11 / 13
たのしい
「そういえば、ウサギ堂大賞の応募、しました?」
「急だな。いやまだ。締め切り来週だったな」
ウサギ堂大賞は、ウサギ堂全店舗内で、今年一番オススメ本を決める、いわゆる私設賞なのだが、アルバイト、パートも含め、全スタッフが参加するので、丹羽君は参加できるのを楽しみにしているようだった。
「何に入れるんですか?」
「んー、うちで一番売れそうな老後のライフスタイル本かな」
うちの客層は年齢層が高めだから、実際、よく動いたし、まだもう一息売れそうでもある。私設賞だから大きく話題になるわけではないが、店内フェア台を使って展開できるので、うちの店で売れそうなものに大賞を取ってもらいたい。どんなに全国的に話題作でも、客層とはまらなければ、全然動かない、なんてのは日常茶飯事なのだ。
「えー、一番好きな本に投票するんじゃないですか? それに、あの本読んだんですか?」
「一番好きな本なんて正直に書かないよ。それに老後本も面白いぞ、色々参考にもなるし」
「老後のこと、もう考えてるんだ? まだ二十八でしょ?」
「でも、どうせこの先も独りだし、早く考えておくのもいいだろ」
あ。いらないことを言った。この頃、丹羽君と話していると、気安い空気を作ってくれるから、つい、気がゆるむ。スルーして欲しいけれど、無理だった。丹羽君は食いついてくる。
「この先も独りって、結婚とかするでしょ。そういえば高良さんって、そういう話しませんね。恋愛物も読まないみたいだし」
ひやりとしたのは、あまりにナチュラルに内面まで入り込まれそうだからだ。丹羽君は気安いし、可愛いバイトだし、話をするのは楽しいし、距離感を詰められても不愉快に思わない空気を持っているから、油断しすぎた。
うまく、かわせるだろうか。
ともだちにシェアしよう!

