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第14話
「ん〜〜…」
ふかふかの毛布に顔をうずめたまま、大きく伸びをする。
自分の間の抜けた声で目が覚めてしまった。
昨夜、久しぶりに湯船に浸かったおかげか、身体がぽかぽかしてよく眠れたらしい。
水曜日の今日は会社が休み。
スマホのアラームも切っているので、好きなだけ寝られるはずなのに——
体内時計は正直で、結局いつもと大差ない時間に目が覚めてしまう。
寝ぼけた目をこすりながらスマホ画面をみると、「8時半」と表示されていた。
もう少し長く寝ていたかったので何だか損をした気分だが、起きてしまったものは仕方がない。
一旦二度寝しようかなとまた布団に包まったその時ーー
グゥ〜〜。
お腹が盛大に鳴った。
空腹を自覚してしまったら最後、食べずにはいられないものだ。
「はーっ、起きるか」
よっこいしょ、と呟きながら身体を起こし、洗顔と歯磨きを済ませてキッチンへ向かう。
仕事がない日は、ゆっくりコーヒーを飲むと決めている。
昨年末のボーナスで購入したコーヒーメーカーをセットした後
食パン2枚にハムとスライスチーズを挟む。
学生時代から使っているホットサンドメーカーを閉じれば、
手軽に温かい朝食ができあがる。
数分待てば、あっという間に出来上がり。
野菜こそないものの、このメニューは栄養よりも手作りの温かさを感じられるから好きだ。
出来上がったホットサンドを持ってテーブルに向かい、
テレビをつけると、朝の情報番組の明るい音が部屋に広がった。
画面では女性アナウンサーたちが、何かに興奮気味に盛り上がっている。
「ついに!七ヶ谷駅前のランドマーク”七ヶ谷セブンアート”が今週末オープンとなります!ひと足さきに我々がお邪魔しちゃいました♪」
羨ましい〜といった声がスタジオ内に飛び交っている。
遥希はホットサンドをかじりながら、ふむふむと眺める。
七ヶ谷駅は、自分の生活圏から少し離れている。
老朽化したビルやコンサートホールを取り壊し、10年近く大規模開発が進められていた。
遥希もたまに近くを通ることがあり、その度に工事を横目に見てきた。
どうやら完成予想図の通り
高層ビルの中にショッピング施設や高級ホテル、オフィス街の機能を持たせている他
大中小3つの規模に分かれたコンサートホール・展示施設が併設されていて
老若男女のニーズ全てに応えたような、街を象徴する施設になったようである。
「ふーん、思ってたより……すげぇ場所になったんだな」
自分には敷居が高そう——と最初は思ったが、
紹介されている店は意外とリーズナブルで入りやすそうだ。
特に“ふわふわ3段パンケーキ”の店は……気になる。けど混んでそう。
行く気はあんまりないのに、ちょっとワクワクしてしまう自分がいる。
人混みがあまり好きではないので、こういう場所は情報番組を見るだけで行った気分になって満足してしまうのがオチだ。
食べ終わる頃には”七ヶ谷セブンアート”の特集が終わり、
女性タレントのイメチェン企画が始まった。
あまり興味がない内容なので、キッチンへ戻り食器を片付け、軽く掃除もしてしまう。
洗濯機を回したら二度寝でも——と思いベッドに戻ったが、
なんだか目が冴えてしまったので、遥希も街へ出ることにした。
冬物を仕舞えるように準備したいし、食材も買わなければ。
それからーーー
昨夜湯船に浸かった影響か、肌が少ししっとりしていて気持ちいい。
保湿できるクリームでも買ってみようかな……そんな考えが頭をよぎる。
「よし、出かけるか」
昨日は薄着で失敗し、いろんな人——いや、及川にも心配をかけたので、
今日はちゃんと羽織ものを持って出る。
駅へ向かう道の空気は少し冷たいが、心は軽い。
結局、目的の品だけでは済まず、
会社で着られそうなシャツと新しい文庫本を二冊追加で買ってしまった。
「……あれ、俺、何しに出たんだっけ」
紙袋を手に、苦笑いしながら帰路につく。
予定通りじゃないけど、まあこういう休日も悪くない。
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