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気になるあの人 1 ※イスタ視点
――『ちゃんと願掛けできた』
薄茶色に緑が差し込んだヘーゼルナッツの瞳が、イスタを映す。
ずっとこの人の視界に留まっていたい…イスタは、自分の腕にすっぽりと収まるノエルの体温を心地良く感じながら、そんなことを思っていた…。
*
(今朝は会えるかな?)
イスタ・エイブラムスは、朝食をとるため、魔物討伐部隊の宿舎の自室から食堂へと続く廊下を歩いていた。
この導線に、ノエル・リンデジャック達治療士の部屋がある。運が良ければノエルに偶然会えて、朝の挨拶ができる。
イスタは、ツーブロックの菫色の髪を触って整える。さらりとした髪が揺れる。毎朝、胸の内に湧き上がる淡い期待を抑えられずにいた。
(こんな気持ち初めてなんだよな…)
イスタは、海の地方オラクルで年の離れた姉に育てられた。平民だったが、貴族に養子入りして、王立魔術師団学校へ入学した。
端正な顔立ち、そして小顔でスタイルが良いイスタは地元オラクルの学校では知らない人はいなかった。
男女問わずモテまくっていたイスタは、その中で特にウマが合う男女と後腐れなのない付き合い方をしていた。
年齢的なこともあって、恋愛にのめり込んでしまう同級生も多くいたが、イスタはこれまで育ててくれた唯一の肉親である姉の為にも、そして自分をとりたててくれたエイブラムス家の為にも、学内で人より抜き出た存在でいなければならなかった。
男女関係のアレコレに没頭する暇などない。イスタは適度にガス抜きをしながら、成績は常にトップを維持していた。
偶然イスタには、聖剣を使える才能があった。本当に運がいいと、イスタは見たことも無い精霊に感謝したくらいだ。
同じ魔術騎士でも『聖剣使い』は別格として扱われる。王立魔術師団学校の3年生になったタイミングで、聖剣が扱えるイスタに声がかかった。
まだ正式に魔術騎士の資格試験に合格していないというのに、病魔ウィルス立入制限区レベル6に派遣されている域魔物討伐部隊に参加するようにとの指示だった。実習生ではほとんど類例が無いことだった。
エイブラムス家は、大変栄誉であると喜び、その分実姉への援助も追加で行ってくれた。
青春時代を全て自分を育てることに費やしてしまった姉を少しでも楽にさせたい。そんな想いがあったイスタにとって、このチャンスは有り難かった。
そして、一方で自分の才能に慢心していた。出世コースに乗れた、このまま人生イージーコースでは?などと自惚れていた。
もちろん、そんな驕りは、現場に派遣された数日のうちに叩き潰される。
偶然声をかけられて実施していた見回りの途中、S級の魔物ヒュドラに遭遇してしまったのだ。
圧倒的な力の差を感じ、自分の力ではどうにもならないと瞬時に悟った。死の可能性が頭を過ぎる…イスタは自分の引きの悪さを呪った。
そんなことを考えて動けなくなったイスタに厳しい声が飛んでくる。
『イスタ!!考えを止めるな!死にたくなければ、動け!』
イスタの配属先の部隊のトップに君臨する、討伐第1部隊隊長ランドルフ・ヴィクセンの声だった。その声は、一瞬でイスタを現実に引き戻した。
ランドルフは『ヒュドラを引き付けておくから足を怪我したもう一人の魔術騎士を背負って、拠点に戻れ』とイスタに指示をした。そして、見事な聖剣さばきと攻撃魔術でヒュドラと対峙する。
――格が違う
イスタは討伐現場の現実を知った。
その後生還したランドルフに『新人治療士のノエル・リンデジャックに命を救われた』と聞き、自分と年次が一つしか違わない治療士と知って衝撃を受けた。
そして、聖樹の葉の採取をした後、初めてノエルと対面した。見事な治療魔術を使って、病魔ストレスを解消してくれた。
――さすが、ノエル・リンデジャックさんだ!
それから、気になって、宿舎の廊下や共同で使用される食堂などでノエルの姿をつい探すようになってしまった。
見かけると必ず声をかけた。普段は無表情だが、時折ふとした瞬間に見せてくれるノエルの笑顔に、完全にハートを鷲掴みされていた。
(どうしても目が離せない…気になって仕方ないんだよなぁ)
イスタはそんなことを考えているうちに、治療士の部屋が並んでいるエリアまで辿り着いていた。
数メートル先の部屋のドアが開き、ノエルが丁度出てきた。
「ニック!しっかり歩いて…相変わらず朝弱いんだから…」
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