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じゃあ僕らオメガ属の現実として、いったいどうやって金銭を得て、生活しているのか――。
それは…性的な職業――つまり“アダルト業界”だ。
たとえば風俗店、AV俳優など、残念ながらオメガに一番“ふさわしいとされる職業”は、他種族の性を満たす仕事とされている。――また実際ほとんどのオメガ属は、そういった職業、特に大多数は“オメガ専門風俗店”で働いているのが現状である(とはいえ、アダルト業界で働いているのはオメガばかりではなく、人数差もあってか数としてはベータのほうが多い)。
あるいは僕のように、ベータの誰かに飼 わ れ て い る 性奴隷も、オメガの中には多くいる。――働くことさえできず、ただご 主 人 様 に囲われて暮らしているオメガも事実多いのだ。
そうした僕らオメガは、おもにマジョリティであるベータの人々にこう揶揄されている――“性奴隷向きの体”。
正直、非常に悔しいが…なぜ僕らオメガがこう言われてしまうかというと、その実ただ“オメガ排卵期”によって、無意識に他種族を誘ってしまうから、という理由だけではない。
その生まれつき持ち合わせている名 器 っ ぷ り 、そして赤ん坊のような柔らかく触り心地の良い白い肌、小柄な体と可愛らしい童顔、甘い香りの肌は味覚的にも甘い…――そうした要素は、多くのベータ属の人々の目にはまるでセ ッ ク ス を す る た め だ け に 生 ま れ た かのような、いわば“ラブドール”のように映るそうなのだ。
現にゲイではない男性であっても、可愛らしい少年のようなオメガ男性なら性愛対象として見られるという人も多い。…あるいはオメガ女性の、小柄で可愛らしい少女のような風貌に、似つかわしくないほど大きくたっぷりとした白い乳房や、その腰回りの発達具合からも人は、“いやらしい体”だと思っている。
オメガは、そのオメガ属の肉体が存在しているだけで、肉欲をそそられるようだと言われるのだ。…そもそも、僕らオメガは匂いのみならず体液が――汗や唾液、精液や愛液まで――ほんのり甘いんだそうで、それもまた他種族にとっては「た っ ぷ り 舐 め ら れ る た め だ け に 甘 い のだろう」、などといやらしい目で見られる要素だ。
まして、オメガ排卵期中のオメガの膣内は、男性器の射精に合わせて勝手に、精 液 を 搾 り 取 ろ う と す る 膣 内 運 動 までしてしまう。――悪いことに、これはオメガにとっての生理現象であるため、たとえオメガ排卵期中にレイプされたオメガの膣内であっても、ナカで射精されてしまえばそのように動いてしまうものなのだ。
そのせいもあり、僕らはずいぶん長いこと“淫蕩な種族”だとみなされている。――本当に無理やり犯されてしまったとしても、でも感じているじゃないか、体は喜んでいるじゃないか、やっぱり嬉しいんじゃないか。…なら、レイプじゃない、と、いわゆるセカンドレイプの被害にも合いやすい。
その上で僕らは、他種族にしてみればまるで「早く犯して、誰でもいいから自分を妊娠させてください」と求めているかのように、オメガ排卵期中は強く濃いフェロモンを香らせてしまう。
たとえそのフェロモンが、他種族の理性を崩壊させるほどの効力などなかったとしても、だ。…たとえそのフェロモンの香りを抑制剤で抑え、自分がそれによってムラムラなんかしていなかったとしてもだ。…抑制剤を飲めば僕らだって、セックスのことばかりで頭いっぱいな馬 鹿 にはならない。――そうであったとしても、なのだ。
およそ他種族の女性では味わえないような名 器 を持った、世間的に数少ないオメガがそこに居るとわかった時点で、さらにオメガ排卵期中だとバレてしまったらいよいよ“チャンス”と、結局はその人々の理性を揺らがし、性欲を強く煽ってしまう。
しかし――いうなればそれは、その人らの認識的な肉欲であり、僕らオメガ属からしてみればいたって迷惑な話なのだが。
つまり世の風潮的に見れば、僕たちオメガはそうした体を持っているばかりに、“体で稼ぐしかない種族”であり、それ以外の能力は他種族よりも劣っているとさえ見られている。――オメガは馬鹿でひ弱で淫乱、セックスのことしか考えていない無能な種族だが体だけは一級品、というイメージが根強くあるのだ(現状、性的奉仕の職業にしか就きにくいというのも、このイメージを定着させるのに手伝ってしまっている)。
まあひ弱、というのは、大多数のオメガが小柄で筋肉がつきにくい体質であるために仕方ないのかもしれないが、オメガだからといって頭が悪いかといわれたら、その実決してそうではないのだ。――事実、人間生物学的に見れば、(アルファはそもそも抜きん出ているので例外だが)オメガ属とベータ属の平均IQの差は見られなかった、という論文が海外で発表されている。
だというのに…僕たちオメガのほとんどは、行けて高校までだ。――なぜなら、アダルト業界以外の職種に就けることのない僕らに、学歴など不要だと思われているからである。…別に国が禁止しているわけではない。大学が、オメガ属の生徒をオ メ ガ だ か ら という理由で拒否することも、いまや国から明確に禁じられている。
しかし、世の中の風潮的にはまだまだオメガに学歴は不要だという認識が根強く、オメガの両親も無駄金だからと、大学に通わせない人も多いのだという。
そうしたオメガへの、世間の淫乱で馬鹿だというイメージばかりは結局、いまだに書き換えられる気配がない。
海外ではオメガ属の研究が進み、ヤマトでも少しずつオメガの人権保護運動も広がっているようには思うが――そもそもオメガの絶対数が少なく、またそのオメガたちもベータに支配されがちな現状から、オメガ本人が声を上げる機会自体が奪われているのだ。
だいたい、オメガ属の本当のことを知っていたとしても、他種族にしてみればマイノリティである僕たちオメガの境遇をどうにかする、というより多数派のベータは、この社会に多くいる自分たちの問題のほうを先にどうにかしてくれ、と声も大きく、オメガの問題はいつも社会に後回しにされがちなのだ。
少数派の問題なんかより、多数派の問題を解決するほうが先決で、それはすなわち社会の問題を解決することに繋がっているのだから…と。――国会も実にそのような姿勢だと、僕は思う。
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