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              「…………」    僕は彼らの会話も、ただぼんやりと眺めているだけだった。口を挟むにもそもそもスピードに着いていけないというのもあるが、何より――もうどうでもいいのだ。  たとえ此処でケグリ氏がそのバイブのリモコンのスイッチを入れようが、また仮にこの男性がそうしたとしても、それによって僕の膣内に埋められたバイブが動きだそうとも…もう今更だ、どうせ全部彼には見抜かれているのだ。    そもそも、本当に今更の話だ。羞恥心もない。  毎日こうして種類さまざまであっても、バイブをココに咥えこみながらこのカフェで働いている僕にとっては、もうなにもかもが今更なのだ。    この薄い白のワイシャツが制服として貸与されている時点で、僕の乳首、果てはニップルピアスにしろいつも透けて見えている。――そしてそれらはいつも、初めて会う人にしろ、馴染みの常連客の人にしろ、このカフェ『KAWA's』に訪れる不特定多数の誰かに見られていた。    僕の胸元に置かれる、ねっとりとした好奇の眼差しや、軽蔑の眼差しなんかにはもうすっかり慣れたつもりだ。    あるいは人前でバイブを動かされ、眉をひそめて体をビクつかせる自分の姿を、僕はその人らにいつも見せている。そもそもナカで唸るバイブの音なんか、隠せるはずもない。…お尻を触られたり、酷いときはいきなり乳首をつねられることだってある。――「バイブなんか挿れてるの?」と直球で指摘されることもあるし、「乳首透けてるよ」だとか「乳首にピアスしてるの?」とか、そんなことをお客様に言われるのにももうすっかり慣れた。    セクハラ?  いいや。僕にはそういうことを誰が言ってもやっても、すべてが許される。――僕はこの()()()で、すっかり()()()()()()に成り下がってしまったのだ。   「…………」    もう僕は、全部諦めている。  この店『KAWA's』の“スペシャルメニュー”…――此処に来る人々は、普通にコーヒーを飲みに来る人より、むしろそれを目当てに訪れるお客様のほうが多い。  それは背表紙にある細い切れ込みの中、ちょうど紙の端をちいさな三角に飛び出させた形で隠されている、“裏メニュー”のメニュー表だ。    その背表紙の切れ込みから、その三角をつまんで引っ張り出せば…その一枚のラミネートされた紙には、僕の痴態の写真がおよそ六割の面積で載っているのだ。    苦悶の表情を浮かべ、頬を紅潮させている僕の淫靡な顔は何も隠されていない。  直前に失神したために、上には濡らされたカフェの制服のワイシャツを纏っていた。――濡れているためにくっきりと乳首も、ニップルピアスも、僕の上体の肌まで透けて見えている。…また、シャツの襟元は開けられているためうす赤くなった鎖骨が見え、赤い首輪のバックルに付いた南京錠も、首輪のバックルに付けられた赤いリードも、…そうして僕が()()()()()()は、はっきりとその写真に写っている。    そして両手を赤い麻紐で縛り上げられ、膝を折った形で太ももとふくらはぎをまとめて麻縄でくくられて、両脚を大きく開かされている格好で――根本にコックリングを嵌められて勃起している僕の男性器はグロテスクにも真っ赤に染まり、バイブを突っ込まれた膣口も、同じくアナルパールを差し込まれたお尻の穴まで全部をさらけ出している。    僕の片方の内ももには、『ご注文はお気軽にどうぞ♡ マゾ奴隷ユンファを買ってください♡ 』と赤く太い油性ペンで大きく書かれた。――もう片方には細字でいろいろ『変態マゾ中出し専用肉便器』だとか、『メス奴隷』、『僕はおちんちんいりません』、『ザーメン大好き淫乱オメガ』とか『酷いことして♡ 犯して♡ 』なんて淫蕩な、僕への侮辱の言葉が書かれている。    そうした僕の醜態を写す写真が貼られた下に――その“スペシャルメニュー”のメニュー表があるのだ。   『――“マゾ奴隷従業員ユンファ”――    別個室にて三十分制(延長料三十分ごと五千円)  ・フェラチオ三千円  ・イラマチオ四千円  ・アナルファック八千円  ・ゴム有り三万円(料金はゴム付き)  ・ナマナカ五万円    別個室はシャワー完備、どこでも舐め・触り放題。  即尺・即ハメ可、首絞め・スパンキング可。  キス、顔射、飲精、お掃除フェラは無料。    〜お客様の私物のお道具の持ち込みはご遠慮いただいておりますが、当店地上一階アダルトショップ『Cheese』にて各種貸し出しをしております(別料金)〜    ご注文の際には“スペシャルメニュー”とお気軽に「マゾ奴隷ユンファ」までお声がけください。ご注文内容は別個室で奴隷がお伺いし、前払いとさせていただきます。    ※店の混雑状況によっては延長をお断りさせていただく場合がございます。  ※中出しは別料金で十万円頂戴いたします。  ※その他のご要望はお気軽にマスター兼店長までご相談ください。』――     『お兄さん、…()()()()()()()()()一つ。』    そう()()()が入ったら、僕は店に響き渡るほど大きな声でこう答えなければならない。     「…ご注文ありがとうございます…、マゾで淫乱なメス奴隷のユンファを、たくさんいじめて可愛がってください…、ご注文内容は、専用の別室にてお伺いいたします…――。」       「…はい…? なんですって…?」   「…ぁ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、…」    ハッとした僕は、怪訝な表情を浮かべて聞き返してきた男性にペコペコ頭を下げた。――今“スペシャルメニュー”のことを考えていたばかりに、頭の中で言ったつもりであったのに、つい“接客マニュアル”のセリフを口に出して言ってしまったらしい。――頭を何度も下げて謝る僕に、男性は「いえ、いいんです。そんなに謝らなくても」と涼やかに返すと、   「…ところで、ちょっと失礼。」   「……ひぁッ♡ クふ…ッ」    僕は頭を下げたままで体を大きくビクつかせ、うつむいたまま思わずもれた嬌声に、慌てて口を片手で塞いだ。  ナカにあるバイブがいきなり動き始め、トントントントン…と僕の子宮口を規則的に突き始めたからだ。    どうやら彼の“失礼”という断りは、彼が、僕がぼんやりしている間にいつの間にかバイブのリモコンを手に入れており、スイッチを入れますね、という断りであったらしい。  マスターからバイブのリモコンを渡されたのだろうか、あるいは脅して奪ったのか…――しかし、彼は僕のナカでうごめき、ヴィンヴィンと低い唸り声を上げているバイブと、そのリモコンが連動しているとこれでわかったためか、彼はすぐさまリモコンでバイブのスイッチを切った。       「……っはぁ、は…、は…、…」        駄目…でも、もっと、…欲しい…――。     「………、…」      いや、――だから僕は、()()()()()のだ。        

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