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              「…へ?」    僕は思わず、間抜けな声が出てしまった。  なんだって? ベータ――ベータ属について、だって?    もっと重要で、重々しい質問をされるかと思いきや、何だ、その質問。――僕は目をしばたたかせながら、隣のソンジュさんへと顔を振り向かせた。   「…………」    いや…だいぶ、かなり、…本当に…――ソンジュさんにとってはかなり、これは重要な質問であるらしいのだ。…彼、怖いくらいの真顔である。  ベータ…ベータ属に、ついて、か。   「…あぁ、はい…ベータ属について、ですか…、…」    僕は困りつつ、また顔を伏せ気味に――少し考えてみる。    いや正直いうと…何とも、思っていないのだが。   「…ちょっと…考えさせてください…」   「ええ。…」   「………、…」    ぼやけている頭に鞭を打ち、僕は学校で習ったような情報に思考を巡らせてみる。    ――この世界には、計六通りの()()が存在している。  それは厳密に言うと、“肉体の性別”だ――が、世の中では分かりやすく、男性と女性の分類を“性別”、アルファ、ベータ、オメガの分類を“属性(あるいは種族)”と形容している。  つまり――アルファ属の男女、ベータ属の男女、オメガ属の男女が存在するため、計六通りとなるわけだ。    そして、ソンジュさんが今「どう思うか」と聞いてきたのは、この世界の人口の約97パーセントを占める、いわばマジョリティ的な種族の――“ベータ”だ。    ベータ属である人は――たとえばノダガワ家の人々や、僕の両親などが、ベータ属である。    また、ベータは三種族の中で一番の“優性遺伝”だ。  たとえば、ベータ属とオメガ属の組み合わせで子供を作れば、かなりの高確率でベータ属が生まれる。――アルファ属とベータ属でも同様で、ベータ属の遺伝子が入ると、ほとんどの確率で子供はベータ属になるのだ。なので、もちろんベータ同士の間にはベータ属しか生まれないとされている。    だからベータは、世界の97パーセントを占める人口にいたるまで多くなった、というわけだ。    とはいえ、先祖のなかにアルファ属が存在し、アルファ属の遺伝子を持っているベータが、アルファ属やオメガ属と子供を作ると、まれに隔世遺伝でアルファ属が生まれる可能性があるそうだ。――これはそのベータ属に組み込まれているアルファの遺伝子が、アルファ属やオメガ属の人々の遺伝子と結び付くことによって刺激されるからではないか、といわれている。    また、ベータ属の性は一番システムがシンプルともいえる。…というのは、男性と女性がつがうことによってだけ子供ができるからだ。――ただ、それはあくまで肉体のシステムがシンプルである、というところばかりといえるだろう。    それでベータ属の人々が無個性かといわれたらそういうわけではなく、またベータ属だからといって、能力まで平均化されているということもない。    ベータの中にも成功者と呼ばれる人々は世界中に多く存在し、また、世界人口においてマジョリティ的な存在であるベータ属の人々は、ある意味でこの世界の主権を握っている存在といってもよいだろう。    むしろ、おもに世の風潮を作り出しているのはベータであるといって過言ではなく、たとえば、オメガへの差別をしている主たる種族はベータ属の人々である。――その一方で、オメガ差別をなくそう、どのような種族や性別、人種であっても平等な社会を作ろう、と働きかけているのもまた、ベータ属の人々なのである。    オメガを性奴隷にしているそのほとんどはベータであるが、性奴隷となっているオメガを救おうとしているのもまた、ほとんどがベータの人々なのだ。    ベータこそ一番、近年ヤマトで目立ってきた多様性というワードがふさわしい存在だ。――人口が多いぶん、思想や価値観、能力差など、さまざまなことに個人差があり、また結束力や声の大きさもオメガやアルファより圧倒的にまさる…そうして多種多様な人が存在する種族がベータ、というわけである。   「………、…」    ただ、ではいざベータ属に対してどう思うか…と聞かれてしまうと…――良い人も悪い人もいる、たとえば僕の両親や友人のような心優しい良い人々もいれば、逆にノダガワ家の人々のように差別主義者で人を騙すような卑劣で悪い人々もいる。――そういった意味で、どう思うかと聞かれて一番返答がむずかしいのは、案外ベータなのかもしれない。   「…ぁー…正直、――ベータ属とひとくくりにして、僕にはどうこう言えません。…多種多様な人がいるわけですから、ベータだからこうだ、ああだ、というものはないです…」    と…しか。  せめて何か、もっと気の利いたことを言えたならよかったのだが――僕には、そういったことは何も、言えなかった。…媚を売るようなセリフも、何も思い付かないのだ。   「すみません、こんな月並みなことしか言えず…」   「……、いえ。月並みではないかと」   「…………」      それは、どうだかな…――。         

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