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               そしてさらに言うと、その戦争によって、一条ヲク家のみならず、ミコトアルファの一族は全体的に減ったうえ――夜伽相手の、オメガの数も減ってしまった。    もともとオメガは体質的に、オメガ排卵期中に性行為をすればほぼ確実に子供を成せるほか、その排卵期のシステム上、一度に双子以上の子供を妊娠することが比較的多かった。――ちなみに、オメガは王家なみの生活を約束され、また、アルファのほうも自分のアルファ属の子孫を多く残すことができるといった、両者はわりに相互的な恩恵を与えあう関係性ではあったのだ。    とはいえ…このときにアダとなったのは、そのオメガの存在でもあった。…九家もの家に少なくなったオメガでは釣り合いがとれず、このときのオメガたちは、何人ものアルファの子供をハシゴして生まされていたそうだ。  そして、そんな中であるアルファが抜けがけをしてそのオメガを自分の“つがい”にしてしまったり、オメガを監禁して自分の一族の子供のみを生ませようと画策したりと、――簡単にいえば、“オメガの取り合い”が起こってしまったのである。    そうした結果…そういう時代というのもあったのだろうが、もともとアルファはなわばり意識も強ければ、好戦的な種族ともされているため、加熱した抗争は一条ヲク家が滅んでもなお止む気配はなく――本末転倒だが、ミコトアルファ同士の、そのオメガを取り合う紛争によって、ヲク家はさらに何十人ものアルファを失った。    そして、それによって二条ヲク家、七条ヲク家がほぼ滅亡した。――ちなみに残った二条、七条の人々は戦犯として刑務所に入れられたか、あるいはベータ属と家系を持ったそうである。    しかし、それでもまだヲク家の災難は続いた。  その身内抗争に乗り出さなかった四条、十条ヲク家はそのさなか、深刻なオメガ不足に悩んだ結果、苦肉の策として一縷(いちる)の望みを賭け、ベータ属を家に迎え入れたのだ――が。  しかしもちろん、ベータ相手ではほとんどアルファは生まれず――結果的にアルファの血統、ヲク家としての形態を失って、その二家も没落してしまったそうだ。    当時は今のように遺伝子学が解明されていなかったために、その時代の人々もまた“ミコトアルファの血統”を残そうと必死に努めた結果だったのだろうが――それが結果として、お家の没落を招いてしまった、という悲劇なわけだ。――ましてや今の僕らなら、オメガが足りないのならばアルファ属同士で子を成せばよかったのに、なんて考えそうにもなるが…あの時代は条家同士がそれぞれいがみ合っていた時代であり、また、同じ家に生まれた男女が結婚できるはずもないので、そうもいかなかったようだ。    そうして残った、三条、五条、六条、八条、九条のヲク家の人々――今はその五家系を本家として、さらにヲク家は分家に枝分かれしている。…そう、そして。    その五つに分かれた条ヲク家、またその条家から枝分かれし、ヲクのミドルネームを持つミコトアルファたちこそが――今のヤマトに残った、祖先は“神の一族”…ヤマト王家の由緒正しい血統を持つ、この国のアルファたちなのだ。    ちなみになのだが、この(ヲク)というミドルネームを名乗ってよい人には条件がある。――まず両親のどちらか、ないしは両方が()()を持っていること。…そして自身がアルファ属であること、だ。  この()()が名前に付いている人は、それだけでもう、高貴な家の生まれだとわかる。それはヤマトのみならず、ヤマトと国交のある国々そのすべてで、だ。――そうして、ある意味では血統書のような役割を果たしているのが、この()()というミドルネームなのである。    また…そうした悲しい過去の理由から今のヲク家の人々は、これ以上ヤマト国内のアルファを減らすわけにはいかないと、今や世の風潮的に自由恋愛や恋愛結婚が良しとされている中でも、いまだに良くも悪くも“純血主義的”なのである。――つまり、お見合い結婚や政略結婚、果ては“相応しいオメガ”を探し出して娶る、というような、庶民の僕らからしてみると古い結婚のやり方をいまだ貫いているのだ。      ただ、とはいえ――たしかにいまやもう身分制度はなくなり、王家もなく、国のシステム上はどの条家においても平等ではあるが。  アルファ属というのは、本能的にリーダーシップを取りたがり、またそれと同時に、自分たちのリーダーを求める本能がある。――そうであるために、今のミコトアルファの、事実上のトップ、いうなれば条家、分家を含めたヲク家を率いているリーダー的存在は。        九条ヲク家…――つまり、ソンジュさんが生まれた家なのである。         

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