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会議は踊るされど進まず 2 ※イスタ視点

隊長3名と、各部隊の役付の隊員数名が参加するミーティングの中で、第2武器収容庫の鍵に付与された新たな魔術についての説明が行われた。 主にニックが説明したあと、つつがなく会議は終了し、先ほどのノエルとニックのやりとりを聞いたリッツェンの側近のフェルナン・ルシアノが、退出しようとするニックを呼び止めた。 「ニック・ハーヴィ、素晴らしい魔術の技術でした。攻撃の無効化を図り、その上簡単に破られない巧妙なセキュリティを組み込むところなど、同じ魔術士として非常に感心しました。 それとは別で…リンデジャックの部屋に寝泊まりしたそうですね。あなたは討伐部隊の隊員ではないので、厳密には規則違反にはなりませんが、ここでは隊員同士どちらかの部屋に泊まりこむなどは、特例以外認められていません。慎むようになさい」 フェルナンから注意を受けたニックは大人しく「申し訳ありませんでした。以後気をつけます」と殊勝な対応を見せ、去っていった。 その後、同じ会議室で、次のミーティングである統合部隊会議が開始された。それぞれの部隊の隊長のみが参加する会議で、普段ならば随行は退出するところだが、イスタはランドルフに「お前も残れ」と命じられる。リッツェンの側近であるフェルナンも同じく側に控えていた。 「経験あったのかぁ…アレで…」 机に肘をつき、額に手を当てながらリッツェンが呟く。 「たしかに、意外ではあったが…リッツ、お前処女信仰でもあったのかよ」 呆れたようにメイがリッツェンに声をかける。 「無いよ、そんなの。そうじゃなくて、治療した時、慣れてない感じがあったから…」 「確かに、キスは全然慣れて無い感じだったな。本人が初めてと言ってたから、俺はノエルのファーストキスの相手であるのは間違いなさそうだ」 そう言って得意げな様子を見せるランドルフに、リッツェンはイラッとした視線を向ける。 (ランドルフ隊長、ノエルさんのこととなると全然懐深くないな…) イスタは、心の中でそんなことを思う。 メイはそんな2人のやりとりに構わず、話を切り出した。 「お前らが執着を見せてるその新人治療士も含め、それぞれの職種の新人の配属先を決める必要がある。それを今日の議題としたい、いいか?」 イスタは実習生のため、王立魔術師団学校で実習先を登録する必要があり、派遣される前から討伐第1部隊に配属されることは決まっていた。 新人魔術騎士・魔術士・治療士の配属は、部隊に派遣された1ヶ月の間に決めることになっている。 特別機動部隊の発動も控えているため、早めに決めておきたいというのがメイの趣旨だった。 「お前らが騒ぎそうだから先に言っておく。治療士の配属の件だが…討伐部隊を志望する治療士の人数は少ない。今年はたったの3人だ。もともとの治療士の数からして、全部:討伐第3部隊がひきとるぞ」 「おい、メイ!第1は1番隊員数が多い。魔術騎士も多くいるし、その分治療士も必要だ」 ランドルフは、真っ先にメイの提案に待ったをかける。 「だいたい、討伐第3部隊に治療士が少ないのは、メイが治療魔法が得意だからって理由だったよね。そのままでいいんじゃない?」 「リッツてめぇ…お前だって治癒魔法できるだろーが」 「俺は2人みたいに、治癒魔法に長けてるわけじゃないからな。新人治療士3人まとめて、第1で引き取ろう」 (うわぁ…3人とも引かないよ…個人としてはノエルさんと同じ部隊がいいから、ランドルフ隊長に頑張ってもらいたいところだけど…) 「隊長がそろいも揃って…おもちゃの取り合いしてる子供ですか?」 フェルナンが見かねて、口を出す。 「ここに、クジを作りました。これで決めましょう。今年の新人治療士はたった3人ですし、教育のしやすさから言っても同じ部隊に配属するのが効率が良いでしょう。このクジで当たりをひいた隊長の部隊に3人まとめて配属させましょう」 (クッ、クジ!?…そんなことで、国の精鋭たちが指揮する魔物討伐部隊の人事が決められるのか…?) イスタは、フェルナンの提案に驚愕する。 隊長達3人は互いに顔を見合せた。フェルナンは机に小さく折りたたまれた紙切れ3つを机に並べ置く。異を唱える者はいなかった。 「念の為不正ができないように魔術をかけてあります。では、選んでください」 それぞれの隊長はクジを選び取る。 愕然としているイスタの目の前で、新人治療士3人の配属先が決定したのだった…。

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