30 / 63
立派だね 4
鍵は錠タイプのもので、錠には魔法陣が刻まれていた。
魔法陣の中にはさらに複雑な魔術が込められており、謎解きのパズルのように、一つ一つが巧妙に絡み合っている。
(まるで、ニックが描く魔法陣みたい)
複雑な魔法陣を見て、ノエルは王立魔術師団学校で3年間寮の同室だった、ニック・ハーヴィを思い出していた。
ニックは学校を卒業したあと、魔術士として、王立魔術研究所で働いている。学生の頃から、複雑な魔法陣を開発する才能を持っていた。
その時、ノエルの肩にぽたっと一粒の雫が落ちてきた。「えっ?」とノエルが空を見上げると、いつの間にか先程まで晴れていた空にぶ厚い黒い雨雲がかかっていた。
今回、ノエル達統合討伐部隊が派遣されているのはルノールという山の地方にある、標高の高い地域だった。
山の天気は変わりやすいと言われ、突然雨が降り出すことは割と頻繁に起こっていた。
ノエルは「まずい」と思ったが、すぐに大粒の雨が降ってきてしまっていた。
「こっちに来てください!」
イスタはノエルの肩を引いて抱き寄せ、濡れてしまわないようにノエルの頭の上に自分のマントを広げながら、修復工事の為に仮に設置されていた小さな物置小屋に向って走った。
*
イスタはノエルを物置小屋の中に、引き入れると、その戸を閉じた。小屋の中は、畳1枚分くらいの広さしかなかったが、一旦雨は凌げる作りになっていた。
物置小屋の屋根に、豪雨が叩きつけられる。暫くは外に出られそうにない様子だ。
「ごめんなさい、結構濡れちゃいましたね…」
イスタは、深紅のマントで濡れてしまったノエルの榛色の髪の毛を軽く拭った。
ノエルはイスタに肩を抱き寄せられたままの体制から、イスタを見上げる。
「ありがとう」
「ん…?わっ…!!ごめんなさいっ…!」
ーーゴンッ!!
至近距離でノエルに上目遣いで視線を向けられたイスタは自分で抱き寄せたというのに、慌ててその身をノエルの身体から離した。
そして、その勢いで物置小屋の扉に思い切り後頭部を打ち付けてしまった。
「痛っ…」
「イスタ!?大丈夫??」
ノエルは驚いて心配そうにイスタに声をかける。「こんなの、何てことないです」とイスタは後頭部を押さえ、笑いながら返答する。
ノエルは背伸びをして、背が高いイストの後頭部に自身の手を近づける。そして、痛みを和らげる治癒魔術を施した。
イスタは感激しながらノエルにお礼を言う。
「…ありがとうございます。なんかこんなことでノエル・リンデジャックさんに治癒魔術をかけてもらえるなんて…逆にツイてるかも」
嬉しそうに後頭部を撫でるイスタに、ノエルは前から言いたかったことを切り出した。
「…その、前から思ってたんだけど『ノエル・リンデジャックさん』って長くない?ノエルでいいよ」
「すみません、会った時からの流れでずっとそのままで呼んでしまってました。んじゃ、遠慮なく…ノエル…さん?」
「ん、それでいいよ」
ノエルはようやく気になっていたことを伝えることができて、満足気にイスタを見る。そして、イスタが腰に下げている聖剣に視線を移した。
「その聖剣…いつから使ってるの?」
ともだちにシェアしよう!

