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タスクフォース

魔術騎士が聖樹の葉を採取してきた日の午後、緊急の全体連絡ミーティングが招集された。 3部隊合計1500人程が、共同で使用する食堂に集まった。椅子やテーブルは片付けられ、部隊毎に並んで整列をしている。 ノエルたち新人治療士も、もちろんもれなくよばれていた。まだどの部隊にも配属されていないため、一番端に整列をしていた。 全員がそろった後、ほどなくして、魔物討伐第2部隊隊長リッツェン・ロイスタインが拡声機能魔術が付与されたブローチをつけて、用意された公演台の前に立った。 ゆるくウェーブのかかった金髪に、アクアマリン色の透き通ったブルーの瞳、高貴なオーラが漂うリッツェンが演台に立つと、ただの部隊の食堂が王室の広間に見えてくるようだった。 第2討伐部隊の列から、ほぅ…というため息が聞こえる。ノエルの側に立っていたコニー・ユーストマも、キャーと声を漏らした。 「急な連絡会として、呼び立てて申し訳ない。業務の調整など大変かと思うが、どうか許してほしい。まず、1つ目の連絡となるが、3日前、第1討伐部隊のランドルフ・ヴィクセン隊長と数名が、S級クラスの魔物ヒュドラと遭遇した。ヴィクセン隊長はヒュドラを打ち倒したが、怪我を負い、現在療養中である。そのため、現在、私が第1討伐部隊の隊長を兼務している。ヴィクセン隊長の経過は良好であり、もう間もなく前線に復帰する予定となってるため、安心してもらいたい。」 リッツェンの言葉に、食堂内にいたほとんどの隊員たちが、動揺して声を漏らしたり、小声で囁き合う。 ノエルの近くに立っていた、コニーと、エミン・グスタフは互いに視線を合わせあと、同時にノエルに目を向けた。残念なことに、ノエルはそういった視線に鈍感なため、見られていることにも気づかない。 「このように、皆への連絡が遅くなってしまったこと、申し訳なく思っている。病魔ウィルス制限立入区域レベル6内にて、S級クラスの魔物に遭遇するという未曾有の事態について、国に報告したものの、国側で対応を決めるのに時間を有してしまった。王家の者として、代表して謝罪する。すまない。」 リッツェンはそう言って、頭を下げた。その場にいた多くの者が、はっと息を飲む。食堂内は一気に水を打ったように静かになる。 リッツェンは再び顔を上げ、続けた。 「国王に事の子細を報告しにいった、第3討伐部隊隊長メイ・ホルンストロームが、先ほど王都エンペラルから戻ってきた。2つ目の連絡は、ホルンストローム隊長に報告してもらう」 リッツェンが演台から降りた代わりに、今度はメイ・ホルンストロームが講演台に立った。 ハーフアップに結ばれた肩までの長さがある銀色の髪がさらりと揺れる。全てを見透かすかのようなルビー色の瞳が鋭く光り、隊員たちは、尊敬と畏怖の両方の念を抱いた。リッツェンを前にした時とは異なる緊張感が走る。 メイ・ホルンストロームは、パラビナ王国の中で今最も力のある筆頭貴族の嫡男であり、現宰相の息子でもある。ホルンストローム家は、政治の裏の裏までを熟知し、中枢に深く入り込んでおり、他の貴族からは非常に恐れられた存在であった。そのような背景と、メイ自身が放つ威圧のオーラは、討伐部隊前線において隊員を統制するのに大変役に立っていた。 「王命により、より多くの聖樹の木を探索するため、特別機動部隊が結成されることになった。人員は、この討伐統合部隊より選出される。基本は魔術騎士で編成するが、治療士も場合によっては帯同を任命することもある。立入制限区域のため、いつまたS級やA級の魔物が出現するかわからない。その覚悟があるものは、自選してもかまわない」 メイがそう告げると、隊員たちはまた、ザワザワと話しはじめる。 魔術騎士の中で、命が惜しい者たちは、どうか任命されませんようにと願ったし、昇進したい者たちはぜひ機動部隊に参加したいと、息をあらくする。 こういった場合、戦闘力に乏しい魔術士たちは前線には派遣されない。治療士も平常は同じ扱いだ。魔物に遭遇した場合、体力も戦闘力も無い者をぞろぞろと引き連れて行っても、足手まといになるだけだからだ。 ただ、討伐現場ですぐに怪我人の手当ができる要員は欲しいところで、今回のように未開の土地に入る場合などは、万が一にも備えたい。治療士が派遣されるのは、それが理由だった。 「中途半端な覚悟しか持たない魔術騎士や治療士は、この拠点に残って控えのサポートに回るか、それもできないと言う奴は統合部隊を除隊しろ。他の部隊はどこでもここよりはマシだろう。調査や物資調達の準備などがあるから、1ヶ月後にミッションを開始する。詳細は追って知らせる。以上だ」 有無を言わせないような雰囲気で、メイはそう言い放つと、最後に新人治療士が立つ列に視線を向けた後、壇上を降りていった。

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