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                「……っ」    僕は思わず目を細めた、ソンジュさんが殴られると思ったからだ。――ただそれと同時に、助けなければ、とも思って急ぎ何歩か前に、…やや前にいる彼へ歩み寄った、のだが。      何が、起こったのか――。     「……っ! んぅぅ゛…ッ」    ドタ、と、後ろに倒れ込み、ステージの上に座り込むよう、派手に尻もちをついている――ズテジ氏が、自分のみぞおちを押さえて唸っている。…「ズテジ!」とさすがに頭を上げたケグリ氏は、ズテジ氏の肩を持ち、…モウラはそこに正座して、ぼーっとした暗い顔でズテジ氏のことを後ろから眺めている。    一方、倒れ込んだズテジ氏の前に平然と立っているソンジュさんは、自分の乱れたネクタイを正しながら。   「…調子に乗っているのは、いったいどちらでしょうね。――ふふふ…、アルファの力に、ベータが(かな)うとでも…?」   「…っぐぅ、…う゛ぅ……」    腹を押さえて鈍く唸るズテジ氏は、もうソンジュさんのことを睨み付けることはなかった。――ソンジュさんは平然と、今度は上がったベストをピンピンと下ろして整えている。   「…弱い犬ほどよく吠えるとは、まさにこのことだ。いえ、そもそも太った家畜のオス豚では、狼に勝てるはずもありません…――いやはや…ことわざ、というのはその実、過去の人々の叡智が詰まった格言に違いないな。…」   「…………」    彼のやや後ろに立ち、呆然としている僕に振り返るソンジュさんの手が、「ユンファさん、さあこちらに」と優しく、僕の体に――腰に伸び、そこを抱かれ…またソンジュさんは僕を彼の隣、ステージの真ん前へと導いた。  そして彼は、やや怯んでいる僕に顔を向けたまま、なぜか弁明するようなことを言う。 「…いえ、今のは正当防衛ですよ、ユンファさん。私は今、殺すと脅され、殴られそうになったのですから。――九条ヲク家に生まれて、護身術を学ばないわけもないでしょう。まさしく今の行為は、九条ヲクの者としての、護身の一環です。…」   「……は、はい、それは理解しています…、…」    いやそうではなく。――もちろん過剰なほどの暴力を追加しなかったソンジュさんのその行為が、正当防衛に当てはまるということ自体は納得もできるのだが。  どちらかというと僕は、今のこの状況に怯え、困惑してたまらないのである。   「それはよかった。」それからソンジュさんは改めて僕の腰を抱き――目の前のズテジ氏を見下ろすように、顔を伏せる。   「…さあ…そんなことどうでもいいから、お前も早く土下座なさい。――ご自分の身が、可愛いのならね…」   「……っ」    ひっと怯えたようなズテジ氏は、すぐさまバッとその場に土下座した。           

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