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オメガ属――僕は、そ う い う 種 族 なのだ。
常 に セ ッ ク ス の こ と し か 考 え て い な い と思われている、オメガの男だ。――大学に行って、さまざまなことを学んでいた時期が恋しくなる。
途中で退学せざるを得なかった大学院、本当は、今になってとても悔やまれる。…あのまま卒業できていればあるいは僕が、たとえそうしたイメージのあるオメガ属として生まれていたとしても――ま と も な 職 業 に就けるんだと、オメガだってやればできるんだと、この世の中に証明できる存在であったかもしれない。
僕が、他のオメガたちの、希望の光になることが…できたかもしれない。――しかし、僕らオメガ属が抱えているこれらの問題は、…いつも、ベータ属の人々のほとんどは重要視しないのだ。
彼らにとっては、どこまでも…オメガ属である僕のこの末路が、当然のことであるからだ。
でも、僕は前々からこう思っていた。
マジョリティの問題はもちろんだが――そのうえでマイノリティの問題も、社会の問題とされるそのどれもがみんな、解決しようと考えられるべきなんじゃないのか、と。
少数派だからと我慢し、多数派と同等の権利を得られない。――その権利をもらいたいと声をあげれば、…調子に乗るな、声がデカい、引っ込んでろといわれる。…自分たちだってつらいのだから、それくらい我慢していろ、と。
僕は、叶うなら一人一人にフォーカスしてほしいのだ。
属性も、性別も、マジョリティだ、マイノリティだ、そんなことは何も関係ない。――同じ税金を払う、同じ国民なのだ。…国民という、社会という単位で見る前に、まず一人を見るべきじゃないか。
なぜなら、そのコミュニティを作っているのは――ヤマト国民、一人一人、個人個人だからである。
個人が集まってできているのが国だ。一人が集まってできているのが、全員が属するコミュニティだ。――一人一人の悩みが共通することはないかもしれない。…みんなそれぞれ、悩みも問題もかかえて生きている。
でも、この国に生まれた時点で、僕たちは全員同じ権利を有しているはずだ。――アルファ属と同じ権利を与えてくれというんじゃない。…せめてベータ属と同じ権利を、僕らオメガ属に与えてくれと言っているだけだ。
一人一人の悩みや、問題が――一つ一つ、解決してゆくべきだ。…なぜマイノリティだからと、問題じゃないように捉えられてしまうのか。
誰しもの権利を守りながら――誰かに新たな権利を与える。…それを模索してゆくのは、国民全員だ。
駄目だ駄目だと頭ごなしに否定し、その苦しいと喘ぐ声を封殺する…――なんとなく嫌なイメージがあるから、なんとなく自分に不利益がありそうだから。
それじゃ駄目なのだ。
少数派である僕たちの権利を考えることなんて、正直面倒かもしれない。
自分には関係のない人のことなんて、どうでもいいものかもしれない。――でも、たとえば自分の子供が、オメガ属で生まれたら?
子供がオメガ属で生まれなかったとしても、学校に、オメガ属の子がいたら?
どんな問題も、完全に関係ないなんてことはない。
もちろん、誰の権利も侵害されてはならない。――でも、本当に僕たちが求めている権利は、彼らの権利を侵害するものなのだろうか。…もし侵害してしまうことがあるなら、駄目と言う前に、そうならないような方法はないのだろうか。――それをともに、ヤマト国民という仲間として模索してゆける道は、ないのだろうか。
そもそも、僕たちマイノリティが求めている権利は、本当にほかの誰かの権利を侵害するものなのだろうか。――自分とは違う属性だから関係ないと軽視され、むしろ…声をあげれば、迷惑がられてしまう。…それくらいのこと、我慢していろと。
お前たちが我慢していたって、社会は上手く回ってゆくんだから、と。――解決しなくたって、自分たちには何も問題ない、これまでだって、何も問題はなかった。…と。
それは…今までは僕たちが見えていなかったからだ。
僕たちの声が、大きくなって――大きくしてもらって――やっと彼らに、聞こえたからだ。
その大きな声を、うるさい、邪魔だ、強要するな――むしろ自分たちへの差別だ、という。
僕たちの声が大きくなっていなかったら、僕たちが抱えている問題について、彼らは知らなかったはずだ。
理解を強要するな――以前どおりに差別することは、自分たちの権利だ。…目障りだから目につかない場所で生きていろ。それを許さないなら、逆差別だ。
そう言う前に――我が身に置いて、想像してみてくれ。
あるいは今持ち合わせている自分の性別や、属性が――差別され、同じようなことを言われるものであったら、と。
変化は怖いかもしれない。
世の中が今と違ってしまうのに、不安があるかもしれない。今まで抑圧されていた僕たちが太陽の下に出てきて、自分とは違う属性の僕らが目に見えて、嫌な気持ちになるかもしれない。――でも…今いる人はいずれ死に、そして、毎日新たに人が生まれている。
人が変われば、世の中も、変わり続けるものだ。
変化に終わりはない。――たとえ自分が死のうとも、人が生き続ける限り、国は、社会は変わり続ける。
変わり続けて――今がある。…目の前に、僕たちがいる。
事実、そこに苦しんでいる人がいるというのに、苦しんでいろ、と言うのだ。――解決なんかさせるものかと、僕たちを抑えつける人々がいるのだ。
彼らにとっては、僕たちがこうであるほうが…僕らが地中に、夜にいたほうが、心地よく、都合がいいからだ。
でも…――みんなが自分のことを理解されたい。みんな叶うなら自分の問題が、悩みがなくなってほしい。
そこには、性別も、属性も、何も――多数派も、少数派も、何も関係ないはずだ。
みんなが同じように思っている。
悩みや問題の内容は違っても、思いは同じだ。
みんなが安心して暮らしたい。みんなが幸せになりたい。…ならばまずは、自分が誰かの問題を解決しようと、考えてみるべきじゃないのか。――情けは人のためならずというじゃないか。…やがてそれが、自分の問題解決や、幸せに繋がることだってきっと、あるのだから。
みんな…本当は、繋がっているのだから。
言わないだけで、隣にいる人が――自分にとってはどうでもいい問題を、抱えている人なのかもしれないのだから。
みんなで、みんなを理解し――問題を、一つ一つ、解決してゆく。…それじゃ、駄目なのか。
誰かの不幸も、悲しみも、苦しみも理解し――それと同時に、誰かの幸福も、喜びも、各々が定めた幸せへの道も…みんなが理解を示すべきじゃないのか。
何も深い理解をしろというんじゃない。ただシンプルに、つらかったねと言うだけでいい。――ただシンプルに、おめでとうと言うだけでいい。
その上で自分にできることがありそうなら、それをすればいい。
誰かだけが不幸なのではなく――誰かだけが、妬まれる人生を歩んでいるんじゃない。
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