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第5話 理科の実験
今日は理科の実験だ。新学期早々実験なんて順番が違うんじゃないかと思うけど、俺たちの理系クラスの先生がマッドと呼ばれる実験狂の常田先生だからしょうがない。案外役に立ったとか先輩の口コミも聞こえていたので、俺たちはそこそこ真剣に取り組んでいた。
グループは二年からの理系クラスの流れもあっていつものメンバーだったけれど、始まる前にマッドが言った。
「おーい、1班、メンバー足りないだろ?転校生入れてやってくれ。理系らしいから。」
そういえばさっきから手持ち無沙汰にマッドの側で俺たちの様子を見てたっけ。班長の俺は手を上げてチョイチョイと高井を呼ぶと尋ねた。
「ね、白衣持ってきた?じゃあそこにある予備のやつ着て。洗って次回返してくれたらいいから。着たらこの手袋付けて、消毒済みのゴーグル適当に選んで装着してね。用意できたら参加して下さい。」
班に合流した高井は明らかに白衣のサイズが合っていなかった。俺はニヤリとして見上げると首を傾げてサイズが無かったのかと尋ねた。
「…ああ、これでもLサイズなんだけど、どうもパツパツだな。」
俺はおやと思ってじっと高井を見た。あの初日のおちゃらけた自己紹介の時とは明らかにイメージが違う。でも取り立てて言うほどの事でもなかったからスルーして、手順を説明した。
高井は実験に慣れてるのかキビキビと先回りして作業するので、俺たちの班は一番に成果を出して、余裕を持ってレポートまで授業中にこなす事ができた。
俺たちは高井が班に入った事をラッキーに感じてあっという間に好感を持ったんだ。やっぱりアルファはそつがないなと、俺も言葉にはしなかったけれどそう思ったのは確かだ。
俺たちは授業終わりに一緒に教室へ向かっていたけれど、俺は叶斗のクラスへ寄るつもりだったから途中で別れた。そんな俺を高井がじっと見ていることには気づかなかった。
丁度昼休みを告げるチャイムが鳴って、俺は白衣のまま叶斗の3-Gの教室を覗いた。俺の姿を見た廊下側の女子に叶斗を呼んでもらおうかと頼もうとした瞬間、叶斗に呼びかけられた。
「がーく。どしたの!あ!白衣だ。マジでレアじゃん。」
そう言いながら飛び跳ねるように廊下に出てくる叶斗に、俺は意図せず目立ってしまって眉を顰めて囁いた。
「お前目立ちすぎ。俺今日家の事情でもう帰るから、昼一緒に食えないって言いにきただけ。悪いな。」
叶斗はキョトンとして、それから破顔して俺をぎゅっと抱きしめた。
「そんなのメッセ送ってくれたらいいのに!わざわざ来てくれたんだ。ガク可愛い!」
…何か今首筋にキスされた気がするけど。気のせいだ。忘れよう。
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