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                 そうして…――左からモウラ、ケグリ氏、ズテジ氏の並びで、ステージ上にその三者が土下座した。  そしてケグリ氏が、泣きそうな声でこう謝罪する。   「っ申し訳ありませんでした、…」   「え…? ククク…全く、還暦間近ともなって、恥ずかしくないのですか、ケグリ…?」    しかしソンジュさんは、暗い微笑みを浮かべながら、ケグリ氏のざんばらな後ろ頭を、その艶のある茶色い革靴で踏み付けた。   「…お前たちはあまりにも頭が悪すぎるようですので、俺がヒントを差し上げましょう。――貴方がたは、()()()()。謝っているんだ…?」   「……ッグ…、…」   「…………」   「…………」    グッと悔しげに喉を詰まらせたケグリ氏、ほかの二人は黙り込んでいる。――そんな三人に、ソンジュさんは片脚を上げたまま(ケグリ氏の後ろ頭に片足をのせたまま)、サングラスをスチャ、と外し、その切れ長の目を鋭くしてケグリ氏を見下ろしつつ。   「…俺は。()()()()()()()()()、土下座して謝れ、と言ったのですよ…――いえ、もちろん。…ユンファさんが性奴隷だ、肉便器だなんだというのは、お前らの迷妄に違いありませんがね。…」   「……っ、…っ、…っ」    すると、さすがのケグリ氏も屈辱にか、その太った体をぶるぶる震わせている。――そんなケグリ氏の後ろ頭を、ソンジュさんはグリグリと軽く足首を回して踏み付ける。   「…なるほど…貴方がたは謝罪の言葉もわからないほど教養もなく、非常に頭がお悪いようです…――では、私が謹んで教えて差し上げますよ。さ…繰り返しなさい…」   「……、…ぅぐ…っ」    ケグリ氏が唸る。――痛むのか、屈辱のせいかはわからないが。…モウラとズテジ氏は何も言わない。  ソンジュさんは妖しく微笑み、ケグリ氏の頭を踏み付けながらもサングラスを懐へとしまうと、…その暗い切れ長の目を鋭くして、愉快そうにその人らの背中を見下ろす。   「…“五条ヲク家にお生まれになった、私らが見上げるほどご身分の高いユンファ様に、身の程もわきまえず大変なご無礼を働いて、誠に申し訳ございませんでした。”――はい、どうぞ…?」   「…んグッ、…っグぅぅ…」   「…………」    唸るケグリ氏。黙って頭を下げ、震えているモウラ。  しかしズテジ氏だけは、頭を下げたままでボソリ。   「…()()()便()()が、五条なんかに生まれているわけ、…」   「おいおい…この期に及んで、お前はまだ自分の立場すら理解できていないようだな。――このオス豚が。そこまでの馬鹿だとはね…、なるほど、どうりでケグリの子供です…」    ただしケグリ氏はそう言われても、ソンジュさんにおもねた。「バカタレ!」とズテジ氏を叱り飛ばす。   「…………」    とてもピリピリとしたこの雰囲気に、僕まで胸がモヤつき、胃がキリキリしてくる。  ただ嫌な気分というよりは、僕まで何かアドレナリンがガアッと回って、胸がドキドキしてくるのだ。    ソンジュさんはケグリ氏の頭から足を退かした。  そして彼は、するり…僕の腰を上へ撫でて、おもむろに僕の背中を撫で上げ――今度は僕の肩を、抱いてくる。  そして彼は、土下座する三人へ、上からこう命じた。   「…まずは一旦、全員ユンファさんの目を見ていいですよ。――それから改めて、頭を下げなさい。」   「……っ、…」    それにまず従ったのは、やはりケグリ氏だった。――ただやや遅れてモウラも、ズテジ氏も頭を上げた。…彼らは不満げな目を僕へと向け、ことにズテジ氏はあとで覚えてろよ、というような憎しみのこもった目を僕へ向けた。  ただケグリ氏だけは、立っている僕を見上げて、怯えたように目を見開き、ふー、ふーと荒くなった鼻息をもらしながら、そのギョロリとした目にいっぱい涙をため――険しく、赤らんだその顔を一瞬僕へと向けるとケグリ氏は、…床に手を着き、カバリと頭を下げてきた。   「…見上げるほどっご、身分の高いっユンファ様に、身の程もわきまえず、…大変なご無礼を働いて、まっ誠に、…申し訳ございませんでした、…」    土下座し、切羽詰まった声でソンジュさんにそう言わされた格好のケグリ氏。  彼に合わせて、両脇の二人も頭を下げた。――しかし、ソンジュさんは「お前らも言うんだよ」と低く、地を這うような声で言った。  すると先にモウラが、震えた小さな声で。   「…ご無礼を働いて…申し訳ありませんでした…」    と、言うが。  ソンジュさんはクク、とそれをあざけり笑うと、僕の肩を手放して、ややモウラに歩み寄り、…今度はモウラの後ろ頭を踏み付けた。   「…ユンファ様。この度は身のほどもわきまえず。…私は調子に乗って、貴方に大変なご無礼を働いてしまいました。誠に申し訳ございませんでした。――だろ…? その年になって、そんなこともわからないのですか…」   「……っ、…っユンファ様、…私は身のほどもわきまえず、調子にのって大変なご無礼を働いて、しまい…ま、誠に…申し訳ございませんでした、…」    モウラは泣きそうな声でそう、僕への謝罪の言葉を、繰り返した。         

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