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たのしい

 そんなことを数回続けているうちに年末が近づいてきた。丹羽君は俺の貸す本に、毎回感心するほどしっかり感想をくれて、勧めた俺もべた褒めしてくれる。俺の手柄じゃないのに、なんだか気分がよくて長々と話し込むようになった。  結局寒さに負けて自転車小屋での立ち話は難しくなり、ファミレスか丹羽君の部屋で一時間ほど話すというのが水曜の日課になっている。ファミレスクーポンの罠はまだ続いていて、今度は干支にちなんでウサギの大福が半額――いかないわけにはいかん。  とはいえ、今日は丹羽君の部屋でコンビニおでんだ。丹羽君が晩飯買うのに付き合って、俺も食べたくなった。ファミレス行かなくても浪費している俺は欲望に弱いのかもしれない。 「いや、こんな寒い日のコンビニおでんに逆らえる人いないですって。それに大根と卵なんだし、ヘルシーですよ」 「そうだよな」  丹羽君の慰めで自分を正当化して、今日はよしということにしよう。  最初は「バイトの部屋に上がるなんて」と抵抗があったが、数回重ねると、慣れた。一応、彼女に悪いし、と断ったら、彼女はいないってことだったし、べつに職場で特別扱いしているわけでもないし、基本、本の話をしているだけだし――楽しいし……。  やっぱり欲望に弱いんだな、俺。今まで自覚なかったけれど。  丹羽君とおでんをつつきながら、人気作家の新刊感想会になる。これは俺がオススメしたわけじゃなく、丹羽君が自分の意思で買った初めての新刊だ。この作家が気に入ったらしく、新刊も面白かったとにこにこで話してくれる。俺も楽しめたし、嬉しい。それにしても丹羽君は表情豊かだ。黙って真剣な顔をしているときは男性雑誌のモデルみたいに綺麗な顔をしているのに、楽しそうなにこにこ笑顔は子供みたいだし、仕事でミスしたときのしょんぼりした顔は叱られた犬みたいだ。感情を表にだすのが得意なんだろう。簡単なようで、俺には難しい。感情が表情になるまでのタイムラグが、ひとより長いという自覚はある。だから無表情で可愛げがないということはずっと言われてきた。せめて接客のときくらいはと、無理に笑顔を作れるようにはなったが、仕事を離れるともう無理だ。  だから丹羽君の表情豊かな顔を見ているのは結構、好きかもしれなかった。

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