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仕事をするために一般的には人間かアンドロイドか問われることが多いが、幸いなことにこの店では人間かアンドロイドか問われることなく雇ってもらえた。男のように面倒な客と関わりを持つ必要はあるものの、歌うという好きなことを仕事にできた、稼ぎのよい職である。
人間として存在しているバーの歌手は、男の機嫌を損ねない言葉を必死に並べていく。もうそろそろ限界だと思っていると、閉店時間が近付いていた。
「おっと、もうこんな時間か。今日もありがとな、ロイド」
すっかり酒に酔った男の手が、ロイドの頭を撫でる。
ひっ、と悲鳴が出そうになるのを必死に堪えつつ、男に笑顔を向ける。
「ありがとうございました……」
ふらふらとした足取りで、男は店の外へと出て行った。小さな窓から完全に姿が見えなくなるまで、ロイドはその場で見送った。
「ふぅ……」
ロイドは気の抜けた声を出してしまった。店で最も面倒な客としてすっかり認知されている男の相手をするのはとても疲れる。
どうやら男が最後の客だったようだ。店の中を見渡すと客は誰もおらず、すっかり静かになっていた。
「おーい、ロイドー」
「はーい」
店の奥からロイドを呼ぶ声がした。ロイドは声のした方にあるバーカウンターへと近付いていく。すぐ目の前までやって来ると、片付けをしているマスターがひょっこりと立ち上がった。
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