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「んぅ……」  本で読んだキスはこんなことはしていなかった。それでも、ロイドの身体は全身が痺れるような今の状態を激しく求めていた。もっと欲しい、口にできない代わりに、ロイドはアンディの腕を握って訴えかける。  だが、アンディは離れていってしまった。 「っあ!」  再び目を開けると、目の前には獣じみた視線を向けるアンディがいた。まるで何かを必死に堪えているようだ。 「アンディさ……」 「本の読みすぎで浮かれてるだけじゃないのか?」  だが、アンディの口から出てきたのは厳しい言葉だった。ロイドは反論できずに何も言えなかった。これ以上何ができるのか、ロイドの中に答えはない。  しばらく沈黙が続いた。何も言えずにいるロイドの手をアンディは振り払った。 「……もう一度、冷静になって考えろ」  アンディは一言残して個室を出ていってしまった。  ロイドはその背中を追いかけることはできなかった。  浮かれていると突き放しつつも、去り際に見えた苦しそうなアンディの顔が、ロイドに触れたいと訴えているように思えたから。  アンディに対して何も言葉を返せないロイドは、何をしていいのか分からずにその場から動けなかった。

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