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「呼んでるよ。行ってきなよ」 「で、でも……」  笑顔を保ったまま、彼はロイドに行くよう促してくる。 「いいって。大事なお客さんだろ?」 「すみません。では失礼します」  ロイドは彼に一礼して、スーツ姿の男と並んで歩き出した。そして広いテーブルの並ぶところで隣同士で座る。 「こんばんは。すみません、わざわざお声がけいただいて」 「いやいや。こっちこそごめんね、話してたのに」 「どうかしましたか?」  男は普段、会話に割り込んでまで話しかけてくることはない。そんな彼が話しかけてくるとは一体どうしたのだろうか。 「あっ、ばれちゃった? 実はさー、長期の出張が決まっちゃって。景気付けにロイドから元気を貰いたくなっちゃったー」 「えっ、そうなんですか? お会いできないのは寂しいです」 「ありがとー。でも、二度と会えないわけじゃないし、一ヶ月かな、ここに顔を出せないだけだから」 「結構長くて寂しくなりそうです。あっ、今日は特別にもう一曲歌いますね!」  目の前の男のためでもあるけれど、一人にさせてしまった彼のためにも歌いたい。

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