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第6話 叶斗side疑惑
俺はそそくさと廊下を歩き去るガクの後ろ姿を眺めながら、今感じた違和感を思い返していた。何だか変だ。確かに俺は白衣姿のガクがわざわざ俺にお昼の断りを言いに来た事に喜んだ。
あいつが俺に気を使う事なんてレアだったからな。思わず抱き締めたのは俺のいつものノリだったはずだ。けれどガクを抱き寄せた瞬間良い匂いがした気がして、思わず首筋に鼻を埋めてしまった。
…どう言う事なんだ?さっきもあいつが教室を覗き込んだ時も先に感じたのは…、匂いだったのか?だけどあいつはβだって誰でも知ってる。
一度背が伸びないってボヤくからΩなんじゃないかって揶揄ったら、スマホに残した証明書の写真を見せてくれた事があった。そこにはβだってはっきり書いてあったから絶対Ωじゃないはずだ。
大体Ωの出現率なんてアルファより少ない。この高校にも二、三年前にΩ女子が一人居たらしいけど、ここ数年は居ないらしいし。Ωだってバレると、アルファと違った意味で注目されるから隠してる可能性はあるけどな。
俺がそんな事を思いながら岳が立ち去った廊下を眺めていると、廊下側の席の女子が俺に話しかけてきた。
「大沢君て東 と仲良いね。私あいつと同じ中学出身なんだけど昔から愛想無くてさ。取り付く島が無いっていうか、他人に興味無いって言うか。だから今みたいに大沢君と仲良さげに話してるの見て正直驚いちゃった。
…それに久しぶりに見たけど、ちょっと変わった?まぁ、中学の時とは違うだろうけど。あいつ身長とか見かけはほとんど変わらないけど、なんて言うか…綺麗?雰囲気かなぁ。よく分かんないけど。」
まだ顔と名前が一致しないクラスメイトの女子は、言いたい事だけ言って他の女子に呼ばれて席を立った。俺は今彼女が言った事を思い返していた。やっぱり雰囲気変わったよな。大人っぽくなったのは皆同じだろうけど…。
俺は手元のスマホのフォトを開くとスクロールして、一年の頃にガクと無理矢理一緒に撮った写真を探した。目当ての写真をじっと見ていた俺は、ハッとして顔を上げると胸が妙にドキドキとするのを感じた。
まさかな。あり得ない。…でも。俺の胸に浮かび上がった疑惑はあっという間に大きくなって、俺は明日にはガクに尋ねてみようと無意識に笑っていたんだ。
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