92 / 137
第92話 灰原さん
桂木先生がグレイ企画の灰原さんの話をすると、叶斗は目を見開いて言った。
「知ってます!有名ですよね。今から会えるんですか?色々話聞けると嬉しいな。」
と嬉しげに食いついたけれど、俺は思わず席を立って逃げ出したくなった。いや実際そうだろう。学校説明会の時に、後ろ手にして痛めつけた記憶も新しい。…万がひとつに、俺のこと覚えていないとか。あ、名前を教えちゃったんだ。
俺は一人で青くなったり赤くなったりと忙しくしていると、新が首をかしげて俺に尋ねた。
「岳、大丈夫か?何か調子悪い?」
俺は新の口車に乗ろうと、言葉を被せて言った。
「あーそうかな!?ちょっと調子悪くなりそうかなぁ。」
みんなの訝しげな視線に、俺の仮病は上手くいかなかった。大体灰原さんだって、桂木先生から変異Ωと会うと聞いたら、絶対俺だって思ってるだろ?やばい。あの時の報復を受けちゃうのかな。もう二度と会わないと思ってたのにな…。
そうモヤモヤと考え込んでいる矢先に、カフェに聞き覚えのある声が響いた。
「すみません。お待たせしちゃって。桂木先生、誘ってくれてありがとう。実はどうしても彼に会いたかったんですよ。この間ぶりだね、東 岳君?」
灰原さんがそう言った瞬間、俺の隣にいた二人が、びくっと身体を強張らせたのを感じた。なんか空気が重くなった気がする…。周囲のカフェの人たちが、急に席を立って移動し始めた。目を丸くした桂木先生が、みんなの様子を見渡して言った。
「もしかして岳くんと誠君て、面識あったりする?」
その先生の一言で、新と叶斗が俺を見つめたのが分かった。俺はもう二人と視線を合わせることが出来なくて、桂木先生の方を真っ直ぐに向いて誤魔化した。
すると余計なことを言わなければいいのに、灰原さんが話し出してしまった。
「実は先日の学校説明会でね、彼らの高校に行ったんだよ。そこでたまたま岳くんに会って。ほら、どうしたって彼って興味深いだろう?だからちょっと名前を教えてもらおうかなぁと思って、声かけたんだけど、岳くんにちょっといじめられちゃって。
まぁ印象的っていうか、もう一回会いたいなと思っていたから、この状況はなんていうか、私には棚ぼた的な?こうしてみると、私と岳君、縁があるんじゃないかな。…でも岳くんには番犬が二人もいたんだね?マーキングされてる気はしたんだけど、なかなか手ごわそうだ。」
そう言って、にこやかに微笑んだ。俺は横にいる二人からの重苦しい圧に、思わず灰原さんを睨んでしまった。ああ、困った!
ともだちにシェアしよう!

