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第4話 叶斗side放っておけない奴

 昔から新学期は憂鬱だった。この小さな地方都市ではただでさえアルファ率が低いから、どうしても注目を浴びる。判定のあった中学二年生から俺の周囲はいつも騒がしい。望まない注目と、やっかみとあからさまな誘惑と。  断っても受けても結局恨まれるのなら、受けたほうが楽だと気づいたのはいつからだっただろう。とっくに飽き飽きした身体の関係は、もはや男も女も関係なくて俺の股ぐらに群がるあいつらの欲望だけだ。  そんな俺がこの小さな地方都市一番の進学高へ進んだのは、別にどこでも一緒だと感じたからだ。アルファの多い全寮制の東京の高校へ行ったらどうだと親父は言ったけれど、俺はその必要性を感じなかった。  期待して無かった高校に入学した俺の目の前に立ち塞がった男は、俺を胡散臭そうに眺めて知らんぷりして立ち去った。俺にそんな態度を取る相手には覚えがなくて、思わず自分から近づいたのはガクと呼ばれる普通の生徒だった。  こっそりガクを観察していた俺は、いつの間にかあいつを普通の男だなんて思えなくなっていた。細身ながら運動神経が良いと分かるガクは、体育の合同クラスで驚くべき跳躍力を見せつけた。  元々愛想なんて無くて、サラッとした長めの髪を無造作に耳に掛けて一部の女子たちを喜ばせているガクは、目立つのが嫌いな様だった。でも頭も良くて密かに周囲から注目されているのを知ってか知らずか、冷たげな切長の瞳はいつも退屈だと訴えてきた。  俺は退屈しのぎにガクを眺める女子たちを喜ばせてやろうと、軽い冗談でガクに絡みに行ったんだ。あいつ俺の事を凄く迷惑そうに扱って、しまいには毒舌まで繰り出しやがった。あれってほとんど悪口じゃねえ?  それからは、俺に気を使わないガクの側にいるのが快適でしつこく付き纏った。あいつは俺を振り払う労力を繰り出すのが面倒とばかりに、俺の事を拒絶も受け入れもせず、ただ側に置いた。  そんな多分友だちと呼ぶであろう俺たちの関係が変化したのは去年の夏休みだった。俺は連絡しても反応がないガクに業を煮やして、あいつの家に押しかけた。全然知らなかったけれど、あいつの家は白路山の修験道の行者の家系で、ガクもまた時間があれば険しい山を駆ける修行などを行っていたんだ。  滝行から戻ったガクにバッタリ会った俺は、あいつから立ち上る気の圧に圧倒された。それと同時に身体に張り付く濡れた着物とその表情に妙な艶かしさまで感じてしまって、身体が疼くのを自覚してしまった。  俺はあの日からガクに欲情している。けれどもガクは俺にそんな隙も見せず、また俺も今の関係を壊してまであいつに迫ることも出来ずにいる。ああ、俺って本当にアルファなのか?βのガク一人ものに出来ずに、今日も買い弁に誘うだけだなんて。

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