。
新たに購入する必要がないのは助かる。
シャツは洗濯乾燥したら明日もまた着れるし、大丈夫だろう。
「でも気づいてくれてありがとうね。僕もすっかり忘れちゃってたよ」
「いえ、とんでもないです」
朝からちょっとヒヤヒヤさせられたが、何とか無事収まりそうでよかった。
でもーーー
立食パーティーなんて初めてで緊張する。
カジュアルだとはいえ、会社代表として参加するのだから恥ずかしくない振る舞いをしないといけない。
明日の夜へのカウントダウンが突如始まり、なんとなく胃が痛くなる遥希であった。
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