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「どうしました、マスター?」
「ホールの片付けいいから、もう上がっちゃっていいよ。疲れたでしょ?」
ニコリと微笑み、マスターはロイドを労ってくれた。男が常連客であると同時に面倒な客であるということはマスターも理解している。優しいマスターは、いつもロイドを気遣ってくれている。
「いいですか? ありがとうございます。お疲れさまでした」
マスターに頭を下げてから、ロイドは店の奥にあるスタッフルームへと入っていった。
まだ他のスタッフは片付け中のため、誰もいなかった。ほっ、と安心したロイドはそそくさと自分のロッカーを開け、着替えを出しながら今着ているシャツのボタンを外す。
露わになった肌、その胸元には機械的な端子がぽつりと存在している。
「大丈夫、今日も誰にも見えてなかった……」
ロイドにとって当たり前の存在にそっと触れる。アンドロイドである確たる証拠は、人間として生きるためには誰にも見られてはいけない。ロイドはいつもそう心に刻んでいる。
「そろそろだったかな、再起動」
アンドロイドのエネルギー摂取方法は二つある。
一つは胸元の端子から充電して電気を蓄える方法。
もう一つは人間と同様に食べていく方法。
ロイドは人間と同じことができるため、ほとんど食べることを選択している。
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