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「…………」
正直いって、それほどに凄い人がなぜ、という僕の疑問は拭えない。――なぜソンジュさんは、僕なんかを自分の家に招きたいというのだろうか。
はっきり言って、そのあたりはとてもじゃないが、僕にはまるで予測が付かない。――まあ九条ヲク家に生まれているからか、もしかしたら本当に優しい人、というだけのことなのかもしれないが。
それこそ前にも思うように、僕よりもつらく厳しい現実に面しながらも生きているオメガはいる。――僕だけに特別な優しさを向けているわけではないのかもしれないが、僕に彼が特別な興味関心を寄せている意味はわからない。
あるいは…――こうして助けた?オメガが、ソンジュさんの家にたくさんいるのかもしれないか。…これも一つの慈善活動として、とかだろうか。
「…………」
「…ふ、難しいですか。――何でも構いませんよ。…嘘さえつかなければね。」
ふと見れば、ソンジュさんはもうタバコを吸い終え、またテーブルに片肘を着いて頬杖をつき――ニヤリとしながら、顔を伏せて考え込んでいる僕を見ていた。
「…嘘をついても、わかりますから。――私には、ユンファさんが嘘をついているかどうかは、どうしても見 え て しまうのです。」
「…………」
その言葉は、はなはだ信ぴょう性のあるものに感じる。
ソンジュさんは、およそ人の心の中すらも見えているんじゃないかと思うほどだ。――とはいえ彼の、その見抜く力の判断材料となる音や匂い…彼の耳が良いのも、また鼻が良いのも思えば、アルファ属であるから、なのだろうが。
僕はまた顔を伏せ、胸の前で腕を組んだ。
「…正直、難しいです。――何分、アルファの方には初めてお会いしたもので…」
「…そうですか」
「…ええ。――……。」
そんなアルファの身体的特徴は…――。
ほとんど、狼だ。――というかそもそも、ベータ属、オメガ属、またアルファ属は、遺伝子学的にはそれぞれ違った性質を持っているのだという。
僕らは、たとえばイヌ属(狼や犬など)のようなものだ。――イヌ属は、狼と犬でも子孫が残せるほど、そもそものベースとなる遺伝子は同じようなものだ。
そうして犬種や種族が違っても子孫を残すことはできるが、しかし遺伝子的には、犬種によってさまざま違う。…狼と犬なんか、もっと違うことだろう。
僕らはそれと同じようなもので、かなりイメージ的な話ではあるが――ヒトの始めとして存在し、現在においても霊長類の遺伝子のみを持つのがベータ属。――ベータ属の遺伝子を引き継ぎつつも、野生でたくましく生き残ってきた狼の遺伝子を濃く持つのがアルファ属。――ベータ属の遺伝子を引き継ぎつつも、同時にアルファ属の子孫を残すため、家畜化された犬のような存在がオメガ属。…というような感じだろうか。
そうだ。とくにアルファ属は、そもそものヒト属の遺伝子の中に、狼の遺伝子が濃く組み込まれているそうなのだ。――どうやってその狼の遺伝子が組み込まれたのやらはわからないが、…少なくともまだヒトが霊長類ともつかない段階の進化の過程で、より狩りなどの抗争に勝つために狼の前身の遺伝子を取り入れ、そうして狩りなどに特化していった属性である、とのことだ。
そのためにアルファ属は、狼のように夜目が効く。…また更に、狼なみに嗅覚と聴覚が優れているそうだ。
――そうであるからソンジュさんは、あのように聞 い た だ け で 、いろいろなことがわかったのだろう。
また、当然アルファ属の彼らにも、男女という性別分類は存在している。…が、特に生殖の面で変わっていると言えるのは――オメガ男性の僕が“変わっている”とはおかしいかもしれないが――、アルファ女性がいわゆる、“両性具有”であるところだろう。
アルファ女性の見た目は、モデルのように長身の、スラリとクールビューティー的な女性ばかりだが――彼女たちの平均身長は170センチと、その数字にも示される通りアルファ女性は、比較的他の種族よりも背が高い――、のみならず、彼女たちは女性器の他に、男性器も備わっているそうである(もちろん見たことはないが)。
ちなみに彼女たちの睾丸は、見た目上ないようにも見えるものの、大陰唇にあたる場所に平べったくなって収められているため、射精することが可能である。――ただしアルファ男性よりは勃起力が弱く、また男性器自体も小ぶりであるほか、アルファ男性より精液の量および精子の量も少ないそうだ(ちなみに生存精子の量も少ない)。
とはいえ事実上、アルファ女性は男性はもちろん、種族関係なく女性、あるいはオメガ男性とも子供を作ることができるのである。
正直、アルファ属の生殖における個性は、そうして両性具有であるアルファ女性のほうが特徴的である。――しいてアルファ男性の、その生殖に関する特徴として挙げられるのは…まあ、男性器がかなり大きい、というくらいじゃないだろうか。
なら身体的特徴、という面で考えてみると――。
アルファ属は男女ともに、目付きの鋭いクールビューティー的な人が多く、また長身かつ屈強な体を持っている。…ただもちろん、彼らも親の遺伝を受け継ぐために、その顔立ちにしてもさまざまではある――アルファ属であるからといって、必ずしも全員目が鋭いわけではない――が、基本的に美形しか生まれないといわれるほど、顔立ちが整っている人が非常に多い。
また顔立ちのみならず、アルファ属はみんなスタイルも良い。――筋肉質な体になりやすく、しなやかな肉食獣の体を持っている彼らは脚も長いために、芸能界で活躍している人も多い印象がある。
そう…――ソンジュさんしかり、だ。
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