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Cp.8白雪×剣人『愛って、美味しいの?』
反魂儀呪から保護されて最初に貰ったのは、名前だった。
一倉湊にはケンと呼ばれていたから、遠くない名前が良いだろうと『剣人』という名前を与えられた。
名前をくれたのは助けてくれた霧咲紗月だった。
自分の名前にちなんで丑霧という苗字もくれた。
紗月には剣筋を良く褒められた。
自分の剣筋が良いのは、きっと、湊の教え方が良かったからだろう。
けれど、最大の理由は刀に呪われているからだ。
千子村正。徳川を呪う真田の名刀として討幕が盛んだった幕末に妖刀と持て囃された刀らしい。
だが、剣人が呪われた村正は呪詛師が作った本物の呪具だった。
霊力が弱いと刀に意識を喰われるらしい。
だが、剣人の意識が村正に呑まれる事態は起きなかった。
むしろ、剣人は村正を好んだし、村正も剣人を好いているような気さえした。
そういう姿を理解していたのか、紗月は剣人から無理に村正を奪いはしなかった。
その代わり、という訳でもないのだろうが。
バディが付いた。
自分と同じように刀に憑り付かれている、いや、喰われかけている。男だか女だか、人間だかもわからない。
名前は、咲也白雪といった。
剣人と同じように紗月に拾われて命を繋いだらしい。
白雪は鬼切国綱を体内に呑み込んでいるらしかった。
そのせいで刀に記憶を喰われている。
命すらも蝕まれている状況で生きていられるのは、白雪の霊力が多いのと、刀が依代にするために白雪を生かしているからだろう。というのが、解析室の朽木要の見解だった。
皇室所有の刀を飲み込んでいるせいで、白雪は国営機関での監視が余儀なくされている。
だから13課にいるらしい。
剣人よりよっぽど絶望的な状況に思えるが、白雪自身はあまり悲観的でもない。むしろ明るいと思う。
剣人よりよほどよく話すし、笑う。
それが、とても不思議だった。
「剣人ってさ、あんまり話さないよね。なんで?」
白雪の話は常に突拍子がなく、唐突だ。
「必要、なかった。話すって、よくわからない」
反魂儀呪では会話など必要なかった。
命令通りに妖怪や人間を殺していれば良かったから。
湊は話し好きな人だったが、頷いてさえいれば会話を強要されたりもしなかった。
「ふぅん。つまり会話が苦手なんだね。じゃぁさ、気持ちいいコト、しよ」
白雪の話が全然理解できなかった。
出来ない間に、始まって、終わっていた。
セックスして抱かれたんだと気が付いたのは、終わって寝て起きてからだった。
「折角、バディになったんだしさ。僕はもっと剣人と仲良くなりたいし。一番、いい方法だと思わない?」
そういう同意はコトを起こす前にしてほしい。
けれど、自分も拒まなかった。拒む隙も無かったが。
「気持ち、良かった、から。またするのは、いいよ」
初めてのセックスは、悪い感じはしなかった。
それからは、時々、白雪に抱かれた。
「こういうのって、恋人がする、行為じゃ、ないの?」
素朴な疑問をぶつけると、白雪が首を傾げた。
「そういう人もいるんじゃない? 僕は嫌いじゃなければ、誰でもいいよ」
白雪にとっては、特別な行為ではないらしい。会話の延長程度なんだなと感じた。
そういうセックスもあるのだと、初めて知った。
不思議なことに、白雪に抱かれるようになってから、会話が出来るようになった。
正確には「話すようになったね」と色んな人に言われるようになった。
どう変化しているのか、自分ではよくわからなかった。
繋がれば繋がるほど、白雪とのコンビネーションは良くなった。
日本刀の二人は前衛が二人いるようなものだ。
13課のバディは前衛と後衛で組む場合が多い。
剣人と白雪の組み合わせは、特攻向きだった。
最近、剣人の中には小さな不安があった。
白雪の中の刀が拍動している。以前より、白雪を蝕んでいる。
体を繋げる度に、白雪の中に在る刀の存在が大きくなっている。
その変化は、瀬田直桜に出会ってからだった。
同じように、剣人の村正も呪力を増している。
直桜が二振りの刀にどんな影響を与えているのかは、知れない。
そもそも、直桜の影響なのかも、はっきりとはわからない。
言い知れぬ不安が剣人の中にはあったが、それを誰かに相談する気にはなれなかった。
「白雪は、体調とか悪くないの?」
剣人の問いかけに、白雪が不思議そうな顔をした。
「別に、なんてことないよ。僕の場合、変わらないのが良いかは、わかんないけど」
確かにその通りだ。
刀の影響がなければ、白雪はもっと自分が何者なのかを思い出せるはずなのだ。
(思い出して、刀から解放されたら、白雪はいなくなるのかな)
少し前なら、何とも思いはしなかった。
今は、白雪がいなくなる未来が悲しい。
(いつから俺は、そんな風に思うようになったんだろう)
「白雪は、俺がいなくなったら、どう思う?」
思わず聞いてしまった疑問に、白雪が首を捻った。
「どう思うのかなぁ。そうなってみないと、わからないかな」
如何にも白雪らしい答えだと思った。
白雪の記憶は常に刀に侵食されている。
覚えている記憶はまだらで、自分でも自分が何を覚えていて、忘れているのか、把握できていないらしい。
「俺のことも、忘れちゃうかもしれないね」
「それはないよ」
思いもよらず、白雪が断定的な言葉を放った。
「剣人とは何回もエッチしてるから、記憶が喰われても体が覚えてると思うんだよね」
剣人は白雪の腕を掴んだ。
「じゃぁ、もっとシよう。何回もシよう」
掴まれた腕と剣人を見比べて、白雪が笑った。
「いいよ。剣人とのエッチ、気持ちいいから僕は好きだよ」
白雪が剣人の手に口付けて舌で舐め挙げる。
華奢な体を抱き寄せた。
「俺のこと、忘れちゃってもいい。何とも思ってなくていい。どこにも行かないでほしい」
体を離した白雪が微笑んだ。
剣人の唇に口付けて、下唇を食んだ。
「シよっか」
頷いて、剣人は白雪の股間に顔を埋めた。
華奢な体の割に大きな男根を咥え込む。
半勃ちだった男根が、徐々に硬さを増した。
「剣人、上手。気持ちいいよ」
白雪が剣人の頭を撫でる。
髪を梳く指が気持ちいい。
白雪の細い指が、剣人の後ろの口を押した。
「こっち、入れていい?」
咥えたまま頷く。
白雪の指が中に入って、剣人の善い所を押した。
腰がビクビク震える。
そんな剣人の姿を、白雪はいつものように楽しそうに眺めているんだろう。
「ぁ、ぃぃ……、ね、もぅ、挿れていい?」
口を窄めたまま引き抜くと、白雪が小さく喘ぎを漏らした。
「早く剣人と繋がりたい」
体をやんわり押されて、仰向けになる。
後ろの口に白雪の男根が押し当てられる。
期待で体が震えた。
「まだ挿れてないのに、そんな顔して、可愛いね」
剣人の頬を撫でながら、白雪が口付ける。
舌が入り込んで、口内を犯す。
下の口にも熱いモノが入り込む。浅い所を何度も擦られて、腰が浮いた。
「白雪、そこばっかり、ヤダっ、ぁ、ぁんっ……、奥、もっと、して」
「欲しがりな剣人も、可愛いな」
ゆっくりと腰を動かして、白雪が少しずつ中に入り込んでくる。
すっかり白雪の形になった剣人の中を、白雪が掻き回す。
「ぁ! ぁんっ、ぁ……白雪、もっとぉ……」
腕を伸ばして、首に抱き付く。
珍しく白雪が剣人の体を抱き返した。
「はぁ、ぁっ……、剣人の中、絡みついて、きもちぃ……」
滅多に喘ぎ声を漏らさない白雪が、今日はいつもより感じた声を零している。
白雪が剣人の唇を食んだ。
「僕が刀から解放される時はきっと、刀を必要とする人が現れた時だよ。それまでは剣人の傍にいるから、心配しないで」
奥を突きながら、白雪がそんな話をした。
「ぁ! 俺より、白雪を、求めてる奴なんか、いないよ!」
顔を引き寄せて、白雪の肩に噛みつく。
赤く噛み跡が付いた。
「剣人、どうしたの? 寂しくなっちゃったの?」
いつもより白雪を求めているのは、自分でもわかっている。
けれど、叫ばずにはいられなかった。
「俺は白雪がいなくなったら、寂しい。それだけは、忘れないで、ほしい」
腰を動かしたまま、白雪が黙った。
伏した睫毛を、そっと上げる。
いつもと変わらない顔で白雪が剣人を見下ろした。
「ごめん、剣人。約束は、出来ないや」
白雪の言葉は、わかっていても悲しくなった。
きっと、嘘でもいいから、覚えていると言ってほしかったんだろう。
そんな自分が情けなくなる。
「わかんないけど、わかんない僕はきっと、わかんないなりに剣人を探すと思うよ」
そう言って、白雪がまた剣人に口付けた。
腰を激しく打ち付けて、奥を突く。
「ぁ、ぁっ、白雪、俺……、俺はっ……ぁぁ!」
話せない程激しく突かれて、喘ぎ声しか出せなくなる。
「いっぱい気持ち善くなって、剣人。今は、僕と二人で、ただ気持ち善くなろ」
切ない目で見降ろす白雪に、そんな風に言われたら、言葉なんか出ない。
納得できない気持ちを押し込んで、剣人は快楽に集中した。
何故、こんなにも不安になるのか、剣人にはわからなかった。
けれど、白雪の中の刀の高揚が、今のままの二人ではいられないと語っているようで、それが何より怖かった。
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