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玲美の旦那は御月堂の秘書だ。立場上、こうして一緒に出かけるのは容易ではない。
その旦那である松下もまた息子である伶介のことを溺愛している。出来ることならば、一緒に行きたかったのだろう相手にせめてのお土産を買ってあげて、雰囲気でも楽しんでもらおうという気遣いなのだろうか。
姫宮の想い人である御月堂も一緒に行くことは叶わない。だから、何か買ってあげようか。
「姫宮さんもやっぱり買ってあげます?」
「私は⋯⋯」
お菓子コーナーに目を向ける。
生き物が印刷されたクッキー、おかきに、一口サイズのチョコもちなんてものもある。
目移りしてしまう物達に、しかし姫宮はふとあることを思った。
御月堂の食べ物の好みはなんだろうか。
彼と仕事の関係だった時、立ち寄った喫茶店では珈琲を飲んでいた。
そのことを思い出した姫宮はすぐに珈琲のお菓子を探したが、なかった。
「珈琲のお菓子はないんですね⋯⋯」
「珈琲がお好きなんですか?」
「⋯⋯多分」
「んー⋯⋯珈琲、は⋯⋯ちょっとないですね⋯⋯」
どうしよう。他に好きな物を知らない。
どうしたらいいのだろう。何をあげれば喜んでくれるのだろう。
何度も身近にあるお菓子達を見比べて悩んでいた時。
横から一つの箱が差し出された。
えっと思い、顔を上げるとそこには大河がいた。
その顔は何故かどことなく不機嫌そうだった。
「どうしたの、大河」
尋ねるが、持っているお菓子をぐいぐいと押し付けるばかりだ。
「もしかして、慶様のお土産はこれがいいの?」
不意にそう思い、訊くとうんうんと二度頷いた。
目を見開いた。
大河がライバル視しているらしい相手のお土産を選んでくれるだなんて。
「ありがとう、大河。大河も慶様に少しでも楽しんでもらいたいんだね」
そうだよ、と頷いてくれるはず。
ところが、大河は首を傾げた。
思ってもみなかった反応に、思わずえっと声が漏れた。
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