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たのしい
「あー、モテないんだよ、言わせるな」
なんとか、笑いにできないだろうか。さらっと流して、スマートに、さばきたいのに。
こんなときに限って丹羽君が、笑わない。まっすぐに見つめられて、勝手にあせりが募っていく。
「モテてるじゃないですか、お客さんとかにも」
「あれはノーカウントだろ、とにかく、苦手なんだよ、恋愛」
「でも彼女とか」
丹羽君はごまかされてくれない。もう、無理。
「いないし、いたことないし、できない。分からないんだよ、恋愛。心冷たい人間なんだろうな」
こんなこと、バイトに言うことじゃないだろう。分かっているのに、他にかわし方も分からないし、いい言葉も思いつかなかった。どれだけ本を読んでも「上手く喋る」ことは苦手のままだ。丹羽君は聞き上手だと褒めてくれるけれど、話すより聞いている方が楽だというだけなのだ。ただ単にコミニュケーション能力が低くて、怖がりだというだけの俺を、丹羽君は過大評価している。丹羽君を見るのが怖い。感情をうまく表情に乗せる人間から見た俺は、どう見えるんだろうか。
おそるおそる丹羽君の反応を待ったが
「そうなんですね、まあ、そういう人もいますよね」
おそろしく、ニュートラルだった。
「あー……結構、重いことを言ったつもりなんだけど」
「あっ、そうなんですか、すみません、もっと深刻に受け取らなきゃいけないんですか、えっと、え、何言ったらいいんだ? え、そんなおかしいことですか?」
「だ、って、ひとを、好きになれないなんて、欠陥だろう」
「他に好きなものあるってだけでしょ? あれ? 違うの?」
「違わない、けど、でも、やっぱり恋愛って、人生の核なんだろ、普通」
「極端ですよ、まあ、一部ではあるけど、他に大事なものあればそれでいいじゃないんですか? あっ、でも、高良さんは恋に焦がれているんでしたっけ」
そ、う、なんだろうか。
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